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この三、四年の日程表
五月十四日の参院本会議で改憲手続き法案が成立した。安倍首相はすでに、「私の在任期間中、五年以内の改憲」を公言していた。与党と民主党による「最低投票率導入の検討」など十八項目の付帯決議を付した同法の成立は、いよいよ今後の三〜四年間、憲法改悪か、それを阻止するのかの攻防を軸にして日本の政治情勢が決定的な対決局面を迎えることを意味している。
七月参院選後に召集される臨時国会で憲法審査会が両院に設置される。改憲「国民投票」法の施行は三年後であり、憲法審査会は施行まで改憲案の審査・提出をすることができない。しかし自民党はこの常設機関としての憲法審査会で、「改憲案」そのものではないが、その「骨子」や「要綱」については論議できるとしており、実質上、憲法審査会での議論が改憲案を準備・具体化するものとなることは明らかである。したがって労働者・市民は「審査会」での審議を監視し、その内容と問題点を広く伝え、適宜、大衆的な批判のキャンペーンを行っていくことが不可欠であることは言うまでもない。
同時にわれわれは、噴出したあらゆる疑問点を無視し、公聴会では与党側の公述人からも「慎重な審議」が求められるほどの「拙速審議」を繰り返して強行した改憲手続き法の成立が、安倍内閣と与党にとっても大きな困難を抱えたものであることに留意する必要がある。
確かに自民党は、二〇一一年夏に改憲案を発議し、同年秋には国民投票を行うというスケジュールを党内的には確認している。それによれば二〇〇九年九月の衆院任期満了までに各党の改憲案が出そろうことを想定し、二〇一〇年五月(つまり改憲「国民投票」法の施行時)には憲法審査会に改憲案の審査・起草権限が付与されることを経て、二〇一〇年七月の参院選後に改憲文案作成と合意形成をはかり、二〇一一年に改憲発議と国民投票に持ち込むという「日程表」である。また自民党は今年七月の参院選に向けて二〇一〇年の国会で改憲を発議するという「公約」を発表したが、いずれにせよ自民党としては二〇一〇年〜一一年をヤマ場として「改憲決戦」を構えていることは間違いないだろう。
しかし自民党が描いた思惑通りに事を進めることは容易ではない。
安倍政権が直面する難局
自民党の改憲ロードマップ(日程表)が、きわめて不確実性に満ちたものであるという理由は何か。
第一は、改憲手続き法について、最終的には「十八項目の付帯決議」で民主党を取り込む道筋を残したものの、法案そのものを民主党との合意・共同提案に持ち込むことができず、民主党は与党案に反対したことである。昨年十二月、与党と民主党の間では「合意」がほとんど成立していた。十八歳からの投票権、国民投票運動期間を発議後六十日以後百八十日までに延長するなど、民主党案の多くを与党案に取り込むことによってである。
「毎日新聞」1月1日付に掲載された舛添洋一・自民党新憲法起草委次長と枝野幸男・民主党憲法調査会長との対談では「こと憲法に関する限り、手続き法であってもコンセンサスを得」る必要があることや、改憲問題を「政争の具」や「政局」にしないことでエールを送り合っていた。改憲プロジェクトの両党の実務担当者にとって改憲手続き法は「改憲トライアル」としての性格を持っていたからである。
言うまでもなく改憲発議には衆参両院議員の三分の二の賛成が必要であり、そのためには野党第一党の民主党との合意が不可欠である。そして二〇一〇年ないし一一年の発議という「日程表」を現実化するには今年七月参院選をふくめ最低三回の国政選挙を通過しなければならないのであり、安倍政権の「自民党新憲法草案」をベースにした強行突破路線は、民主党との合意をとりつける上で最大の難関になっている、と言わなければならない。
第二に与党・公明党もまた、三年間は独自の改憲案を提示しないという方針に傾いており、九条1項、2項については堅持したまま自衛隊の存在を認める、という立場を依然として崩してはいない。
民主党だけではなく公明党との折り合いをつけるためにも、安倍・自民党はその「新憲法草案」をどのように修正しうるのか、という問題を抱えている。改憲派の重鎮である中曾根元首相は、最低三回の国政選挙を経て衆参それぞれで三分の二の「改憲発議」の条件をクリアーするためには、「新たな政界再編」が不可欠であることを強調している。それは自公VS民主党を中心とした野党という現在の政党関係を改憲を軸に組み換えることを意味しており、民主党の分裂を工作することが必要になる。
