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原爆「しょうがない」と「仕方なかった」の違い=横田信行(長崎支局)
◇相互理解を目指す本島氏−−久間氏には苦悩見えず
被爆地・長崎選出の久間章生衆院議員(66)が6月30日、講演会で原爆投下を「しょうがない」と発言し、3日後に防衛相を引責辞任した。「歴史認識を欠く発言」で、辞任は当然のことだ。
一方で、同様に「仕方なかった」と10年近く発言し続ける人がいる。1979〜95年、長崎市長を務めた本島等さん(85)。表現は似ているが、思いや経緯はまったく違う。2人の「発言」の背景を対比すると、原爆投下や戦争責任についての歴史認識をおざなりにしてきたこの国の実情が見えてくる。
本島さんは隠れキリシタンの子孫。カトリック信者で、差別に苦しみながら職を転々とした。旧社会党から自民党へ移り、県議を5期務めた。市長時代の88年、議会で「天皇に戦争責任はある」と答弁。90年に右翼団体幹部に銃撃され、九死に一生を得た。
戦後生まれで40歳の私は、本島さんを通して「戦後60年」を検証しようと、05年11月から今年6月まで、長崎版に「異色の肖像」のタイトルで、101回の連載を行った。
久間氏は農林水産省職員、県議を経て自民党から衆院議員に転じた。核保有論には否定的だが「米国の核の傘の下で日米安保条約に基づいてやるのが一番いい」が持論だ。
米国の原爆投下の背景には(1)旧ソ連への軍事的優位を保つ外交上の切り札(2)原爆開発計画の成果を米議会に示す(3)人体実験−−など、政治的・軍事的諸説があり、米国では「戦争終結を早め、多くの犠牲を未然に救った」とする正当化論が一定の力を持つ。ただ、久間氏の言う旧ソ連参戦阻止説は否定的な見解が一般的だ。ウラン型とプルトニウム型の2発の原爆が使われたのも米側の当初方針だったとされ、非核三原則の下で核不拡散を求める日本政府の国防責任者として、歴史認識はずれていると言わざるを得ない。久間発言に対し、本島さんは「防衛政策通なのに、太平洋戦争や原爆を十分勉強していない」と失望を隠さなかった。
その本島さんも最初から「原爆投下は仕方なかった」と考えていたわけではない。95年3月、東京の外国人記者クラブで「原爆投下はユダヤ人虐殺と並ぶ人類が犯した20世紀最大の罪」と批判した。ところが「投下を指示したトルーマン米大統領(当時)はヒトラーと同じか」と記者に切り返され、答えに詰まった。
こうした海外の原爆観との違いに直面する経験を積み重ねて本島さんは、互いに自らの正当性を主張し非難し合うだけでは相互理解はあり得ないと痛感。「原爆投下は仕方なかった」という結論に達した。「被爆地では、被害だけを強調する傾向がある。しかし原因があるから結果がある。日本が戦争を始めなければ原爆投下はなかった」というのが理由だ。本島さんは「『原爆投下は正しかった』と言える人たちとの妥協点を探った。被爆者の方は反論するだろうが、相手に少しはなるほどと思ってもらわないと意味はない」と話す。根底には「赦(ゆる)す」というカトリックの考え方があり、敵でも理解し合いたいという強い信念がある。そこに差別や軍隊での戦争体験で受けた痛みが加わる。それが天皇の戦争責任発言でも政治生命をかける姿勢となり、戦後日本への問題提起になった。
これに対し「『しょうがない』はすぐ口をついて出る」と、自らの発言を失言にすり替えた久間氏。参院選を辞任の理由にする態度には、被爆地の痛みや苦悩を理解しようとする意思が感じとれない。それは、安倍政権の与党幹部や閣僚も同じだ。中川昭一・自民党政調会長や麻生太郎外相が繰り返した「核保有論議発言」など、核を巡る最近のさまざまな発言は結局、対米追従の構図の中での「放言」に過ぎず、表現の雑さ、荒っぽさが目につく。
日本の加害責任と核の傘の下での反核運動の矛盾を問い続ける本島さん。「自虐史観」「原爆容認論」など、各方面から批判が集まる。だが、「使っていけないのは核兵器だけか。すべて兵器を使う状態を作り出す戦争こそ、絶対反対しなければならない」という本島さんの訴えには傾聴すべき点も多い。
核兵器は多くの市民を無差別に殺傷する大量破壊兵器だ。原爆の使用は誤りであり、核兵器は廃絶すべきだと私も思う。同じ過ちは二度と繰り返されてはならない。そのためには、加害、被害を超えた相互理解と共感も必要だろう。
日本は、原爆投下や戦争責任を巡る歴史認識をあいまいにして、他国との共通認識を得る努力を怠ってきた。このツケを清算しない限り、第2の久間発言は生まれ続けると思う。
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毎日新聞 2007年7月11日 東京朝刊
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