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全国学力テスト」実施の意味・公教育を破壊する資本のための競争・選別・排除社会を拒否する = 週刊かけはし
http://www.asyura2.com/07/senkyo35/msg/179.html
投稿者 ダイナモ 日時 2007 年 5 月 24 日 19:51:17: mY9T/8MdR98ug
 

http://www.jrcl.net/web/frame070521e.html

 四月二十四日、全国の小学六年生と中学三年生を対象に「全国学力テスト」が実施された。一九六〇年代に全国の教育労働者・住民・父母の闘いで中止に追い込んだ「学力テスト」の四十一年ぶりの復活は、「教育再生」を掲げた安倍内閣の国家主義と新自由主義競争イデオロギーの注入にとって重要な位置を占めている。公教育破壊の学力テストに反対する世論を!


二三〇万人以上が参加

 全国学力・学習状況調査(以下、全国学力テスト)は四月二十四日、全国の小学六年生、中学三年生を対象に行われた。その目的は、各教委と学校が全国的な状況との関係において自らの教育の結果を検証・改善するため、とのことだ。新聞は、愛知県犬山市の十四校を除く国公立すべての学校と私立の六割余りの学校、小学六年生約百十七万千人、中学三年生約百十六万千人の計二百三十三万二千人が参加したと報じている。
 北海道教組は、道教委に学力テスト実施の断念を要求し、テストへの非協力を傘下の支部に指示していたが、直前の十八日、この指示を事実上撤回した。今後、北海道教組は道内の市町村教委に、テスト結果の公表に際しては学校名を明らかにしないよう要請していくとしている。

巨大受験産業への委託

 全国学力テストは、小学六年の場合、一時限目国語A二十分・算数A二十分、二時限目国語B四十分、三時限目算数B四十分、四時限目質問紙四十五分。中学三年の場合は、国語・数学各A・Bと質問紙が四十五分ずつである。
 Aでは知識、Bでは活用力を調べる。質問紙では、「学習塾で勉強しているか。朝食を家の人(親)と一緒に食べるか。家の人や学校の先生以外のおとなから注意されたことがあるか」といった生活習慣や学習環境を調べた。児童・生徒は学校名・組・出席番号・性別・名前を書いた。これ以外に学校長に対しての質問紙もあって、「学習上、生活上困難を抱えている生徒の人数。始業前や休み時間に学校として生徒の体力向上のための取り組みを週に何回しているか。習熟度別授業をしているか。学校のHPを利用して自己点検評価を公表しているか。学校運営協議会制度や学校評議員制度を取り入れているか。学校運営に校長のリーダーシップが発揮できていると思うか」などが調査された。
実施主体は文科省だが、学校の設置管理者である都道府県教委・市町村教委を参加主体として実施された。問題作成、採点基準の作成は文科省で行い、調査問題の発送・回収、調査結果の採点・集計、教委や学校への集計結果の提供などの業務は、学校等への負担軽減を口実として巨大受験企業(小学校はベネッセコーポレーション、中学校はNTTデータ)に委託した。個人情報や機密情報については委託先との契約書で厳重な取り決めを行っていると、文科省は言っている。実施にかかる費用は二〇〇六年度予算で二十九・二億円(問題作成等の準備経費)、〇七年度予算で四十八億円(問題発送・回収、採点・集計、分析結果の印刷・発送)である。

一九六〇年代の反対運動

 実は、学力テストは今回が初めてではない。文部省は一九五六年から全国の小・中・高校の学力テストを抽出の形で始め、六一年から中学二・三年を対象とする悉皆調査に換えた。日教組はこの調査が教育内容の国家統制であるとして、父母・住民に訴え反対運動を展開し校長・教委交渉を重ね、テストの当日は平常授業を行うという方針で闘いを進めた。
 全国闘争の中核となった岩手では九割以上、北海道・高知では六割以上がテストを中止し、青森・東京・京都・石川・滋賀・大分等の各県でも中止校が続出した。愛媛・香川などでは学テ弊害調査が運動として展開された。
 学校や自治体間の競争をあおるという批判を受けた文部省は、一九六六年には抽出二〇%調査に切り換え、六七年以降は三年おきにするとしていたが、「必要な資料は得られた」として、六六年を最後に打ち切った。ところが一九八〇年代になって、最大でも全体の九%の抽出の形で、「教育課程実施調査」が再開された。
自治体レベルではすでに、三十九都道府県・十二政令指定都市で学力テストが実施されており、このうち二十二都府県・七指定都市は特定学年の全員を対象としているし、多くの自治体がその結果を公表しているのである。このような状況の中では文科省の全国調査は本来必要ではないはずだ。

