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□臨床政治学 永田町のウラを読む =伊藤惇夫<第6回>マニフェスト流行り [中央公論]
http://seiji.yahoo.co.jp/column/article/detail/20070522-02-0501.html
2007年5月22日
臨床政治学 永田町のウラを読む =伊藤惇夫<第6回>マニフェスト流行り
既に選挙の「標準装備」と化したマニフェスト。報道などで候補者のマニフェストが比較されていたりすると、なんとなく民主主義の“成熟”を感じるものだ。でも、現実は……
一時期、民主党や自民党の若手議員たちが、自慢げに見せびらかしていたのが、「ブレア・カード」と称される名刺である。表と裏だけの通常の名刺と違い、このカードは三つ折になっていて、開くと当人の経歴やキャッチ・フレーズ、政策などが書かれている。つまり「名刺サイズのビラ」というわけだ。名前の由来は、いうまでもなく英国首相のトニー・ブレアが考案したからだ。
だが、実はブレア・カードが英国に出現するはるか以前から、全く同じスタイルの名刺を考案し、配りまくっていた日本の政治家がいる。民主党の衆院議員から転身し、現在は埼玉県知事を務める上田清司がその人だ。なぜ、こんな名刺を考えついたのか。アイデアマンとしても有名な上田本人に聞いたことがある。
答えは、「ビラは配ってもすぐに捨てられる。名刺なら一度はポケットに入れてくれるし、暇な時には読んでくれるから」。
だが、「ブレア・カード」には飛びついて、さっそく真似した日本の政治家はいても、それ以前からあった「上田カード」には誰も見向きもしなかった。一般人同様、政治家も国産品は評価しないくせに、「海外一流ブランド」となると、ひたすらありがたがり、さっそく押し戴くことになるようだ。
さしずめ、「マニフェスト」なども、その類かもしれない。なにしろ議会政治の本家・英国からの直輸入物だ。二〇〇三年に持ち込まれたばかりだというのに、マニフェストは、すでに選挙の「標準装備」と化している。
今回の統一地方選挙でも、首長選挙で選挙期間中のマニフェスト配布が解禁されたこともあって、大いに話題を集めた。数値目標や期限、財源を明記することで、有権者との「約束」が明確になり、有権者も政策による候補者選びが容易になる……、たしかにいいことずくめである。ご立派な“マニフェスト様”にケチをつけるなど、とてもできそうにない。だが、あえて問う。マニフェストは、信奉者たちが「日本の選挙風土を変える」と言い募るほど、絶大な魔力を持った代物か。
四月八日の東京都知事選後の各種世論調査で投票の基準が「政策」より「人柄」だったことが明らかになった。会ったこともない候補者の“人柄”がどうしてわかるのかといった根本的疑問はさておき、「理」つまり政策よりも、「情」に重きが置かれてきた日本の選挙風土を変えるのは並大抵のことではない。
そもそも、マニフェスト、すなわち「政権公約」が登場する前にも「公約」は存在していたのだ。長い間、政党、政治家は選挙のたびに「公約」を掲げ、終われば平然とゴミ箱に捨て、有権者も、それをさほど気にもしてこなかった。そんな国で「公約」のアタマに「政権」が付いただけで、政党、政治家は公約実現に邁進し、有権者は政策で候補者を選び、選挙後も厳しく監視するなどという理想が簡単に実現するのだろうか。
たしかに、マニフェストの登場によって、選挙の中で政策面に関心が高まってきたことは事実だ。一対一の戦いになることが多いため、中身を比較しやすいという利点があるし、当選した途端に「最高責任者」として一身に注目を集めることで、チェックを受けやすいなど、首長選挙は比較的、マニフェスト選挙向きでもある。
だが、どんなに優れた海外一流ブランドでも、使い方を間違えれば「ダッセー」といわれてしまう。七月の参院選挙でも、マニフェストが話題になるだろう。でも、参院選挙は政権選択の選挙ではないはずなのに、なぜ「政権公約」なのだろう。あるいは、「政権公約」である以上、政権を維持する、あるいは目指す政党が掲げることは許されても、過半数をはるかに下回る候補者しか擁立できない、したがって、はじめから政権獲得意欲のない政党までが、なぜ「政権公約」なのか。
ついでに連立政権を組んでいる自民党と公明党が別々のマニフェストを掲げるのは、選挙後に「あれは党のマニフェスト。連立政権としての約束じゃない」と言い訳するためか。疑問は尽きない。
マニフェストを単なるファッションに終わらせるのはもったいない。ありがたがってばかりいないで、一度洗い直してみてはいかが?
(いとうあつお 政治アナリスト。元民主党事務局長。明治学院大学非常勤講師)
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