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石の上にも3年といいます。ある世界にどっぷり漬かり、何も判らないまま闇雲にでも必死で修行すれば、3年ほどでオリエンテーションが付き、自分は何がわかってないか、何が足りないか、どんな修養が必要か、など基本事項だけはわかるようになる、と言うほどの意味でしょう。
どの診療科でも、とりあえずひとり立ちできるレベルに達するまでには、卒後5年の充実した研修が必要です。現在の各科をローテートする卒後研修では、科ごとに数ヶ月の研修。これでは見学程度で終わってしまいます。その段階で僻地派遣とは、僻地の住民も政府になめられちゃってますね。
今度の選挙の争点のひとつです。
----ある産婦人科医のひとりごと から無断転載-------------------------------
http://tyama7.blog.ocn.ne.jp/obgyn/2007/05/post_d6f6_5.html#comments
2007/05/19
研修医、拠点病院に集約 修了後へき地に 政府与党検討 (朝日新聞)
コメント(私見):
現状では、研修医は都会の病院に集中し、地方の地域拠点病院の多くは研修医数が大幅に定員割れしています。もしも、国の施策として、都会の研修医の定員を大幅に減らして、地方の研修医の定員を大幅に増やし、今の研修医偏在の流れを大きく変えることに成功すれば、それは非常に画期的なことだと思います。
しかし、地方の地域拠点病院の多くは、大学病院への医師引き揚げにより常勤医数が大幅に減少し、辞めた医師達の補充もないので、医師不足で非常に困窮しています。従って、少ない常勤医達が日常の診療に忙殺され、研修医の指導どころではないと思われます。
指導態勢が不十分な病院に、研修医が多く配属されたとしても、まともな研修ができる筈がありません。今後、地域拠点病院に多くの研修医を誘導する国の方針ということであれば、先行して、まず拠点病院の常勤医数を大幅に増やし、指導医が研修医の指導に専念できるような態勢を実現しておく必要があります。
また、2年間の初期研修が終了したばかりの若手医師をへき地に単独で配属しても、せいぜい、とりあえずの応急処置くらいしかできません。へき地に単独で配属する前に、初期研修に加えて、3年間程度の後期研修をちゃんと済ませておく必要があると思われます。
産科医療に関して言えば、今、多くの地域で、拠点病院に産科医を集約化し、分娩取り扱いの継続に必要な人員を確保しようとしています。もしも、育成中の若手産科医を拠点病院からへき地に派遣するのが義務化されたら、今後、多くの地域で産科医療の継続が非常に困難となってしまうでしょう。
参考:拠点病院から医師派遣、地方での不足解消…政府・与党方針 (読売新聞)
****** 朝日新聞、2007年5月19日
研修医、拠点病院に集約 修了後へき地に 政府与党検討
政府・与党は18日、医師の不足や地域間の偏在を解消するため、大学卒業後の研修医の受け入れ先を地域の拠点病院に限定し、拠点病院にへき地への若手医師派遣を義務づける方向で検討に入った。従来、医師を割り振る役割を担ってきた大学医学部が、04年度の新しい臨床研修制度の導入をきっかけに機能しなくなってきたため、地域医療の中心になる拠点病院に代替させる狙いだ。
政府・与党は同日、医師不足対策のための協議会を発足。100人程度の医師を国立病院機構などにプールし不足地域に緊急派遣する対策とともに、拠点病院からの派遣策について具体的な検討を進め、6月の骨太方針に盛り込む方針だ。
これまで新卒医師の7割以上は大学医学部の医局に在籍して研修を受け、強い人事権を持つ教授と地元病院などとの話し合いで決められた医療機関に派遣されることが多かった。
だが、新臨床研修制度の導入で原則として医師が自分で研修先を決められるようになり、実践的な技術を学べる一般病院を選ぶ医師が急増。都市部の病院に研修医が集中する一方、地方では定員割れの病院が続出し、へき地に医師を派遣するゆとりがなくなった。
政府・与党は、現在年1万1300人分ある研修医の定員総枠を、研修医の総数8600人程度に削減することを検討。都市部を中心に定員枠を大幅に削減することで、地方への研修医の流入を促進するとともに、受け入れ先を地域の拠点病院に限定する。
そのうえで、拠点病院に対して、研修の終わった若手医師を医師不足が深刻な地域に派遣することを義務づける。勤務を終えた医師には拠点病院でのポストを約束することで、若手医師の理解を得たい考えだ。都道府県が条例などで拠点病院に医師派遣を義務づけられるようにし、医師の供給を確実にすることを目指す。
