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http://www.magazine9.jp/desk/070711/070711.php
私の故郷は、東北の小さな町です。他の地方小都市の例に漏れず、小さな駅からまっすぐに伸びる商店街は、見るも無残な状況です。
かつての賑わいがウソのように、小さな商店の閉じられたシャッターには、閉店を知らせる貼り紙が、半分はがれて風にパタパタと揺れています。そんな店が、商店街の3分の2ほどを占めています。
クルマ社会が訪れる前に賑わった商店街です。当然、道幅は狭く、小さな店には駐車場などありません。モータリゼーションに、ついてはいけなかった町です。置き去りにされ、なすすべもなく、シャッターに賑わいを譲らざるを得なかった町です。
そんな町でも、私にとっては故郷です。
母親が寝たきりになりました。介護(とはいえないほどの見舞い)に、最近はわりと足繁く帰郷しています。
とにかく親に心配を掛けぬよう、それが、私に今できる、精一杯の親孝行です。寝ている母の髪を撫で、麻痺して動かぬ左手をさすってやります。母は、嬉しそうに笑います。話しかけると、「ん? ん?」と聞き返します。耳がとても遠いのです。
それでも、コミュニケーションはとれます。
そんなことが、親にストレスを与えないことが、いつまでたってもこの母の子である私にできる、親孝行です。
だから、私は、赤城徳彦農水相を、憎みます。
彼は、ひどい。ほんとうに、ひどい。
彼は、親にウソをつかせたのです。
赤城徳彦農水大臣の、事務所費付け替え疑惑です。
構図は、まったく自殺した松岡利勝前農水相と同じ。しどろもどろで、赤城大臣をかばい続ける安倍首相の姿も、どこかで見た光景。デジャヴュというやつでしょうか。
でも、こんな政治家たちの醜悪さは、とりあえず別の話。ここで言いたいのは、赤城大臣のご両親のことなのです。
彼の母親は、自宅が事務所とされている、などということにまるで気づいていませんでした。そんなことについて、考えたことなどなかったと思います。普通に生活していた、普通の息子思いの母親、と見えました。
だから、突然押しかけた報道陣に対して、何の隠し事もせずに、「ここでは事務所活動などしていませんよ」と(普通に)答えたのでしょう。父親も、ほとんど同じような対応だったようです。
ところが、2日後、両親の態度は一変しました。
自分たちが住む自宅は、「事務所として、さまざまな会合に使用していました。自宅兼事務所として使っていたんです」と答えざるを得なくなったのです。
テレビ画面は残酷です。事務所であることを装うために、急にペタペタと貼り巡らしたのであろうポスターが、むしろ悲哀の情を誘います。おどおどと、うまく説明できずに口ごもる母親の姿が、痛々しい。
それについて報道陣に「親に、口裏合わせを頼んだのか?」と問われた赤城農水相は、「そんな事実はない。親が、何か勘違いをしていたのではないか」と答えたのです。
近所の人たちや、後援会会長とされる元県議の証言も、「ここが事務所として使われていたことはない」と、すべて事務所説を否定していました。ところが、この後援会会長の話も、2日後には、両親と同じようにあやふやなものに変わりました。
周りの人すべてが、たった1,2日の間に、前言を翻す。こんなことが、勘違いや思い違い、記憶間違いのせいだったはずがありません。誰かが、前の言葉を訂正してくれるように頼んだとしか考えられない。普通の人の、それが普通の感覚です。
しかし、赤城大臣は「勘違い」を主張して譲りません。
もちろん、親分の安倍首相も、「たった800円の電気代で、罷免しろというんですか?」と、例によって逆切れ状態です。数十万円を使った年もあるというのに、いちばん少額な年度だけを取り上げて、赤城さんは正しいことを言っている、と強弁するのです。
こんな安倍さんに、いまさら倫理や道徳を説いても無駄でしょう。だから安倍さんについて、これ以上は書きません。
しかし、私は、赤城徳彦という若い政治家を、憎みます。
この48歳、当選6回で、祖父・赤城宗徳元農水大臣の跡を継いだ政治家は、自らの身を守るため(もしかしたら、安倍首相の任命責任を守るため)、両親にウソをつくことを強要したのです。
静かに田舎で暮らしている両親に、自分のためにウソをついてくれ、と言ったのです。この母親、どんな思いがしたでしょうか。
もちろん、最愛の息子のためにウソをつくことに、ためらいはなかったでしょう。しかし、その胸に深くて黒いものが巣食ったことに間違いはないはずです。赤城徳彦農林水産大臣、そんなことは考えなかったのでしょうか。母親の悲しさに、まったく思い至らなかったのでしょうか。
安倍首相のあの「教育改革」とは、こんなことだったのか。
親にウソをつくことを強要するのが、安倍首相の、そして彼の閣僚たちの「教育改革」だったのでしょうか。
ああ、美しい国-----。
(小和田志郎)
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