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暗い予感
最近、妙に冷たい物言いの政治家が増えているとは思いませんか。
長崎の伊藤一長市長が、暴力団幹部によって射殺されました。そのニュースをテレビ速報で最初に聞いたとき、身震いするほどの怒りと恐れに襲われました。そしてすぐに思い出したのが、1990年の同じ長崎市長・本島等さん狙撃事件でした。
ああ、また暗い時代が来る。
そんな予感がしました。
そして、その暗い思いを増幅したのが、事件直後に安倍晋三首相が発した言葉でした。
「捜査当局において厳正に捜査が行われ、真相が究明されることをのぞむ」
これが、そのコメントです。
なんという他人事のような冷たい「感想」でしょうか。そう、まさしく「感想」というしかない、まるで心のこもらない言葉です。そこには、凶弾に倒れた政治家を悼む想いも、その凶弾を放ったテロに対する怒りもない。
平和を訴え、時には強く政府の外交政策までをも批判した地方市長など、安倍首相にとっては悼むべき対象ですらなかったのでしょうか。
さすがに首相周辺の人たちは、この安倍晋三氏のコメントの冷たさに気づいて慌てたようです。与野党を問わず、多くの政治家たちがこのテロへの怒りを即座に強く表明したのに比べ、「このコメントはまずい」と思ったのでしょう。すぐに、側近たちは安倍氏に進言したに違いありません。
しばらく経って、首相は、
「これは民主主義に対する挑戦であり、絶対に許すことはできない」という、遅ればせながらの紋切り型コメントを出しました。
何を今更、と思ったのは私だけではないでしょう。
老いた人たちへの仕打ち
安倍さんは、従軍慰安婦問題でもその冷たさを十分に発揮しています。
「広義の強制はあったかもしれないが、狭義での軍部や政府による強制は認められない」と、言わずもがなの国会答弁をして物議をかもしました。アメリカでの批判を受けての答弁でしたが、火に油を注ぐ結果になりました。そうなることが分からなかったのでしょうか。分からなかったとすれば、この人の外交センスには呆れるしかない。
しかし、その外交センスはともかく、実際に(広義であれ狭義であれ)強制的に慰安婦にさせられ、悲惨な目にあった女性が数万人規模で存在したというのは動かしがたい事実でしょう。それは、ついに安倍さんご本人も(批判が噴出しているアメリカへの言い訳でしょうが)認めざるを得なくなってしまいました。
拉致問題にはあれほど熱心にコミットするのに、慰安婦問題にはこの冷淡さ。そこをメディアに突かれると、「慰安婦問題は過去のこと。しかし、拉致問題は今現在起きている人権問題だから、同一視するわけにはいかない」と釈明します。
アメリカの「ニューヨークタイムス」紙などのメディアに「安倍首相はダブルトーク(二枚舌=うそつき)だ」と批判されるのも分かります。拉致された人々やそのご家族に対するのと同じスタンスで、慰安婦にさせられ辛苦の淵に沈んだ老婦人たちの人権を考えるのが、政治家として当然持つべき温かさであるはずです。
現在と過去を分け、現在を言い募って過去には目をつぶる。人権に過去や現在の差がありますか? それでは批判されてもしょうがない。
慰安婦にされた女性たちは、すでにほとんどが80歳を超えています。戦時中に20歳前後だったのだから、当然です。なくなった方もたくさんいます。そんな老い先短い人たちを足蹴にするようなことを、どうしてこうも軽く言えるのでしょうか。
ヒラヒラとよく回る舌先の冷酷さを感じてしまうのです。
もうすぐ安倍さんはアメリカへ行きます。
この慰安婦問題を追及されるのを恐れて、記者会見は開かないのではないか、とも言われています。首脳会談後の記者会見を拒否するようでは、とてもまともな外交姿勢とは言えません。
本当に、安倍さん、どうするのでしょう。