このほか、長期的な対策として、一定規模以上の医療機関の院長(管理者)になる条件にへき地勤務の経験を盛り込むことや、都道府県が地元出身の医学部生に出す奨学金に国が財政支援する案も浮上。卒業後、地域医療に10年程度携われば、奨学金の返済を免除することなども検討する。
(朝日新聞、2007年5月19日)
****** 日本経済新聞、2007年5月19日
地方の医師不足、拠点病院が研修医派遣
政府・与党は地方の医師不足対策に関連し、国公立病院など地域の拠点病院から、研修医を医師の足りない地方に派遣する制度を創設する方針を固めた。大学医学部が医師を地方に割り振る機能を果たせなくなってきていると判断、地域の拠点病院に担わせる方針に転換する。全国の医学部生を対象に、卒業後の地方勤務を条件とする授業料免除も検討する。
公明党の斉藤鉄夫政調会長は19日の名古屋市内での記者会見で、こうした対策を参院選の公約に掲げると表明。医師不足対策を検討する政府・与党協議会でも論議し、同協議会が6月上旬にまとめる具体案や、政府の骨太の方針にも盛り込まれる見通しだ。
医師派遣を巡っては、かつては主に大学病院が機能を果たしてきたが、2004年度に導入された新しい臨床研修制度では基本的に自分で研修先を選べるようになったため、研修医が都市部の一般病院などを選ぶ傾向が強まっていた。
このため、政府・与党は拠点病院を地方派遣の中核として活用し、期限通り地方勤務を終えれば本人の希望する勤務先を優先的に認めるなどの優遇策も設ける。
(日本経済新聞、2007年5月19日)
投稿日 2007/05/19 地域医療 | リンク用URL
コメント
結局、今の医療危機の最大の原因は、医療を支える屋台骨である中堅どころが居なくなっていることなんですよね。これを解消しない限り崩壊は深刻化するだけです。マスゴミも「臨床研修医制度のせいで...」などと何とかの一つ覚えのごとく言い続けるのではなく、多角的な評論をして欲しいものです。
いや、できないか。 マスゴミだも(笑)。
投稿 暇人28号 | 2007/05/19 17:19
結局、従来の大学病院の医局の機能を拠点病院に持たせようとしているだけですか。それには、管理人様の言われるように、拠点病院の指導医の数を大学病院並みに大幅に増やさなければどうにもなりません。そんなことをするのならば、もともと拠点病院よりは指導医が多くいる大学病院に従来どおりその機能を持たせればイイのではないでしょうか。結局、地方の医療体制を維持するというマクロで考えた場合、従来の医局制度により成り立っていたということです。(前々から言われていましたが。)
投稿 ある勤務産科医 | 2007/05/20 05:27
>政府・与党は、現在年1万1300人分ある研修医の定員総枠を、研修医の総数8600人程度に削減することを検討。都市部を中心に定員枠を大幅に削減することで、地方への研修医の流入を促進するとともに、受け入れ先を地域の拠点病院に限定する。
これを本当にやる、ということは、
(1)これまで都市部の病院で研修医獲得のためにやってきた研修環境改善のための努力は水泡に帰する。
(2)管理人様のおっしゃる通り、地方の指導医のいないところに研修医が集中し、しかも地方には競争によって都市部の病院を志望しても落とされた動機付けの乏しい研修医が集まるようになる。
(3)医学生にとっては、政府与党の失政の敗戦処理と目先の政治的思惑のために、制度上認められてきた職場選択の自由が大幅に制限される。
(4)崩壊してしまっている医師のキャリア形成のための道筋がさらに見通しのつかないものになっていく。
等の問題が一度に噴出すると考えられます。
でも、そもそもマッチングを導入して、研修医の就職を全国市場化した以上は、このようにしなければ地方に行く研修医がいなくなることは最初から分かり切っていたことです。ということは厚労省医政局医事課(ここが臨床研修制度を主管しています)は、制度導入の際は、市中病院と研修医に利益があるような中途半端な導入をわざと行い、その制度を既成事実化し、大学医局をたたきつぶした後に、当然発生する地方の医師不足の問題をてこにして、市中病院の研修医定員を絞り、より所がなく孤立した研修医たちを地方にばらまいていく、というシナリオを最初から書いていた可能性があると考えられます。大学病院、地方基幹病院、都市部の市中病院を順番に叩いていくことによって、医療に関する政府の支配力は格段に高まっていくことになります。
