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http://www.ohmynews.co.jp/news/20070523/11402
格子なき牢獄の時代〜桜井春彦コラム〜
桜井 春彦(2007-05-24 05:00)
山口県美祢(みね)市で「民営刑務所」がオープン、開所式が5月13日に行われた。刑務所の民営化が進んでいるアメリカをまねしたのかもしれないが、民間企業は利益を追求するための集団。超低賃金労働のための収容施設だとする陰口をたたかれているのもそのためだ。民営化が進んだアメリカでは刑務所産業が発展、囚人の増加は企業収益にとって不可欠な条件になっている。犯罪の増加が民間刑務所を繁栄させるとも言える。イラク戦争で最ももうけた企業だと言われるKBR(ハリーバトンの子会社)も刑務所ビジネスに進出している。
さて、アメリカで民営刑務所が建設された背景には、違法移民や暴力を伴わない犯罪(窃盗や麻薬不法所持など)の厳罰化を指摘する声もある。もっとも、CIAのテロリストと呼ばれているルイス・ポサダは自由の身になったが。重罪で3回以上、有罪判決を受けた人物の刑を厳しくすることを定めた「スリー・ストライクス法」が1993年から本格的に適用され始めたことも影響しているようだ。州によっては、重罪で2回有罪判決を受けていると、3度目には微罪でも重刑を科している。
麻薬不法所持の場合、刑罰が社会階層、人種によって基準が違うとする指摘もある。1980年代にアメリカの情報機関は中米で秘密工作を本格化させているが、その影響によりラテン・アメリカで生産される麻薬、コカインがアメリカ本土で蔓延(まんえん)した。
一口にコカインといっても、ウォール街のエリートが使う商品と低所得のアフリカ系住民が使う商品とでは種類が違う。前者は白いパウダーなのに対し、後者は水やベーキング・ソーダなどを使って生成する「クラック」を愛用していたのだ。1986年に成立した麻薬不正使用取締法によると、パウダーとクラックとでは同じ重量の製品を所持していても刑期は1対100。クラックを5グラム所持していると最低で5年の懲役になるが、パウダーなら500グラム以上所持していないと同じ刑期にはならない。
こうした法律のほか違法移民の取締強化などのためにアメリカの囚人は増えた。住民10万人当たりで比較すると、日本、フランス、ドイツなどは2けた、イギリスも百数十人にすぎないのだが、アメリカは800人に迫る勢い。これに対し、ロシアでは減少傾向にあって600人弱だという。
かつて、ニューヨークには刑期を終えて社会に出てきた人々に文字や計算方法を教えるグループが存在した。読み書きができないために仕事が見つからず、犯罪に走る人が少なくなかったからである。直接的には貧困な教育システムが原因だと言えるが、その背景には富の集中、独占がある。貧困状態から抜け出すにはショー・ビジネスやスポーツで成功するという方法もあるが、これは難しい。命をかけて軍隊に入るという手段もあるが、飢えに直面すれば、自殺するか犯罪に手を染める人も少なくないだろう。「弱肉強食」政策が犯罪を増やすことは否定できない。刑務所の目的は「分割、排除、浄化」だとする人もいるが、刑の厳罰化は一種の「失業対策」としての側面もある。経済システムを公正にして仕事を用意するよりも、収監する方が簡単。選挙権を奪うこともできる。国全体を「格子なき牢獄(ろうごく)」にして低所得者を「囚人」にする日が来るかもしれない。
ところで、美祢市で建設された民間刑務所の正式名称は「美祢社会復帰促進センター」。建設や運営を任されているのは警備会社「セコム」などで構成される企業グループ。部屋の窓に鉄格子はなく、強化ガラスがはめ込まれているのが特徴である。受刑者の上着にはICタグが装着され、看守は別室の画面でその移動を把握するシステムだという。
最近では「安全」を名目にして街角には監視カメラが次々と設置され、ICチップや衛星利用測位システム(GPS)などを使った追跡システムも現実化している。そうした監視システムの先進国イギリスでは500万台のCCTVが設置されているようだが、この監視社会を作り上げた責任者がトニー・ブレア首相。偽情報に基づいてイラクを先制攻撃、65万人以上とも言われるイラク人を殺害する一方、イギリスを「格子なき牢獄」にしてしまったわけである。ところで、アメリカでは国民監視システム「TIA」の開発が今でも秘密裏に続けられているという。
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桜井春彦(さくらい・はるひこ) 調査ジャーナリスト。早稲田大学理工学部卒。ロッキード事件の発覚を機に権力犯罪を調べ始める。1980年代半ばには大韓航空007便事件や大証券の不正をリサーチ。『軍事研究』誌で米情報機関のリポートを執筆。『世界』誌ではブッシュ政権の実態を発表。著書に『テロ帝国アメリカは21世紀に耐えられない』(三一書房)、『アメリカ帝国はイランで墓穴を掘る』(洋泉社)がある。桜井ジャーナルでも「非公式情報」を発信中。
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