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http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20070514ig90.htm
憲法制定以来、60年以上も放置されてきた憲法体制の欠陥がようやく是正された。
憲法改正の手続きを定める国民投票法が、自民、公明の与党などの賛成多数で可決、成立した。国民の主権行使の中で最も重要な憲法改正にかかわる主権を行使することができるようになる。
国際情勢や日本の安全保障環境の劇的な変貌(へんぼう)、日本の経済・社会の根本的な変化など、今日の内外の姿は、憲法制定時には想像すらできなかったものだ。しかも、今後さらに大きな変化の波を乗り切っていかねばならない。
◆憲法審査会の責務◆
その指針となる新憲法を定めるための重要な基盤が整ったと言える。
国民投票法は本来、与野党が対立する性格のものではない。民主党の小沢代表が、夏の参院選に向けて与党との対決姿勢を打ち出し、国民投票法を与野党対立に巻き込んだのは残念なことだ。
参院本会議での採決の際、民主党の渡辺秀央元郵政相が、「政治家としての信念」として賛成した。民主党には、本心では同様の立場に立つ議員が、少なくないのではないか。不毛な対立から一刻も早く抜け出すべきである。
参院選後の臨時国会から、衆参両院に憲法審査会が設置される。法施行は公布から3年後とされ、その間、憲法改正原案の提出はできない。だが、法施行後、速やかに改正作業に入ることができるよう、具体的な論点を整理することは、審査会に課せられた最重要課題だ。
安倍首相は、参院選で、自民党が2005年に公表した条文形式の「新憲法草案」を有権者に問う、と言う。民主党は「憲法提言」を発表し、公明党は「加憲」を主張しているが、いずれも未(いま)だに条文の形にはなっていない。
もはや「憲法改正の是非」ではなく、変えるとすれば、どこをどう変えるのかを論じるべき時だ。その観点から、民主、公明両党も条文化を急いでもらいたい。各党が具体的な改正案を明示し、憲法改正原案の基本となる要綱策定の作業を促進することが大事だ。
関連の法整備にも早急に着手する必要がある。
国民投票の権利を持つのは「日本国民で年齢満18年以上の者」とされた。これに伴い、付則第3条は、法施行までの間に、選挙権年齢、成年年齢をそれぞれ20歳以上と定めている公職選挙法及び民法その他の法令を検討し、「必要な法制上の措置を講ずる」としている。
◆18歳投票の法整備を◆
国会図書館の調査では、米英仏独など欧米はもちろん、ロシアや中国も含め、186国・地域のうち162国・地域が、18歳以上だ。これが世界の標準だ。18歳以上とするのは自然なことだ。
人口減の下で、国の将来への若い世代の責任意識を高めることにもなる。
無論、法整備は容易ではあるまい。
成年年齢を18歳以上に見直す場合、関係する法律は100本を超える。国民の権利・義務、保護など、社会のあり方に大きな影響を及ぼす可能性がある。
例えば、18歳になって犯罪を犯せば、少年ではなく、成人としての刑事責任を負う。実質的な厳罰化となる。
未成年者の法律行為は、原則として法定代理人の同意が要る。18歳で民法上の契約ができることになれば、若年世代の経済活動の範囲が広がる。それに伴い、責任も負うことになる。
広範な影響を考慮し、日本社会のあるべき姿を見据えた検討が必要だ。
先の参院憲法調査特別委員会での採決に当たって、自民、公明、民主3党の賛成で付帯決議を採択した。法施行までの間、憲法審査会で憲法改正上の課題について十分調査することなど18項にわたるが、全体として妥当な内容である。
与党には、民主党に一定の配慮をすることで、将来の憲法改正での共同歩調の可能性を残したい、という判断もあったのだろう。
気掛かりなのは、憲法審査会で、法施行までに、いわゆる最低投票率の制度の「意義・是非」について検討を加える、としている点だ。
一定の投票率に達しないと、国民投票自体を無効とする最低投票率制度の導入は、従来、共産、社民両党などが主張してきた。憲法改正を阻止するための方策という政治的な意図が背景にある。
◆最低投票率は不要だ◆
だが、外国を見ても、最低投票率制度を導入している国は少数派だ。欧米先進国では、米独には憲法改正に関する国民投票制度はない。フランスやイタリアには、最低投票率の規定がない。
衆院で否決された民主党提出の国民投票法案にも、最低投票率の規定はなかった。最低投票率制度の導入にこだわるべきではあるまい。
憲法審査会の論議が進めば、有権者は現実の課題として憲法改正に向き合うことになるだろう。時代の要請に応えて、新憲法へ、大きな一歩をしっかりと踏み出さねばならない。
(2007年5月15日1時48分 読売新聞)
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