そして三回の選挙結果を通じた新しい政界地図の中では、改憲の最大の核心課題である「九条」には第一回目の改憲では手をつけないまま、環境権や情報公開などの新しい権利を付加し、九六条の改憲条件を緩和(たとえば衆参両院でそれぞれ三分の二以上という発議条件の修正)するという苦肉の策に出る可能性もゼロとは言えないだろう。
だが当面、安倍内閣と自民党執行部は、自民党内部でのこうした民主・公明との「妥協・調整」路線を排し、改憲を安倍路線のイニシアティブで推進していこうとしている。そのことは空席だった党憲法審議会長に中山太郎を決めたことに表現されている。安倍政権発足直後、自民党は従来の党憲法調査会を憲法審議会に格上げし、首相経験者をトップに据える方針はいったんは固め、森喜朗元首相に就任を打診した。しかし森は固辞し、昨年十月五日の総務会で、党憲法調査会長だった船田元を審議会長に起用する方針が了承され、自民党のホームページにも船田審議会長人事が掲載された。しかし右翼強硬派の中川昭一政調会長が公明・民主との調整を重視する船田の起用に激しく反発し、人事が振り出しに戻っていた。
この自民党内の綱引きは、あらためてどのように改憲スケジュールとその内容を具体化していくのかをめぐる対立の顕在化が必至であることを明らかにしている。そして七月参院選での安倍・自民党の敗北の度合いは、安倍政権の掲げる改憲ロードマップに深刻な危機を引き起こす可能性が大きい。
さらにこうした「改憲」をめぐる政界再編の動向は、言うまでもなく二〇〇八年の大統領選を経たブッシュ後の米新政権の政策、イラク・イラン・パレスチナをめぐる中東・国際情勢、さらに米中関係などに規定されるものとなるだろう。この点でも安倍の強行路線は、国際・国内政治の両面できわめて不安定なものなのである。
集団的自衛権「合憲化」阻止へ
安倍政権にとって、改憲手続き法案を強行成立させたことは、米帝国主義の覇権秩序を維持するための戦争戦略に沿った「日米同盟」の確立=米国の戦争に実戦部隊として参加するための強力な圧力と、新自由主義的な資本のグローバルな競争に対応した支配構造の全面的な作り替えが焦眉の課題であることに規定されている。
とりわけ「九条」を廃棄し、本格的な「戦争国家」を創出していくことは、一九九七年の日米ガイドラインと一九九九年の「周辺事態法」、アフガン・イラク戦争と「有事法制」、そしてイラク派兵と恒常的な派兵国家化、「米軍再編」に対応した日米の世界的な軍事一体化を通じて、もはや待ったなしの局面に突入している。今年二月の第二アーミテージ報告は、米国支配エリートたちの苛立ちをあからさまに示すものであった。四月二十七日の日米首脳会談、そして五月一日の日米安保協議委員会(2プラス2)を経た、自衛艦の沖縄・辺野古新基地反対闘争への投入や、この間共産党が暴露した自衛隊「情報保全隊」による反戦市民運動への監視・調査は、「国家・社会」の軍事化が、もはや憲法九条を軸にした法体系を公然と無視せざるをえない段階に入っていることを明らかにしている。
しかし改憲をめぐる上述したような不確実な政治情勢の中で、安倍政権はどんなに早くても三〜四年後となる明文改憲発議を待つわけにはいかない。安倍政権が自民党内の逡巡を押し切って「安全保障基盤の法的基盤の再構築に関する懇談会」(有識者懇談会)の会合を開始し、一九八一年の政府統一見解によって「現憲法の下ではできない」とされた「集団的自衛権」の行使の「合憲化」に踏み切った理由はここにある。「有識者懇談会」の構成は、すべてが「集団的自衛権」行使の積極的容認論者によって占められるという露骨きわまるものである。安倍はこの意向をわざわざアーミテージに報告し、アーミテージから歓迎の言辞を引き出すということまでやってのけた。
安倍首相は、従来「集団的自衛権」の行使として制約されてきた@公海上での米軍との共同作戦中に米軍が攻撃された場合の自衛隊の武力行使A米国に向けて発射されたミサイルの迎撃BPKOなどで共同する他国の部隊が攻撃された際の駆けつけ警護C「国際平和活動」での後方支援に際して攻撃された場合の反撃、の四類型を、あらためて「個別的自衛権」の発動として規定しなおすことで、米軍あるいは多国籍軍との共同軍事作戦の要請に応えようとしている。
ただしこれには、政府・自民党内に意見の対立が存在する。第一は従来の政府統一見解の作成を主導した内閣法制局の立場である。内閣法制局はこれまでの統一見解を「有識者懇」の報告によって変更することに、あくまで抵抗の姿勢を取っている。与党の公明党もまた「集団的自衛権」の公然たる合憲解釈には反対している。いわゆる四類型の「個別的自衛権」への解釈変えという小手先の方法は、この公明党の対応に「配慮」したものだとされている。二つ目は、自民党は九条改憲を目指しているのだから、改憲によって集団的自衛権の行使を承認すればよいのであって、それ以前の段階で集団的自衛権の行使容認へと従来の政府見解を変更する「解釈改憲」を行うべきではない、という船田元らの立場である。
