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本日の新聞の論説を読んで考えさせられた。
■「毎日新聞」余録
国民投票
憲法の平和条項が戦後の国民の広い支持を集めたのは軍部に国をのっとられ、戦争でさんざんな目にあった痛恨の体験の教訓からだろう。ただ同じ戦争から、侵略を防ぐ軍備の必要を教訓としてくみとった国も多いのが世界の現実だ▲日本と同じ敗戦国ドイツが学んだ教訓も多いが、その一つにナチスの合法的独裁を許した「国民投票」への不信がある。ドイツの基本法は直接民主制を排し、その改正に際しても国民投票の規定はない。いわば「国民投票」は民主政治を考える上で最重要の論点の一つなのである▲ならばそれにふさわしい十分な検討は行われただろうか。憲法改正の手続きを初めて定めた国民投票法が成立した。だがそれは最低投票率制の是非について今後さらに検討を行うことなど18項目もの参院特別委の付帯決議をともなうものだった▲同法では投票権者は18歳以上で、改憲案成立は有効投票総数の過半数とされた。また改憲案は関連テーマごとに発議され、投票に付される。有料CMを投票2週間前から禁止するメディア規制条項もあるが、これらも今後の修正の可能性を残した▲参院選で改憲を国民に訴えるという安倍晋三首相率いる自民党が、従来の憲法問題での与野党歩み寄りを反故(ほご)にして急いだ手続き法である。だが、手続きすら十分な合意が得られないのに、国民的合意に根ざした憲法改正に道筋をつけることなどできるのだろうかという疑問はわいてくる▲国民投票へのドイツ人の不信は、世論の気まぐれに直接国の運命を委ねる危険を身をもって学んだからだ。今日の日本国民にはそんな心配は無用だと胸を張りたいところだが、国民投票で問われるのは主権者としての国民の成熟度だという歴史の教訓は忘れぬことだ。
毎日新聞 2007年5月15日 0時02分
http://www.mainichi-msn.co.jp/eye/yoroku/
■「東京新聞」
重い歴史的任務負った 論説主幹 山田 哲夫
2007年5月15日 朝刊
国民投票法が成立した。改憲を政権の最重要課題とする安倍首相は、そのための必要条件を手にして、七月の参院選は憲法改正を公約に戦うという。憲法問題は、国民一人ひとりが憲法への理解を一段と深め、改憲の是非を見極めていくべき新局面に入った。重い歴史的任務を負ったとの認識をもつべきだろう。
国民投票法について「急ぐ必要は全然ない」というのがわれわれの立場だった。
国のあり方や理念を定める根本法規改正にかかわる法律だ。時間はかかっても多くの政党と議員が参画して、納得と合意のうえで成立させる方が望ましいし、環境権や知的財産権など新しい権利の扱いをめぐっての課題はあるが、現行憲法核心の立憲主義や九条に手を加えてまで憲法を改定する緊急性があるとは思えなかったからだ。
政権戦略と政局優先から協調路線を壊してしまっての国民投票法。今後建設的な憲法論議が可能なのか心配にさえなる。
憲法は、常に吟味検証され、論争され続けられるべきなのは当然だ。先の「憲法60年に考える」社説のシリーズのなかで、われわれがあらためて確認したのは現憲法の護(まも)られるべき多くの価値の存在だった。
(1)武力の過信によって泥沼に陥ったイラク戦争が九条を再評価させている(2)政府・公権力を勝手にさせない近代立憲主義を逆転させ、憲法を国民統治のための道具にしてはならない(3)中国・韓国に対して侵略、植民地支配の歴史責任がある。平和主義はアジアへの百年の誓約で、なお恩讐(おんしゅう)を超えるに至っていない−。
不完全な人間への自覚や理性そのものへの懐疑も現憲法を護るべき大きな理由に思えた。
しかし、新局面を迎えて憲法論議は一段と磨きがかけられ深化されなければならない。国民投票は究極の民主主義だが、気分や雰囲気、空気に流されてしまう危うい側面をもつことも知っておくべきだろう。ナチスに蹂躙(じゅうりん)されたドイツに国民投票がない理由でもある。例えば「現行憲法は時代に合わなくなった」などの批判は適切な評価だろうか。施行六十年、なお憲法の精神は行き届かず、不徹底に思えるのだがどうか。
自衛権、自衛戦力保持明記を主張する護憲的改憲論はかなりの支持を得ているが、九条を改定して、戦争ができる国にしてしまって本当にいいのか。統治者を、われわれ自身をそれほど信頼してしまっていいのか、ぜひとも詰めたいテーマだ。
改憲発議は二〇一〇年から可能になる。それまでに少なくとも二回の参院選と一回の衆院選。だれがどんな憲法観をもっているかを見定めての投票としなければならないだろう。未来社会と子孫たちのためでもある。腰を据えて考えたい。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2007051502016220.html
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