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http://www.magazine9.jp/interv/lummis/lummis2.php
ダグラス・ラミスさんに聞いた(その2)
「無関心」が許されない時代がくる
「平和を守ろう」と叫ぶ一方、
安保や基地の問題を「沖縄問題」として片付けているーー
そんな「ヤマト」の矛盾を鋭く指摘するラミスさん。
沖縄の人々の現状や、政治への関心について、さらに詳しく伺いました。
C・ダグラス・ラミス
1936年、サンフランシスコ生まれ。政治学者。元津田塾大学教授。著書に『憲法と戦争』(晶文社)『経済成長が無ければ私たちは豊かになれないのだろうか』『憲法は政府に対する命令である』(以上平凡社)『普通の国になりましょう』(大月書店)他多数
「反対しても変わらない」という無力感が広がっている
編集部 前回、日米安保と米軍基地の問題が、「沖縄問題」として9条の問題と切り離されて、ヤマトからは他人事のように見られている、というお話をお聞きしました。
その姿勢は確かに無責任だと思うのですが、一方で、県知事選など最近の沖縄の選挙では基地の問題はなかなか焦点にならないし、選挙結果を見ていても、反基地を訴えた人が負けることが続き、「沖縄の人たちの基地に対しての考え方」にも、ただ単に「反対」ではなく、複雑なものがあるのだと感じています。そのあたりは実際どうなのでしょうか。
ラミス おそらく沖縄の人たちにとっては、自民党のほうがそうした就職、経済問題の解決策を提示している、と感じられるんでしょう。知事選のときも、糸数さんは基地の話ばかりして、仲井眞さんは経済の話ばかりして、という感じだった。若い人たちがそこで「反基地」よりも就職のほうを選ぶことはあり得ますよね。気持ちは分からないでもありません。
でも、一番大きいのはとにかく、基地に対していくら反対しても、何をやっても、結局何も変わらないからしらけてしまう、ということだと思います。普天間飛行場の代替施設問題でも、反対運動を必死にやって、ようやく辺野古沖への建設がなくなったと思ったら、今度はキャンプシュワブの沿岸につくるという。そういう繰り返しだから、疲れてしまうんです。今日、参議院の補選が行われていますが(注1)、両候補とも基地を焦点にしていません。県民の関心は薄く、投票率は低くなるでしょうね。
注1)(4月22日に行われたこの選挙の投票率は37.9%。前回を大きく下回った。自民・公明推薦の島尻安伊子氏が当選)
中央から変えていかなければ、何も変わらない
ラミス 先日、東京に住んでいる沖縄出身の人が言っていたんですが、県知事選で糸数慶子さんが負けたときに、まわりの方から「沖縄はどうなってるんだ」「どうして自民党を選ぶのか」とさんざん言われたんだそうです。ところが、その後に東京都知事選がありましたね。その沖縄出身の人は反石原知事の運動に参加したんですね。それで、その同じ人たちに「一緒にやりましょうよ」と言ったら、「(石原の人気は絶大だから)そんな運動やっても、しょうがないでしょう」と言って、興味を示さなかったというんです。
「沖縄県民は何をやっている」と言うけれど、東京を見れば、明らかにファシスト思想を持っている人が大差で勝ち、しかも3選目でしょう。地方からすれば、それこそ「東京都民はどうなっている」と危機感を持ちます。
沖縄の政治家は自民党系であっても、かなり中央に対して抵抗はしますからね。前知事の稲嶺さんもそうだったし、仲井眞さんは保守だけれどもファシストではないでしょうし、ある程度基地反対は口にしていますよ。石原さんとは、まったく違います。
編集部 ・・・おっしゃる通りです。そうして、本来ならば政治に対して関心の高い沖縄にあってさえ選挙の投票率が低くなり、「何をやっても、変わらない」という無力感が広がっているということなのでしょうか。それは問題ですね。
ラミス やはり、地方自治体にもある程度の権限がないと、住民の声をすくい上げた民主主義は実現できないんだと思います。
編集部 しかし、今の日本国憲法は、地方自治については、よく考えられていると聞いたことがあります。
ラミス そういう意味では、自民党の新憲法草案では、前文と9条だけではなく、第95条をどのように変えようとしているかは、ご存じですか?