三つ目には、「有識者懇」のメンバーの中でも相違が存在していることである。たとえば佐瀬昌盛(元防衛大教授)は、従来の「集団的自衛権の行使は、憲法上許されない」という政府統一見解を維持したままで四類型を「個別的自衛権」に解釈し直すという手法に疑義を呈し、また九条改憲によって集団的自衛権の行使を明文的に記載することにも釘を刺している。佐瀬は現在の政府統一見解が間違っており、現憲法下でも主権国家として「集団的自衛権」の保持・行使は自明の権利なのだから、従来の「政府統一見解」を「是正」すればそれで済むことだ、という立場に立っている(佐瀬『集団的自衛権』PHP新書、二〇〇一年)。
五月十八日の有識者懇の第一回会合では、出席した十二人のメンバーのうち十人が、佐瀬と同様に、従来の政府統一見解そのものが間違っており、「集団的自衛権」は行使できると宣言して統一見解をただちに変更することを求めたと報じられている。
安倍はそうしたさまざまな相違を調整しながら、旧来の政府統一見解との関係はあいまいにしたままで、「四類型」に即しつつ海外における米軍・多国籍軍との共同作戦での自衛隊の武力行使を「個別的自衛権」の範囲に収めるという方向でまとめるのか、それとも内閣法制局や公明党との対立をも覚悟して旧来の政府統一見解を撤回して、集団的自衛権行使そのものを「合憲」として打ち出すのか、はいまだ不確定であるが、いずれにせよ新たな恒久的派兵法を提案するためには、「集団的自衛権」容認への踏み出しは不可避である。それが何よりも絶対に言い逃れを許されない米国からの緊急の要求として存在するからだ。自衛隊法の改悪によって「本務」へと格上げされた自衛隊の海外での活動は、そのことを必然としている。
したがってわれわれは反改憲運動、九条護憲運動が当面する緊急の課題として「集団的自衛権」の行使・発動容認を阻止する闘いに全力を上げなければならない。辺野古への自衛隊の出動、自衛隊「情報保全隊」による市民・住民運動への調査・監視を許さない闘いや、「米軍再編」に反対する闘いは、九条改憲反対の運動を大きく発展させる上で決してないがしろにすることはできないテーマである。それは九条改憲による「戦争国家」化=生活に直結する国家・社会の軍事的再編成の実際的ありかたをすべての労働者・市民に突きつけるものだからである。
右からの「変革」プログラム
ここ数年間の改憲をめぐる政治的決戦を射程に入れたわれわれの闘いは、どのように展望されなければならないか。
この間の世論調査では、改憲派の言論機関として世論をリードしてきたと自負しているはずの読売新聞でも、九条改憲支持論が三年間にわたって減少し、九条改憲反対論が増大している。四月六日に掲載された読売の世論調査によれば九条明文改憲不必要が五五・八%であるのに対して必要は三五・七%にとどまっている。この傾向は四月十日ののNHK世論調査でも同様である(九条改憲不必要四四%、必要二五%)。中曾根元首相は、こうした世論の動向が「九条の会」などの護憲派の活発な動きによるものであると危機感を吐露し、改憲派としての「国民運動」に精力的に取り組む必要性を強調している。
われわれはもちろんこうした動向をベースに、「国民投票での多数派獲得」を意識しながら「九条改憲反対」の広範な共同戦線を地域の「草の根」のレベルで形成することの重要性を自覚しなければならない。自民党支持者をふくむ保守層をも対象とした「九条の会」の拡大・発展という主張については、その限りにおいて正しいものであり、左派の側もまたこうした「国民的」共同戦線の拡大の一翼を主体的に担う必要があることは当然である。
しかし、その課題が「保守層の取り込み」「専守防衛の自衛隊については認める人びともふくめた共同」という方針のみに一面化されていくことは、支配階級の全精力をかけた改憲への突進に反撃するために必要な社会的運動のダイナミズムを、今日の新自由主義による「底辺への競争」にさらされ、絶対的貧困と無権利に呻吟している膨大な人びとの怒りと抵抗の表現として解き放つ上では決定的に不十分なのである。
われわれは「九条改憲反対」が多数であるという事実と同時に、改憲一般の必要性を支持する人びとが多数であるという事実をも直視しなければならない。つまり「改憲多数派」と「九条護憲多数派」の併存という、きわめて危うい世論のバランスをどのように捉えるのかということである。ここから「改憲多数派」の中に「九条護憲派」をさらに拡大することに絞る方針は、きわめて一面的なものである。