「学力低下」と新教育課程

全国学力テスト実施に至る表面上の契機は国際学力調査の結果で明らかになった学力や学習意欲の低下であるとされている。これはマスコミでも大きく取り上げられた。「経済財政運営と構造改革に関する基本方針(05年6月閣議決定)」が決められ、茶番もいいところだが、その後で中央教育審議会が〇五年十月に全国学力テスト実施の答申を出した。全国学力テストについては、右翼集団の日本会議も賛成している。
そもそも「学力とは何か」を定義するのはとても難しい。学力とは「生きる力である」という考えもある。部落解放運動の中では、「解放の学力」といわれた。学力とはテスト問題を解く力だと単純に考える人は教職員の中でも少ないであろう。学力は単なる教科の知識ではないはずだ。でも、基礎学力(読み・書き・そろばん)は明らかに低下しているというのが、教育現場での大半の見方である。文科省は〇七年四月、高校三年生十五万人対象の学力テストの結果を発表した。結果は旧指導要領で学んだ高校生対象の前回調査(02・03年度)を正答率で少し上回ったとのことだ。ゆとり教育は正しかったと言いたいのであろう。
 濫塾・受験競争の過熱、校内暴力・不登校・いじめ・などの「教育の荒廃」や「落ちこぼれ」の増加、教師の力量低下が叫ばれ、ゆとりカリキュラムと教科内容の削減が打ち出された。そして、九〇年代になるとゆとり教育を看板にした個性重視と新学力観の教育課程が登場し、さらに教科内容が削減された。小学校一、二年では社会と理科が廃止され生活科に変わった。この教育課程は、現場では一見リベラルなものとして歓迎された面も確かにあったと思う。
 ところが世間で学力低下が特に問題になり出したのも同じ時代である。〇二から〇三年度に実施された現在の新教育課程は九〇年代の教育課程の理念を踏襲して、教科内容をさらに削減し、一層多様化を推し進めるものである。「生きる力」の育成・「自ら学び考える力」・「自ら課題を見つけ、解決する力」を養うというキャッチフレーズは、抽象的に考える限りにおいてはすばらしいことのように思える。現にリベラルな教育学者の中でこれに期待をした人たちは少なからずいた。しかし、その裏に隠された意味は次第に明らかになりつつある、と私は思う。
現行の教育課程の中で、ゆとり教育や総合的学習や多くの選択教科が導入され、高校教育は多様化によって本当に様変わりしてしまった。現行教育課程は現場の教員の間では評判が悪く、これが基礎学力低下の原因になっているという人は多い。基礎学力低下の原因としては、親の持つ学校観や教師観・家庭の経済状態・受験制度・若者の失業問題・マスメディアなどさまざまな要因が絡んでいると思う。教師の力量は関係ないとはいえない。さらに教育課程が重要な要因のひとつであることは否定できないであろう。

「落ちこぼれに金はかけぬ」

 日本の教育政策(教育課程)は一貫して産業界の要請に基づいて変えられてきた。新しい教育政策は以前の総括に基づいて打ち出されるわけではない。もうひとつ言えることは、教育は常に政治の道具にされてきたということだ。教育はますます一部の人たちに私物化されてきている。政府と財界の考えをわかりやすく言えば、「これからは子どもの能力に合わせた教育が必要。国が金をかけなければならないのは日本の国と産業界を背負って立つエリートの育成だけだ。落ちこぼれにまで金をかけるつもりはない」ということである。これが新教育課程の核心にある意味である。言い換えれば、教育は個々人の人格の完成、自立した市民の育成のためではなく、国家のためのものだということだ。三浦朱門などは、「非才はせめて実直な精神だけ養ってくれればいい」と正直に言っている。「改正」教育基本法はこのような教育の未来を指し示しているといえよう。
学力低下の判断材料はテストの全体の平均点である。上述のように考えている政府や財界にとって平均点の低下は論理的にも問題にはならないはずだ。であるのに、彼らにとってなぜ子どもの学力向上が必要なのか。一見不思議に思える。私は全国学力テストは、平均点の向上という意味での学力向上を目的にしていないと思っている。では目的は何か。それは競争システムの導入による公教育の市場化である。
 文科省はテスト結果の公表については、「国全体と各都道府県の状況だけにして、個別の市町村、学校名は公表しない。ただし、保護者に説明するため、各市町村教委の判断で自己の結果を公表できる。また、各学校も教委の指導のもとで、自己の結果を公表できる。児童生徒に正答や誤答の状況がわかる個人票を提供する」としている。このような文科省の巧妙なやり方により、学校関係労組や父母たち・市民のねばり強い抵抗・異議申し立てがないならば、結果は詳しく公表されていくことになりかねない。

