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内外知性の眼―時代の流れを読む
アメリカ、北の核容認へ政策転換――正念場に立つ決め手ない安倍首相〈鈴木顕介〉
〈すずき・けんすけ:元共同通信記者〉
ブッシュ米政権の対北朝鮮政策は、核保有を容認し、北朝鮮の体制存続を保障する路線に転換した。アメリカは現実のものとなった北朝鮮の核保有を前提に、東アジア情勢の安定化を図ろうとしている。北朝鮮の急激な体制崩壊を望まない中国、韓国にとってアメリカの政策転換は望ましい。
北朝鮮の核をめぐる6か国協議における中・韓融和路線対米・日強硬路線の構図は崩れた。対北朝鮮強硬路線を変えられない安倍政権は、米朝直接交渉の急進展で苦しい選択を次々と迫られている。
・選択の余地ない路線変更
なぜアメリカは路線を変更したか。答えは「変更せざるを得なかった」である。他の選択肢がなかったのが最大の理由といえる。
理由の第1は中東情勢である。
イラク戦争の泥沼化に加え、イランの核開発はアメリカの安全保障にとって最大の脅威である。イスラーム急進主義の中核国家イランの核保有は、軍事的脅威だけでなく、イスラエルの存立を含めたアメリカの国益に深くかかわる中東情勢に大きな影響を与える。焦眉の急のこの中東情勢に全力を注ぐためには、北朝鮮と軍事的に対決する2正面作戦は避けねばならない。
ブッシュ大統領は2002年1月の一般教書演説でイラク、イランと並んで北朝鮮を「悪の枢軸」と名指しした。9.11同時多発テロを受けたアフガニスタン侵攻で首都カブールを占領、タリバン政権を当面崩壊させた成果に高揚していた時だった。政権中枢を握っていたネオコン(新保守主義者)は、北朝鮮政権を抹殺すべき相手としていた。
アフガン侵攻に続く03年3月に始めたイラク戦争は、いまや、イスラーム宗派間対立を中心とする内戦となり、解決の糸口すら見えない。この状況下でブッシュ政権は06年11月の中間選挙で大敗した。直後のラムズフェルド国防長官の辞任が象徴したように、政権内からネオコン勢力はチェイニー副大統領を残して去った。北朝鮮との軍事対決路線は消えた。
理由の第2は、北朝鮮の核を放棄させる手段がないことである。
北朝鮮が体制存続の唯一の切り札として核武装を進めている以上、核の究極の排除は、現政権の崩壊でしか実現できない。しかし、軍事的手段はまず第1の理由から取り得ない。北朝鮮の軍事的反撃から日本、韓国を守り通せる保障もできない。しかも、周辺国の中国、韓国は、武力攻撃による北朝鮮の急激な崩壊で朝鮮半島情勢が急変することを望んでいない。中国、韓国は軍事的手段に代わる話し合いによる解決に不可欠な存在であり、この意向は無視できない。
非軍事的手段で北朝鮮の現体制を崩壊させる最後の試みが、05年9月に発動した金融制裁である。マカオのバンコデルタアジアにあった2500万ドルのドル口座を違法資金として凍結しただけでなく、これによって世界の金融システムから北朝鮮の締め出しを図った。これを体制存続の危機ととらえた北朝鮮は、06年7月5日のミサイル連続発射、10月9日の核実験で応えた。北朝鮮が核カードを切ったのである。
アメリカは前クリントン政権が、北朝鮮の核開発を止めるため、1994年に「米朝枠組み合意」を取り交わした。この合意は北朝鮮の核開発疑惑から軍事衝突寸前まで緊張した米朝関係打開の産物だった。実験用原子炉の凍結と、見返りの軽水炉型原子炉の提供、その建設中の重油供給が柱となっていた。
