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2007年5月15日(火) 夕刊 1面
返還密約 隠ぺい工作/米公文書で判明
一九七二年五月の沖縄返還を前に、米政府が支払うはずの軍用地復元補償費四百万ドルを肩代わりする密約の発覚を恐れ、日本政府が沖縄の地権者らへの補償費支払い業務を延期するよう米側に働き掛けていたことが十五日、米国立公文書館所蔵の一連の公文書から明らかになった。米側は財務、国務、陸軍の三省間で検討を重ね、延期を決定した。また実際に支払われた補償費が百万ドルを下回っていたことも分かった。
密約をめぐっては、元毎日新聞記者の西山太吉氏が入手した外務省の極秘公電を基に社会党が七二年に国会で追及。以来、政府は一貫してその存在を否定している。
七一年六月調印の沖縄返還協定で米側の「自発的」支払いが規定された復元補償費は、実際には日本側が負担。返還に伴う米資産買い取りなどの支出三億二千万ドルの中に補償費分の四百万ドルを紛れ込ませたとされる。
新たに見つかった複数の公文書によると、米側は、日本側から五回に分けて支払われる三億二千万ドルのうち、七二年五月の初回分一億ドルの中から四百万ドルを信託基金設立に回し、七二年中に復元補償費支払い業務を開始する予定だった。
しかし日本側が「信託基金設立は(肩代わりの)取り決めを公に認めることになる」として延期を要請してきたと、財務省は同年五月十一日付の文書で報告。国務、陸軍両省とともに検討した結果、支払い業務開始を七三年に先送りすることを決めた。
国務省内には「支払い延期が沖縄で反発を呼ぶ可能性がある」との意見もあったが、最終的に「沖縄での批判よりも国会の論議が引き起こすリスクの方を重視すべきだ」との結論を出した。三月末から四月初めにかけて政府は社会党などの追及に全面否定を通したが、直後に西山氏が極秘公電入手に絡む国家公務員法違反容疑で逮捕された外務省機密漏えい事件で「沖縄密約」に注目が集まり、追及再燃を恐れたとみられる。
基金は七三年に設立。日本側提供の四百万ドルのうち、沖縄の地権者に支払われた額は結局、百万ドルを下回り、一部は支払い業務を担当した米陸軍工兵隊の経費にも充てられていた。
駐沖縄米総領事は七五年七月二十九日付の国務省あての公電で、残りの三百万ドル余りについて「(日本政府向けに)問題を引き起こさない使途の説明が必要になる」と指摘している。
対米支援 過程示す
我部政明琉球大教授(国際政治学)の話 沖縄住民への補償延期を要請した日本政府の意図の背景に、密約の連鎖があった。米側が支払うはずの軍用地復元補償費の肩代わり自体は、補償が実施される限り大きな秘密ではなかったかもしれない。米側が支払いを拒否した場合には日本政府に肩代わりを求める声も沖縄にはあった。だが、一つのほころびがさらに重大な事実を表面化させることを恐れたのだろう。
それが、日米地位協定枠外の米軍基地整備費など六千五百万ドルの存在だ。文書は「なぜ払うのか」という認識を確立しないまま対症療法として支出した金が、国民に説明ができない対米財政支援の呼び水になった過程を明らかにしている。ここに「思いやり予算」の原型があり、昨年、日米が合意した在日米軍基地再編における日本政府負担分の上限は決して絶対ではない可能性を示唆している。
http://www.okinawatimes.co.jp/day/200705151700_01.html
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