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http://blog.goo.ne.jp/harumi-s_2005/e/c8fb103e7214f49ce88992d80edbfdc3 から転載。
ポリティカにっぽん
問われる「改憲の品格」−安倍政権の空気
早野透(朝日新聞コラムニスト)
初めての戦後生まれ、「戦後レジームからの脱却」を唱える安倍晋三首相が誕生して8カ月。私はこの3月、本紙「ニッポン人脈記」の「安倍政権の空気」17回の連載で、この政権のめざすものは何か、中枢の人々にインタビューを重ねた。そして思ったのは、うかうかとこの「空気」に乗って時代を進めていいものかということだった。
「女性は産む機械」発言や「ナントカ還元水」を飲んでいるとかのお粗末大臣続出のころ、「安倍内閣の支持率も落ちるわけですね」と中曽根康弘元首相88歳に問うと、こんなふうに答えた。
「安倍君は、いまは垢落としをしているということだろう。まあ、勤勉な努力型政権ではないか」
しかし、この5月の連休には、中曽根氏はテレビに出ずっぱりで「安倍政権」を語った。
「小泉政治は日本政治の漂流をとめた功績はあるけど、道路、郵政など局部的なものしかやらなかった。安倍君は教育、憲法に取り組んでいる。自民党本流だね」
日本の教育を徳目重視に立て直し、「占領の屈辱」を晴らして「軍」を持つようにする憲法改正は、中曽根氏の夢であり、祖父岸信介譲りの安倍氏の夢である。野党の抵抗を振り切り、すでに教育基本法改正を仕上げ、憲法改正の国民投票法案もついに成立にこぎつける。
垢落としは終わった、さあいけ。
中曽根氏は、「新憲法制定議員同盟」の会長として「最後のご奉公」に躍りだし、いまや安倍政権の「空気」を盛り上げるナンバー1のイデオローグである。
彼らがめざすのは、若干の手直しの「憲法改正」でなく、まるごとの「新憲法」である。4月24日夜、中曽根氏も安倍氏も参加した「自由民主党新憲法制定推進の集いーみんなで創ろうこの国の姿」の集会ではっきりした。安倍氏は語る。
「占領時代に素人のGHQが今の憲法をつくった。自民党は、日本を豊かにすること、もうひとつ新しい憲法づくりをめざした。日本は見事に豊かになった。しかし二つ目は、祖父の岸信介も、おやじ(晋太郎)の時代もできなかった。私たちの世代が宿題を果たさなければ」評論家上坂冬子氏が発言した。
「社員食堂のお昼がイモ三つだったのよ。栄養失調の体にブカブカの新品の服(憲法)もらったってうれしくなかった。そんなのは手直しでなくすぱっと捨てる。で、新憲法、いつできるの。3年3カ月待てばいいのね。私の目の黒いうちにね」
3年3カ月というのは、国民投票法で可能になる憲法改正へのほぼ最短コース。7月の参院選で勝てば、「私の内閣で憲法改正」と公言する安倍氏は一気呵成に改憲に向かうに違いない。連立公明党が「加憲」などと及び腰を書っていると、自民、民主両党の改憲再編の試みもあるだろう。護憲の共産、社民両党は、往時のドイツの共産、社民両党がもたもたしている間に、ヒトラーがあっというまにワイマール憲法を殺した速さを思い出すべきである。
「私たちの手で新しい時代の憲法を書く」というのが安倍氏の言い分である。だが、問題は「改憲の品格」ともいうべき事柄である。
私がこれぞ「安倍政権の空気」のルーツと思ったのは、97年に「従軍慰安婦」が中学教科書に載ることに反対した自民党議員たちの「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」である。代表は中川昭一氏、幹事畏は衛藤晟一氏、事務局長は安倍氏。例えば、がつての従軍慰安婦におわびと反省を述べた「官房長官談話」の河野洋平氏を呼んでこんなやりとりをした。
K議員「この程度のことを外国に向けてそんなに謝らなきゃいかんのか。兵隊にも何も楽しみがなくて死ねとはいえない。楽しみもある代わりに死んでくれと言っているわけでしょう」
河野氏「この程度というが、女性一人一人の人生には決定的なものではなかったか。戦争だから、女性が1人や2人、ひどい目にあってもしようがないんだとは思わない」
衛藤氏「軍が直接、女性を引っ張った事実はあったのか。料金は内地よりも3倍だとか」
安倍氏「慰安婦の証言の裏づけをとっていないではないか」
従軍慰安婦が「この程度」!
当時は公娼制度があったんだ、韓国にだってキーセンハウスがある、慰安婦にはカネを払っていた、軍が強制した証拠はどこにあるのかといった発言がとびかっている。そこには、女性の尊厳も、軍への戒めも、戦争そのものへの反省も、国家が個人を苦しめる強制装置になるという洞察もうかがえない。その「若手議員の会」から安倍政権の閣僚など多数の要職を出している。
安倍氏は中国、韓国の目をかいくぐって靖国神社に5万円の「真榊」を供えたり、従軍慰安婦の「強制性」に疑問をはさんではブッシュ米大統領に釈明してみたり、どうも「若手議員の会」の発想を抜け出ていない。「新憲法」もまたこんな姑息な「空気」の延長上でつくられるのでは困る。
いまの憲法は「戦争の反省」からつくられた。その「憲法改正」でなく、あえて「新憲法」と言うのは、もはや「戦争」は博物館に入れ、国家運営から「戦争の記憶」を消し去るということではないか。
「戦後レジームからの脱却」がそういう意味であれば、国民投票法の成立は確かに、米国と肩を並べて「戦争のできる国」になるべく、その第一歩ということになる。
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