ブッシュ政権は、北朝鮮の体制崩壊を掲げはしたが、イラク戦争との取り組みを優先するため、話し合い路線を取った。米、日、中、韓、ロと北朝鮮による「6か国協議」という場を03年8月に立ち上げ、非核化を目指した。02年10月北朝鮮のウラン濃縮計画発言をきっかけに「枠組み合意」が崩壊し、IAEAの要員退去、核燃料棒再処理着手と、野放しとなった北朝鮮の核開発に歯止めをかけるのが狙いだった。曲折はあったが、6か国協議は05年9月に「北朝鮮の核兵器と核計画の放棄」を核心とする共同声明をまとめた。しかし、アメリカはその一方で金融制裁に踏み切り、共同声明の実現は宙に浮いた。北朝鮮はその間に着々と核開発を進め、核兵器を手にしていたのである。
・直接の脅威でない北の核
核実験直後の2006年11月の中間選挙で共和党が敗北、ブッシュ政権の北朝鮮政策は一変する。ブッシュ大統領が一貫して否定してきた米朝直接協議に踏み切ったのである。舞台を去った北朝鮮強硬派に代わり、これを主導するのは、ライス国務長官と6カ国協議米代表ヒル国務次官補である。今年1月のベルリンでの北朝鮮側との直接接触を手始めに、金融制裁解除と引き換えに次の骨子の「05年共同声明の実施のための初期段階の措置」をまとめた。
1.初期段階の措置として、再処理施設を含むヨンビョン(寧辺)の核施設の最終的には放棄を目的とする活動停止と封印。IAEA要員の監視と検証のための現場復帰。
2.共同声明で放棄するとされた全ての核兵器および既存の核計画(使用済み燃料棒から抽出されたプルトニウムを含む)の一覧表についての協議。
3.アメリカと北朝鮮は未解決の二者間の問題(米朝間では朝鮮戦争は終結していない)解決、外交関係樹立への協議。北朝鮮に対するテロ支援国家指定の解除、敵対通商法の適用解除。
4.日本と北朝鮮のピョンヤン宣言に基づく過去の清算と、懸案事項の解決を基礎とした国交正常化への協議。
5.北朝鮮に対する5万トンの重油に相当する緊急エネルギー支援の60日以内の開始。次の段階の期間中に総計100万トン重油相当のエネルギー、人道支援。
6.次の段階の措置で北朝鮮は全ての核計画についての完全な申告、黒鉛減速炉、再処理工場を含む全ての既存の核施設の無能力化。
この一連の取り決めは、ブッシュ政権が北朝鮮に要求してきた完全な非核化でなく、核保有を容認した上での核管理への方針転換を明らかにしている。この取り決めの初期段階はすでに実施に移されているが、次の第2段階にある「全ての核計画の申告と全ての核施設の無能力化」が抵抗なく実現すると見る人は少ない。最も問題となると予想されるウラン濃縮計画の検証ひとつをとっても、北朝鮮側が任意に提出した資料や決められた検査地点だけで、申告の真偽をつかむことはまず出来ないとアメリカ側の専門家はみている。しかも、共同声明でいう「約束対約束、行動対行動」の原則をたてに、北朝鮮は全ての措置と段階にストップをかけることが出来る。北朝鮮の現体制が少しでもアメリカの約束に不信感を持っている間、北朝鮮は絶対に核を手放さないというのが、アメリカの専門家の一致した見解である。
ではなぜ、アメリカは管理された北朝鮮の核保有を容認したのか。
アメリカは北朝鮮の核が当面アメリカ本土への直接の脅威となるとは考えていないからだ。運搬手段の大陸間弾道ミサイルの開発、核弾頭の小型化にはまだ時間がかかるとみている。一番の懸念は核物質のテロリスト集団への供与と、これを使ったアメリカ本土への攻撃である。軍事攻撃の手を縛られているアメリカだが、もしテロリストへ北朝鮮が核物質を渡したことが分かれば、北朝鮮の消滅であるというメッセージは再三伝えている。北朝鮮も体制維持の大事なカードを、このような形でのアメリカへの挑発には使わないとアメリカは踏んでいる。
アメリカに対抗する核抑止力の達成は国力から到底出来ない。まず、なんとしてでも実用化された核を持つ。次には運搬手段を含めた核兵器の高度化、ウラン濃縮計画など何らかの核にまつわる疑惑の種をつくり、常に相手に懸念を持たせる─アメリカは北朝鮮の核抑止政策をこう読んでいる。
・追い込まれる日本
