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憲法施行60周年の憲法記念日を、未曾有の危機の中で迎えてしまった。安倍政権の支持率低下が止まり、沖縄の参院補選でも勝利するなど、安倍首相は政権運営に奇妙な自信を持ち始めたようである。祖父の岸信介と同じように民主政治の手続きを無視して高姿勢をとっても、孫の同世代の日本人は民主政治に対する危機感を持っていない。政府与党の首脳は、高姿勢を安倍らしさと理解してもらえるだろうと、高をくくっている観がある。
これから参議院選挙までの二か月間は、まさに戦後民主主義を守れるかどうかの決戦の時である。万一、参院選で与党が過半数を確保すれば、安倍は自らの改憲路線への国民の支持が得られたと強弁し、改憲への動きを加速するであろう。また、もし民主党が選挙で負ければ、たちまちこの党は内紛を起こし、小沢体制の下で不満をためていた右派が策動を始めるであろう。そうなると、改憲にむけた翼賛体制の成立も、決して荒唐無稽な話ではなくなる。戦後60年、曲がりなりにも守ってきた平和国家日本の生き方をここで変えることを許すとなれば、我々戦後民主主義の空気を吸って育った世代は、後世に顔向けできない。今こそ、改憲阻止のためにあらゆることをしなければならない。
憲法を愛する市民の間にも、このような危機感は広がっている。憲法記念日、私は札幌で憲法改正を阻止するリレートークに加わった。このイベントには、民主党、共産党、社民党など様々な政党に近い運動体が参加し、改憲阻止という共通目標に向かって協力することをともに訴えた。政党だからそれぞれ主義主張は違うのは仕方ないし、選挙の時にも自らの勢力拡張を第一義に追求するのも当然である。しかし、改憲を図る安倍政権という巨大な敵が立ちふさがっているときに、この敵の意図を阻むために協力することは、戦後民主主義を守りたいと思う者の責務である。
幸い、参議院選挙は比例代表と選挙区の組み合わせからなっている。比例代表ではそれぞれの支持する政党に投票し、選挙区では改憲阻止のために自らの一票を最も有効に使うという行動を組み合わせることが可能となる。
世論調査を見ても、何となく改憲を支持するという声は多数派であるものの、九条に限ってみれば改憲支持は少数派でしかない。この点で我々は悲壮感を持つ必要はない。むしろ良識的な保守層の中にも、安倍流の改憲に対する警戒感は存在する。地域レベルでは、「九条の会」の運動に保守層の名望家が加わっているというニュースも伝えられている。
広汎な憲法擁護の戦列を構築するためには、九条擁護に関して、当面の具体的目標と、将来の究極的目標を区別し、究極的目標を共有しなくても、当面の目標を共有するならば協力するという柔軟さが必要となる。自衛隊を廃止することは究極の目標であり、それはいつ可能か分らない。この究極目標にこだわっていては、多数派の形成は不可能である。とりあえず、アメリカの下請けで戦争に参加しようとしている自衛隊を、専守防衛のラインまで引き戻すという当面の目標であれば、多数派の結集ができる。ここから、ポスト安倍の民主派側の政権構想もできるはずである。
(週刊金曜日5月11日号)
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