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政治部・恩地洋介(7月16日)
「GHQが来た」。厚生労働省や社会保険庁が強く警戒する役所がある。年金記録漏れ問題で「年金記録問題検証委員会」と「年金記録確認第三者委員会」に加え、新たに「年金業務・社会保険庁監視等委員会」を設置することになった総務省だ。検証委で過去の失態を洗いざらい調べ上げ、確認委では社保庁に代わり領収書がない人への年金給付を判定、そして仕事ぶりを見張り続ける監視委……。厚労省や社保庁の役人にしてみれば、自らの領土を「進駐軍」に統治されるような屈辱感があるに違いない。総務省との水面下の攻防も激しさを増してきた。
なぜ三つの委員会が総務省に置かれたのか。背景には、いいかげんな組織運営を改めなかった社保庁のウミを出し切りたい首相官邸の意向があった。「社保庁には任せられない」とする安倍晋三首相が閣内で信を置く菅義偉総務相に託した格好だが、同省には社保庁に攻め込む有効な「武器」があると見なされたのも大きな理由だ。総務省設置法は、行政評価を目的とした他の行政機関への調査・勧告権限や業務のあっせん機能を定めている。例えば検証委は、記録漏れ問題の原因や責任問題をあぶり出すため社保庁に過去の資料の提出を求める必要がある。座長に松尾邦弘前検事総長というコワモテを据えたのも、社保庁の組織防衛を防ぐための圧力の一環だ。
一方、確認委の根拠となったのはあっせん機能。全国に50カ所ある行政評価事務所などに寄せられる苦情や要望を、各行政機関にとりつなぐ役割が本来の業務だ。これを社会保険事務所の機能を代替する年金支給の判定組織に衣替えさせる。当初は菅氏自身も及び腰だったが、官邸が押し切る形で設置にこぎつけた経緯がある。
7月7日夜、人けもなく静まりかえった土曜日の霞が関合同庁舎。省内で非公式に開かれていた検証委会合の報告を受けるため、菅氏が大臣室に姿を見せた。翌8日夕は同様に確認委の非公式会合の結果を聴取。その際、菅氏は周囲にいらだちを隠さなかった。「社保庁の対応は本当にひどい。これでは国民は納得しない」。
土日返上で徹夜に近い作業を続ける総務省の三つの委員会。しかし社保庁に提出を求めた資料は遅々としてそろわなかった。確認委は、社保庁に記録訂正の再審査が請求されていた284案件を報告するよう求めていたが、その時点で持ちこまれていたのはまだ150余り。「相談者の了解を得られていない」とする社保庁の言い分を、菅氏は「意図的なサボタージュ」ととらえた。
議論のすれ違いも浮き彫りとなっていた。厚生年金保険料を納めた記録があるのに、勤務先の会社などから国への納付記録がないため、年金給付が受けれられない事例は多い。これまで社保庁は「記録がないのは、事業所の未納が原因」として取り合ってこなかった。しかし確認委は「社保庁のミスで記録がないケースもあるに違いない」と疑っていた。社保庁にとっては、「未納企業」の社員への支給を認めれば、過去の自らの過失を掘り起こすことにもつながりかねない――。確認委と社保庁の言い分が平行線をたどった結果、確認委が9日に公表した基本方針で厚生年金問題は先送りとなった。
菅氏は講演でこんなエピソードを明かした。検証委のメンバーを発表した翌日の6月9日、菅氏の個人事務所にほぼ同じ内容の不審電話が8本もかかってきた。「なぜ『小山太郎さん』を選んだのですか。大臣を応援していたが、もうやめます」。声の主は複数。同委に「小山太郎」という委員はおらず、政治評論家の屋山太郎氏と名前を間違えたまま何者かが電話攻撃を指示したに違いない、と感じたという。屋山氏は第2次臨時行政調査会(土光臨調)にも参画するなど行革に精通する論客だ。菅氏は「組織をかけて社保庁は戦っているのではないか」と分析してみせた。
今、社保庁が血眼で情報収集に努めているのが、近く発足する監視委の準備状況だ。菅氏は委員会事務局そのものを社保庁内に置き、文字通りの「監視体制」を敷く方針。総務相が厚生労働相に業務の改善などを勧告する機能も政令で定めた。
社保庁は2010年1月に公法人の日本年金機構に移行する。「看板の掛け替え」などと批判されないよう、社保庁の業務改革に目を光らせるのが三つの委員会の役目だが、委員会が機能するかどうかはひとえに運営に当たる総務省の姿勢次第といえる。例えば総務相が持つ勧告権限には法的な強制力はなく、形だけに終わる可能性も否めない。
菅氏は自民党の社保庁解体議員連盟の事務局長を務め、社保庁による内部改革は困難として組織解体を提言した。総務相就任後はNHK受信料引き下げを巡りNHKや党の有力議員との駆け引きを演じた気骨の持ち主であり、社保庁には疎ましい存在だ。参院選が公示され、菅氏は連日地方の選挙区回りを続け、各地域ごとに設けられた地方の確認委に早速立ち寄って激励に努めている。当初はとまどい気味だった総務省の幹部も、最近では「年金記録漏れ問題は行政の信頼を揺るがした危機的な事態だ。同じ公務員として情けない」と意気込み始めた。
野党は3委員会のことを参院選向けのパフォーマンスと非難する。運用の手を緩めれば、国民から「屋上屋」の無駄と批判されかねないもろ刃の剣だ。とはいえ、無理を押して設けた委員会はすでに動き出している。参院選の結果がどうあれ、政府・与党は3委員会の行方に責任を負っている。
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