アメリカが北朝鮮の核保有容認に踏みきる際に懸念したのは、日本の反応である。北朝鮮問題も一つのきっかけに日本ではナショナリズムが高まっている。これを背景に日本が核武装に踏み切れば、東アジア地域を不安定化させる連鎖反応の広がりは計り知れない。中国が6か国協議の取りまとめに熱心な理由のひとつは、日本に核武装を選択させないためである、との指摘もある。
アメリカは核の傘の保障の確認で当面日本の核武装への誘引を絶てると考えている。安倍首相もはっきりと核武装を否定し、当面この懸念は現実のものとなっていない。しかし、懸念と強い警戒感は、ライス国務長官が核実験直後に来日、核の傘の保障を再三強調したことに現れている。
麻生外相との会談後の共同会見(10月18日)でライス長官は次のように述べている。
「私たちは、この重要な時期における日米同盟の重要性について協議した。米国は、1960年の日米安保条約を含めた全ての安保体制上のコミットメントを含め、日本の防衛に対する米国の確固たるコミットメントを大臣に再確認した。自分は、ブッシュ大統領の、米国は日本に対する抑止と安全保障のコミットメントをあらゆる形で、繰り返すがあらゆる形で(full range)履行する意思と能力を有している、との10月9日のステートメントを再び述べた。我々の同盟関係は、この地域の平和と安定の重要な柱の一つであり、現在更に強固なものとなっている。これは全ての関係国が承知しておくべきことである。」(外務省訳)
対北朝鮮融和策に転換したアメリカの今後の出方によって、最も困惑させられるのは日本である。交渉の当事者ヒル次官補は電撃的な北朝鮮ピョンヤン訪問の後7月25日ワシントンで記者会見。席上、共同声明の第2段階の核施設の無能力化に入ったならば、直接関係のある国々の間で朝鮮半島の和平進展で協議に入る予定であると言明した。直接関係のある国としてアメリカ、中国、南北朝鮮の4か国を挙げた。これは05年9月共同声明の「直接の当事者が朝鮮半島における恒久的な平和体制について協議する」という項目の実施である。この当事者をいまだ法的には交戦状態が終結していない朝鮮戦争の直接の当事者に限れば、日本は当然除外される。しかし、朝鮮半島の恒久的平和に日本は深いかかわりを持っ当事者である。
日本は6か国協議に対北朝鮮強硬路線の米・日対融和路線の中・韓という構図で臨んできた。アメリカの路線変更でいやおうなく孤立するのは日本である。北朝鮮はこの機会をとらえて日本の孤立化を図ることは間違いない。北朝鮮にとって、中国の経済援助、韓国との経済交流に加え、"非核化"の段階を進めるための「行動対行動」としてテロ国家指定の解除、敵対通商法の適用除外が実現すれば、日本が持つ唯一の決め手、経済支援に当面頼る必要はなくなる。
小泉訪朝によるピョンヤン宣言に続き、日本が狙いとしていたのは、経済支援をテコとした関係改善、国交正常化であったであろう。これは当時北朝鮮も必要としていたものであり、日本を通じたアメリカとの関係改善も狙いであった。しかし、その後の中国、韓国との実質的外交途絶の環境を小泉首相自らが作り出したことでチャンスは失われた。
安倍首相は、拉致問題解決がいかなる北朝鮮政策進展でも前提であるという一貫した強硬路線で自らの手を縛ってしまっている。日本はいま、経済カードの価値が下がってしまい、相手の核カードの値が高くなり、北の核保有への唯一の対応がアメリカの核の傘という状況下に置かれている。何を決め手に拉致を含めた北朝鮮問題の解決を図るのか。共同声明のいう第2段階、重油換算100万トン援助の問題が取り上げられるとき、日本に負担は当然求められる。拉致問題を放置しないというブッシュ大統領の言質が試されるときであり、安倍首相にとっての正念場である。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔eye150:070711〕
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