もし政府がそういうつもりであるとしたら、それに対抗する手段は、若い医師の大学医局回帰でしょう。大学病院には最低限の研修医枠は残るでしょうし、研修医だけではどうにもならないので、当面存在している基幹病院指導医層の医局からの派遣システムはしばらくは持続するでしょうから、どこに行かされるかわからないmatchingで勝負するよりも、出身大学・地域に残ってリスクを回避しつつ、きちんとした研修のできる病院への派遣を通じてキャリアを育てていく方が、安全度が高いと考えられます。
つまり、厚労省の思惑通りにはならず、臨床研修制度導入前の状態に少しずつ戻ることになる、この間振り回され続けた医療界と国民が厚労省の失政の付けを払わされるということになるのではないでしょうか。
投稿 委員長 | 2007/05/20 09:25
いい加減に、一番若くて事情がわかっていない弱い立場の研修医に医療制度崩壊(実際は政府による医療制度破壊です)の付けをはらわせようと考えるのはやめてもらいたいものです。まともに予算をつけて、診療報酬制限をやめて、地方の病院の職場環境を改善し、へき地手当や救急診療手当をまともにつければ、医者は辞めずに黙って働くので、問題はおこらないのです。老人が増えて、医療の量的拡大は避けられない。医療の質的改善を望む国民の強い要求がある。それを、医療費を削減しながら制度変更によって実現しようとしてもうまくいくわけがないでしょう。
投稿 委員長 | 2007/05/20 09:32
初期臨床研修を終えたばかりの医師を、研修終了後、即、僻地の施設に派遣するのには反対です。
なぜなら彼らはまだ「何科でもない医師」だからです。
例えば小児科であれば、初期研修後、3年間の小児科医としての研修を終えた後に小児科専門医の資格を取ることになります。僻地に派遣するのであれば、最低限、各科の専門医を取得してから派遣されるのが筋でしょう。派遣される側から見ても、不十分な実力で僻地に放り出されるわけですから、経験不足から医療事故を起こす可能性が当然高くなるはずです。実力以上の責任を持たせるのはあまりに酷ですし、患者さんとなる地域住民に対しても失礼です。
でもそうするとまた派遣が3年遅れると言われるかも知れませんが、先日も述べましたように、政治・行政には「今と言う感覚」が欠如していますので、そんな反論をする資格など彼らにはないと思います。「今と言う感覚」が(選挙の直前以外に)無い以上、しっかりした制度を目指すべきかと考えます。
投稿 地方小児科医 | 2007/05/20 10:02
委員長先生のご意見に賛成です。
我が国の診療報酬体系では、例えば、同じ外来患者さんを診察した場合、同じ開業医であっても、僻地でその先生がいなくなったら無医村になってしまうような立場の先生の診療報酬も、都会で開業医がひしめきあっているところで診療している先生の診療報酬も、診療報酬には差が付きません。この現在の診療報酬体系が地域の医療を細らせている一因ではないかと考えます。
医療機関・診療科・医師がその地域にとって何を担っているかを正確に判断し、診療報酬(または給与)に傾斜を付けていくことが、今後真剣に検討されなければならないのではないかと思います。確かにこれを公正に判断することは難しいとは思いますが、要はその医療機関・診療科・医師に「いなくなられたら困る」のか「いなくなっても構わない」のか?と言うことなんだと思います。「いなくなられたら困る」のであれば、それなりの対処があってしかるべきであり、そんな当たり前のことができていないことが現在の医療崩壊をもたらしているのだと考えています。
投稿 地方小児科医 | 2007/05/20 10:16
委員長先生が詳しく述べている通りだと思います。加えて記事での下記のコメントですが、
「そのうえで、拠点病院に対して、研修の終わった若手医師を医師不足が深刻な地域に派遣することを義務づける。勤務を終えた医師には拠点病院でのポストを約束することで、若手医師の理解を得たい考えだ。」
これは全くのナンセンスです。研修終了後は、そんな拠点病院に残らず、自分の希望する都市部の病院等にさっさと移ると思います。魅力のない地方の拠点病院のポストなど誰も希望しませんし、医師不足の今は、何処でも希望すれば、地方の拠点病院などは就職できます。加えて、自分で受験した医学部の大学病院とは違い、マッチングで下位に書いた全く縁もゆかりもない地方へ行かされた多くの研修医が、そこにとどまるとは到底思えません。
投稿 ある勤務産科医 | 2007/05/20 10:28
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