イギリスの「教育改革」とは

安倍首相が政権の重要課題としてあげている「教育改革」はイギリスのサッチャーの教育改革がモデルであるといわれる。安倍の提言は、統一学力テスト、学校選択制、学校評価制度の導入など教育の国家管理を強め、教育に市場原理を持ち込もうとするものだ。日本の将来に生じるであろう事態はイギリスの状況を見ると非常によくわかる。
 イギリスの現行教育制度は一九八八年の教育改革法によって成立した。その柱は全国共通のナショナル・カリキュラムと統一学力テストであり、ブレア政権もこれを引き継いだ。テストの採点業務は外部機関の手で行われている。結果は地域ごとに成績一覧表として公表され、新聞各紙は「全国成績ランキング上位二十校」「自治体成績ランキング(トップから最下位まで)」「全国成績ワースト五十校」など、国民の好奇心を刺激する一覧表をつくって報道している。親には学校選択権が与えられ、学校への予算は入学してきた生徒数によって配分される。
 学校を査察する独立行政機関として教育水準局が設置されている。テスト結果が悪いと、廃校に追い込まれる場合もある。国が学校に優劣を付けることで、教育の階層化が生まれた。毎年、政府が結果をインターネットで公表すると、成績優秀校の周辺には裕福な中産階級家庭が引っ越してきて、学校の定員枠を独占する。成績の悪い学校は低所得者層や移民家庭などが集まる地域となっていく。教育水準局の査察官は学校を訪れ、授業を中断して教師に質問したり、詳しい授業計画の提出を要求する。水準局が作成する学校ごとの報告書も公表され、学校選択の重要な資料となる。
 失敗校と認定されると、大量の教師が辞職に追い込まれる。政府の望む授業方法を身につけるために、政府主催の研修に参加しなければいけない。このような現状を反映して、全国の公立小中学校のうち千三百校ほどで校長が不在だという。
 現職の教師の八〇%がナショナル・テストの成績公表に反対している。教育改革を実行した現野党の保守党ですら「教師や学校を信頼する教育体制」に変える必要があるといっているほどだ。ウェールズでは今年度を最後にナショナル・テストを全廃することになったという。「評価は子どもの実力を正しく反映していない。それは、単に市場の学校評価の材料として使われていたに過ぎないことがはっきりした」、とウェールズのテスト見直し委員会の学者は証言している。評価制度見直しの研究も始まっている。

住民全体が問われている

学校選択の自由がある東京都では、優秀校の校区に裕福な家庭が引っ越してきて、校区の地価が上昇しているという。教育委員会と学校、親たちを巻きこんだ全国学力競争が激化することが予想される。すべてに優先して学校教育の目標をテスト結果に置くような歪曲された状況が現出するかもしれない。学校と地域間の格差は拡大するだろう。受験産業がつくった傾向と対策に基づいて、事前に全国学力テスト用の模擬テストを実施するようになるかもしれない。
 イギリスのノッティンガムの地方教育局は、域内の成績の悪い小学校に「六年児童には一年間テスト科目以外の授業はしないように」と指導したことがあるという。日本でも六〇年代、全国学力テストの日には、成績の悪い「部落の子」は休ませたという話が伝えられている。処理業務を委託された受験企業は欲しくてたまらない個人ごとのデータをすっかり手に入れることができるから、公教育の市場化に向けた主導権をとろうとするだろう。
 結果集計の発表は夏休みになるまでに行われると言われている。結果を知れば、自主的に夏休みに補習をするような学校も出てくるだろう。すでに高校、特に進学校では、土曜日や長期休業期間に授業を行っているところがあるのだから、それは容易に想像できる。
現在多くの都市の学校に導入されている査定制度は、全国学力テストの成績向上のために利用されるだろう。点数至上主義がはびこれば公教育は破壊されるだろう。教委・校長や地域ボスたちの考えに従わない教員は低い評価になり、賃金も減額される。かくして、上意下達の管理体制が強化されていく。イギリスと日本の違いがあるとすれば、社会の抵抗力が日本はイギリスほど強くないという点であろう。全国学力テスト問題は、学校だけの問題ではないし、学校関係労組や教員だけに任せておく問題ではない。市場競争が進歩をもたらすという新自由主義的な不平等社会を認めるかどうかが、住民全体に問われている。結果がどのように公表されるか、どのような問題が発生するか。注目し、事実を把握し、社会問題化していかなくてはならない。   

(津山時生)

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