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(kojitakenの日記)
http://d.hatena.ne.jp/kojitaken/20070712
「きっこの日記」が投下した爆弾
http://www3.diary.ne.jp/logdisp.cgi?user=338790&log=20070711
だが、結局魚住昭氏が月刊「現代」の昨年5月号に書いた『“悪人” をでっち上げた霞が関の迷走と悪知恵』というタイトルの記事の妥当性を裏づけるものだったと思う。
同記事から引用する。
「住民のみなさんのお気持ちは察するに余りある。誠に遺憾。二度と起きないように指導を徹底していく」
昨年(注:2005年)11月17日、耐震強度偽装事件の発生を告げる国土交通省の緊急会見で事務次官の佐藤信秋はそう語り、完成済みのマンション2棟が震度5強程度の地震で倒壊のおそれがあることを明らかにした。
さらに週明けの21日、国交省は偽装の疑いのある21棟のうち16棟が震度5強で倒壊のおそれがあると発表。25日には「耐震補強が困難な強度(保有水平耐力比)0.5以下のマンション住民には退去勧告」という事実上の取り壊し命令を発した。その後、姉歯の偽装物件は約100件にのぼることが明らかになり、国交省の方針に従って取り壊されるマンション、ホテルが各地で相次いだ。
だが、こうした国交省の対応に構造の専門家たちから、不信の声が上がった。3月6日、「耐震偽装事件に何を問うべきか−本当の黒幕は誰だ−」と題して開かれた耐震工学研究会主催のシンポジウムでも、大学の研究者や実務家から厳しい批判が相次いだ。
「国交省が『震度5強で倒壊のおそれ』と発表したが、なぜそんなことが言えるのか? もし、それが間違っていたら、国交省がやったことは、計算書偽造よりもはるかに大きな犯罪になる」
「『強度0.5以下の建物は取り壊し』の方針にはまったく根拠がない。取り壊しの決まったホテルやマンションには、耐震補強で対応できるものがたくさんあるはずだ」
「この事件に黒幕はいない。あほな役人が、烏合の衆のエンジニアを集めてワーワー騒いでいるだけ。それにマスコミが乗って、何がなんだかわからなくなっている」
国交省の勧告で退去した住民や、取り壊しを決めたホテルのオーナーが聞いたら、目をむきそうな話のオンパレードである。
(中略)
東工大教授・和田章が語る。
「要するに構造設計というのは、設計者がどう思うかの世界なんです。耐震強度の判定も、どう思うかによって違ってくる。たとえば、偽装ホテルのオーナーから『ホテルを取り壊したくない』と言われた設計者が数値が大きく出るように計算すれば、国交省が0.5としたホテルが0.8ぐらいにできてしまう。逆にオーナーに『取り壊したい』と言われたら、0.6ぐらいのものでも0.3に小さくすることもできる。何で小さくしたのと尋ねられたら、『だって僕はこの壁は地震のときに利かないと思う』と言えばいいわけですから」
強度判定のばらつきは、使用する計算プログラム(大臣認定ソフトだけで106種類)の違いなどによっても生じる。こうしたばらつきが極端な形で現れたのが、姉歯が偽装した奈良県のビジネスホテル「サンホテル大和郡山」のケースだろう。県の調査では耐力比が0.47、建築士が依頼した再計算では0.67だったのが、民間検査機関・日本ERIの調査では0.94という結果が出た。
つまり国交省が発表した保有水平耐力比は、耐震強度を測る物差しの一つにすぎないのである。その建物を取り壊すかどうかを決める絶対的な数値ではあり得ない。
耐震工学研究会シンポジウムでは、構造設計のエキスパートとして知られる「構造設計集団」代表の渡辺邦夫がこう指摘した。
「震度5強で倒壊するという『京王プレッソイン茅場町』は見た感じ、しっかりしたホテルで何も問題ない。鉄筋量とか細部に問題あるかもしれないが、ちょっとした地震で壊れるとは思えない。壊れるとしたらロビーやレストランのある1階だから、1週間ほどかけて補強すれば当面使っていいわけです。それを国交省は即営業停止にした。おかしいですよ。こういうふうに補強したら、この建物は使えるよというのが国交省の役割じゃないか」
「それから姉歯さんが計算した湊町(二丁目)中央ビルの図面を入手したのでチェックしているんですが、1階平面図の柱と梁の平均せん断応力度が12 kg/cm2なんですね。こんなの震度5くらいで壊れるわけがない。それをなぜ、国交省はあんなことを言うのですかね」
これはもう、耐震工学を知らない官僚が過剰反応したか、民間確認機開やゼネコンなどを悪役に仕立てて自らの責任逃れをしようとしたか、そのどちらかと考えるしかないだろう。
(中略)
今回の偽装事件の背景には、よく言われるように、バブル崩壊後に熾烈化した建築業界のコストダウン競争がある。しかし、それと同時に国交省が作り上げた建築確認システムの恐るべき空洞化があることも忘れてはならない。
コンピュータ化と構造設計者の「奴隷」化により、「平面図とか立面図とか断面図を見ながら、本当の建物はどうなっているのかなと立体的なものを思い浮かべてみるという一番大切な作業」(東京工大教授・和田章)をできる者が建物をつくる側だけでなく、審査する側にもいなくなった。だからこそ姉歯の偽装は7年間も見破られなかったのである。
この空洞化を加速させたのは、米国の市場開放圧力に促された規制緩和路線だった。とくに98年の建築基準法改正は、それまでまがりなりにも危険建造物を防ぐ歯止めになってきた確認システムを変質させ、「規制緩和」ならぬ「安全緩和」の方向に転換させた。
この法改正では、「建築確認の効率化・スピードアップを」という米側の要求に応える形で、確認検査の民間開放が行われた。
「検査する側とされる側の関係に市場原理が入り込めば、検査する側は欠陥を指摘しないほうが建築主にとって都合がよく、また建築士側も厳しく欠陥を探すような検査機関を遠ざけるようになり、これが危険マンションをはびこらせる大きな原因となった」
と法政大学教授の五十嵐敬喜が言う。
また、98年の改正では、日本独自の「仕様規定」から国際スタンダードの「性能規定」へ、を謳い文句に限界耐力計算法が導入された。前にも触れたように、この計算法は従来の保有水平耐力比でいえば0.5程度の強度でも基準をクリアするともいわれている。極端な言い方をすれば、限界耐力法の導入は姉歯が偽装でやろうとしたことを、合法的手段でやれるように保証したようなものだろう。確認検査の民間開放と限界耐力法の導入で、建物の安全を支える建築確認システムは実質的に破綻した。それを白日の下にさらしたのが姉歯の偽装事件だった。
(月刊「現代」 2006年5月号掲載 魚住昭 『“悪人” をでっち上げた霞が関の迷走と悪知恵』より)
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