「改憲」多数派は、ある意味で現状のままではいけないという気分を代表しており、右翼「改憲」言論は、現状を否定する「右からのオルタナティブ」として登場しようとしている。他方「九条護憲」多数派は、この「右からのオルタナティブ」への危機感あるいは「躊躇」の表明である。われわれが支配エリートたちの新自由主義と「戦争国家」への「右からのオルタナティブ」である改憲プログラムと対決するためには、「右からの変革」への「躊躇」に依拠した「九条護憲」というあり方を突破した「オルタナティブとしての反改憲」、すなわち現憲法の価値である平和・民主主義・人権を積極的な抵抗と変革の内容として突き出していくことが問われているのである。そうでない限り、労働者・市民にとっての「反改憲」の運動は、現状追認のくびきを抜け出すことはできず、右からの「改憲オルタナティブ」への守勢に終始することにならざるをえない。
「朝日」社説の問題点とは
五月三日付朝日新聞は「社説21 提言・日本の新戦略」と題して、八ページにわたる二十一本の社説を掲載した。「地球貢献国家をめざそう」と題するこの朝日の特集は「『戦争放棄』の第9条を持つ日本の憲法」を変えない、としつつ、「準憲法的な『平和安全保障基本法』を設けて自衛隊をきちんと位置づけ、『専守防衛』『非核』『文民統制』などの大原則」を書き込み、「国連主導の平和構築活動」に自衛隊を「より積極的に」加わらせることをうたっている。
ここでは「日米安保」の「国際公益」としての積極的活用と「周辺事態」での米軍への「後方支援」をうたい、さらに原発の「適正な規模での利用」や「経済のグローバル化」を「豊かな果実をもたらす」ものとして積極的に承認することがうたわれている。つまり日米安保やPKO派兵やグローバル市場経済を積極的に価値づけつつ、「九条改憲」に対しては反対するという基調である。
「九条改憲」反対の共同戦線は「社会的リベラル」とも言うべきこの「朝日」社説の線を重要な一翼としてふくんだものになるだろう。しかしそれは、新自由主義にもとづく資本のグローバル化と今日の「対テロ」グローバル戦争の表裏一体の関係を意識的に無視し、「戦争国家」を必然化する日米軍事同盟の現実に手をつけることをあらかじめ回避したものである。支配階級を「海外派兵国家」「参戦国家」へと向かわせる構造を拒否する展望を、ここから描き出すことはできない。
われわれの「反改憲」オルタナティブは、この「朝日」的「地球貢献国家」のプログラムへの真剣な批判を一つの契機としながら作りださなければならないものである。それは今日の「グローバル・ジャスティス運動」が目指そうとする綱領的課題に、日本の労働者・市民が反改憲運動の中から主体的に合流していく挑戦となるに違いない。
支配階級の憲法改悪の攻勢は総合的な国家・社会の作り替えである。われわれは、今こそ現憲法の「平和主義」原則の破壊に抗し、憲法の言う「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない」を実践しなければならない。それは言うまでもなく、憲法九条の改悪に反対するにとどまらず、憲法二〇条の「政教分離」規定の清算に反対し、二四条の「家族生活における個人の尊重と両性の平等」、二五条の「生存権、国の社会保障」の規定を改悪しようとするあらゆる策動などに反対してそれを実現していく闘いでもある。
それは新自由主義の下での基本的人権の剥奪や窮乏化などへの抵抗の諸要素を多様に表現する運動を基礎にした「平和・人権・公正・民主主義」のオルタナティブを実践するための闘いである。
支配階級の描きだす「戦後レジームからの脱却」という支配階級の全般的攻勢に対して、われわれはこの数年間に及ぶ改憲阻止の「決戦」を媒介に、「反改憲オルタナティブ」へのグランドデザインを目的意識的に追求しようとするだろう。それは言うまでもなく東アジアの労働者・民衆と共同した新しい「左翼オルタナティブ」勢力を作りだそうとする挑戦と重なっている。「一国護憲主義」を批判してきたわれわれの問題意識を、現状を変革しようとするこの闘いの中で積極的に継承していかなければならない。
「九条護憲」の闘いと、新自由主義と「戦争国家」化への多様な抵抗の合流による「改憲阻止」闘争の複合的な発展をめざそう! (平井純一)
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