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時評・2世政治の愚かさと危うさ 2007/01/16
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戦争を始めるのは簡単だが、終わらせるのは難しい。日本では第2次大戦の苦い経験がある。「終戦」など口にするだけで憲兵に狙われたのだから、まさに国民全体が狂気に陥っていたのである。せめて3月10日の東京大空襲で終戦としたなら、その後全国主要都市の空襲による犠牲、とくにヒロシマ・ナガサキの被爆による犠牲も、そして沖縄地上戦の犠牲もなかったのである。
3月10日は陸軍記念日だった。米軍の意図としては、陸軍記念日だからこそ、日本陸軍にもはや戦闘能力はないという現実を見せつけ、日本の降伏を勝ちとろうというところにあったのだろう。しかしそんな意図はまったく通じなかったのだからひどい。
日露戦争のときは、終戦を決断するメカニズムがあった。兵員、戦費などあらゆる側面から見て、日本の戦闘能力は尽きていた。ポーツマス条約は日本にとって極めて有利な内容だったのである。しかし調印した外相・小村寿太郎は国賊扱いされ、日比谷焼打ち事件まで起きた。終戦の決断はできたのだが、それが国民に総スカンを食ったということになる。
米国はいま、イラク戦争を終わらせるという難事業に直面している。10日夜、米大統領ブッシュは、視聴者の注目を集めるプライムタイムのテレビ演説で、「2カ月間のイラク政策見直し作業を経てたどり着いた決断」を米国民に伝えた。その「新政策」は2万1500人の増派など、戦力の追加投入だけ。
ベーカー元国務長官を中心とする超党派諮問機関「イラク研究グループ」が昨年12月、政策見直しを勧告した際、ブッシュは「提言を真剣に受け止める」と述べた。しかし新政策には、戦闘部隊の08年初頭までの撤収や、イラン・シリアとの対話開始などは盛り込まれなかった。ブッシュは同グループの勧告と逆の路線を選択したようだ。
イラク戦争と対照的なのが、1991年の湾岸戦争だった。1月17日開戦、2月28日終戦で、たった43日間の短期間で終わった。当時の米大統領ブッシュ(現大統領の父)の意思は「打倒サダム・フセイン」だと推測されていたが、「クウェート解放」を掲げた多国籍軍としての軍事行動である以上、イラク占領まではできなかった。
米国防総省(ペンタゴン)のトップとして湾岸戦争に取り組んだ職業軍人たちに焦点をあてたのがボブ・ウッドワード著「司令官たち」(石山鈴子・染田屋茂訳、文藝春秋、1991年6月刊)である。
米軍の司令官たちにとって湾岸戦争は、絶対に負けられない戦争であった。あのベトナム戦争以来、世界の注目を集めて戦う最初の戦争なのである。ベトナム戦についで「連敗」などということになれば、米国の世論は「軍解体」に突き進む可能性さえある。当時の統合参謀本部議長・パウエル(後に国務長官)ら、米軍のトップたちは、そのことを極めて強く意識していた。
クウェート解放が確認されたら停戦というのは、「負けない」ための手段でもあった。正規軍同士の闘いなら米軍は負けない。しかしゲリラ戦に引きずり込まれたら「第2のベトナム戦」になってしまう……。クウェート解放で停戦というのは、司令官たちの「負けない戦略」でもあった。
いま米国のホワイトハウス・ウオッチャーたちは「43代は41代の登場を嫌がる」と言っているらしい。43代とは現大統領のブッシュ、41代とは元大統領の父ブッシュとその政権を支えたスタッフのことだ。「41代」の国務長官・ベーカーの登場は「43代」がもっとも嫌うパターン。だからこそ新政策は、研究グループ勧告と正反対の内容になったというのである。
そこまで考えるなら、子ブッシュによるイラク戦争開戦そのものが「父ブッシュがなし遂げられなかったサダム・フセイン打倒という業績を勝ち取るため」という不純な野望によるものでなかったかどうか検証すべきだろう。
もはやイラクは「第2のベトナム」となっており、米国が多大な犠牲を出しただけの惨敗に終わることはあまりにも明白だろう。戦争による米軍人の死者はすでに3000人を超え、米国のメディアは「9・11同時多発テロの犠牲者2983人を上回った」と指摘している。
子ブッシュは「暗愚な大統領」として歴史に残るのだろうが、愚かな戦争を支持し、最大限の協力を実施した小泉純一郎、安倍晋三両首相の責任はどうなるのだろうか? それを問えないで、何が民主国家だろうか? 米国というトラの威を借りるキツネを演じてばかりでは、「国際社会における責任を果たす」ことにもならない。
安倍の場合「岸信介コンプレックス」はかなり強い。「改憲」を政治目標としているのは、「昭和の妖怪」が果たせなかったことを成し遂げようという、子ブッシュ同様の愚昧な野望ではないだろうか? 「2世、3世の政治」も終わらせなければならない。
JANJAN
http://www.janjan.jp/media/0701/0701158072/1.php
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