編集部 第95条(注2)は、特別法を制定する場合の住民投票について定めた部分ですね。
注2)第95条:一の地方公共団体のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共団体の住民の投票においてその過半数の同意を得られなければ、国会は、これを制定することができない。
ラミス 今の憲法では、政府が特定の地方公共団体について特定の法律をつくることは、その地域で住民投票を行って過半数による了承が得られない限り許されない、となっている。ところが、今回の自民党案ではそれは削除されているんです。
考えてみれば、政府がどこの「特定の地域」について特定の法律をつくりたがるのか。どう考えても、まず沖縄でしょう。
編集部 日米同盟の強化が進む中、沖縄の住民の意見を無視して政府、アメリカに都合のいい法律をつくる。それは、容易に想像がつく気がします。
「無関心でいられる権利」が、奪われようとしている
編集部 さて、ラミスさんが今年4月に出版された本『普通の国になりましょう』(大月書店)についても少しお聞きしたいと思います。
「普通の国」というのは、憲法9条を変えて自国軍を持とう、という主張がなされる際にしばしば使われるフレーズですが、ラミスさんがこの本の中でも書かれているように、何が「普通の国」なのか、と思います。政府などが「憲法を改正して普通の国になろう」というときの「普通の国」というのは、やはりアメリカのこととしか思えないんですよね。
ラミス そう。そして気づいていない人も多いと思うけれど、実は第二次世界大戦以来、アメリカは大きな戦争に一度も勝ったことがないんですよね。ベトナム戦争も朝鮮戦争も湾岸戦争も、ずっと引き分けか敗北。そして今も、アフガニスタンとイラクで大失敗して、負けようとしている。そんな、負けてるばかりの国と付き合って何が安全なのか(笑)。「アメリカとばかり与していてはいけない」というのは、理想主義ではなくて現実主義的に、危ないからでもあるんですよ。
編集部 あんなに「負ける戦争」ばかりを続けていて、国内での反応はどうなんでしょうか。
ラミス 米軍は今、本当に士気がないようですよ。志願者も足りない。でも、徴兵制を導入すれば、大規模な反対運動が起こるから、志願制のままで入隊制限の年齢を35歳から42歳にまで引き上げたりしている。それから、重大犯罪で有罪判決を受けた人は、これまでは入隊を希望しても却下されていたのが、「反省してます」と言えば入隊できるようになった。
あと、外国籍の人を増やしている。軍隊に入ればグリーンカード(米国永住権)をとれると約束して、志願させているんですね。今のところは米国内に住む外国籍の人だけですが、海外にもそういう募集事務所をつくったらどうかという議論もあるんだそうです。多分メキシコとかの中南米に、ということだと思うんだけど、それには軍の中でも異論がある。愛国心の問題はないのかとか、英語が通じなくなったらどうするんだとか。
編集部 末期的な症状、という感じがしますね…。
ところで、今回の『普通の国になりましょう』は、全編易しい、わかりやすい言葉で書かれていて、若い世代の読者を意識されているという印象を受けました。現代の日本の若者は、憲法とか政治とかに対して非常に無関心だとも言われますが、それについてのお考えを最後にお聞かせいただけますか。
ラミス 先日、国民投票法案の国会通過への抗議集会で話をしたときに、ちょうどそのそばに修学旅行の生徒さんたちが集まっていたので、こんな話をしたんです。
「君たちは憲法に無関心でしょう。実は君たちのその“無関心権”を守ってくれているのは今の憲法なんです。大日本帝国憲法には無関心権はなかった。大政翼賛会とか五人組とかがあって、人々の生活の隅々まで政府によって組織されていた。明日政治に関する集まりがあるというときに、“私は興味がないから行きたくない”というのは通用しなかった。自民党の新憲法草案は、再びそういう日本をつくろうとしています。それは、人権条項(第13条)のところを見ればわかる。人権はすべて“公益及び公の秩序に反しない限り”といった形で制限されることになっている。そんな条件つきの人権は人権じゃない。そうなったら、無関心権もなくなるよ」。
編集部 無関心権も、一つの重要な権利ですよね。
ラミス 私たちはいつも、政治に無関心な若者を批判して「関心を持ってほしい」と言うけど、実は無関心でいられるというのはとても大事なこと。無関心権がなかったら、政治参加は自由な参加にならない。歌を歌わない権利がなければ、強制的に歌えということになってしまったら、心から歌うことはできないのと同じです。
だから、矛盾した言い方になるかもしれないけれど、今、政治や憲法について無関心でいる若者たちは、本来は一番関心を持つべきなんです。憲法が変わってしまったら、彼らのそんな「無関心生活」は、おそらくなくなってしまうんですから。
文科省の教科書検定によって、
沖縄戦での日本軍による「集団自決」強制に関する記述が削除された問題で、
6月22日、沖縄県議会は検定意見の撤回などを求める意見書を全会一致で可決しました。
この「怒りの声」が、ふたたび無力感に変わることだけはあってはならない。そう思います。
ラミスさん、ありがとうございました。
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