戦前の亡霊
とうとうここまで来たか、と暗然たる思いにかられたのが、長勢甚遠法務大臣の「貞操義務」発言です。
「離婚後300日以内に生まれた子は前夫の子と認定する」という民法772条の規定のため戸籍を取得できない子どもたちを、民法を見直して救済しようという意見に対して、長勢法相は「貞操義務とか性道徳について考えなければならない」という理由で、見直し反対を表明したのです。
要するに、離婚した女性の子や不倫で産まれた子には、権利など与えない。「貞操義務」を果たさない親の子は、どうなってもかまわない。そういうことです。もちろん、長勢さんはそうは言っていないけれど、どう考えても結論はそうなります。
生まれた子に何の罪があるのですか。親の行為の責任を、何も知らぬ子に押し付ける。究極の冷酷さです。
それにしても、法務大臣が、なんで私たち国民の「貞操」にまで介入しようとするのか。腹立たしい限りです。
貞操-------。
こんな懐かしい言葉を埃の中から復活させるとは、さすがに「美しい国」という中身の怪しい言葉を掲げて、戦前復活を目指す安倍晋三首相のお友だち閣僚です。
自民党議員の方々に「あなたは『貞操』をきちんと守っておいでか?」とアンケートをとってみたい気がします。
しょっちゅう妙なスキャンダルで週刊誌をにぎわしているのは、圧倒的に自民党の議員さんたちではありませんか。そうですよね、中川幹事長さん、山崎元副首相さん。女性の胸をわしづかみにして議員を辞めざるを得なくなった方も確か自民党でしたよね。(民主党にも、女性キャスターと浮名を流したイケメン議員がいましたけど)。
アンケートにはどんな回答が返ってくるでしょうか。
長勢法相は、実際に戸籍を作れずに困っている子どもたちとその親を、冷たくあしらって泣かせています。
この日本に生まれていながら、戸籍を作ることができない。それは、あらゆる行政の場面での不利益を意味します。戸籍がないことを理由に、児童手当の支給を拒否されたという事例さえ起きているといいます。公立幼稚園への入園をめぐるトラブルもあるそうです。
こんな冷たい仕打ちが、法の最高責任者である法務大臣の言葉一つで実際に行われているのです。
薄ら笑い
この長勢甚遠法務大臣という人は、あの16年間も日本に住んでいたイラン人のアミネ・カリルさん一家4人の在留許可願いを却下したときに、「お国へお帰んなさい、ということです」と、薄ら笑いを浮かべながら冷酷に言い放った当の本人です。
その後、18歳の長女だけは、短大進学を理由に特別在留許可を得たけれど、あとの3人の家族には許可は下りず、結局一家はバラバラに暮らさざるを得なくなってしまったのです。
「貞操義務がなくなれば家族の絆が壊れる」と長勢法相は言いますが、泣きながら別れざるを得なかったイラン人一家の家族の絆などはどうでもいい、と言うのでしょうか。
日本人の家族の絆もイラン人の家族の絆も同じはずです。同じでなければいけません。なのに、片方を認め、もう一方は無視する。
ここにも安倍首相と同じダブルトークがあります。
政治家は、舌が2枚ないと務まらないのかもしれません。
「美しい国」を声高に叫ぶ安倍政権は、一人ひとりの弱い人間はどうでもいい、とにかく「世界に冠たる強い国」を目指しているようです。弱い人間などは、確かに「強い国」には邪魔な存在でしょう。
しかし、弱い人間を排除するような国が「美しい国」だとは、私は絶対に思わない。
(小和田志郎)
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長勢甚遠法務大臣は昨年のクリスマスの日に4人の死刑囚の殺人を命令した。それからわずか4ヶ月余りのうちに再び3人の死刑囚の殺人を命令した。4ヶ月の間に7人の殺人を命令したのは長勢甚遠法務大臣が始めただろう。
いつの日か長勢甚遠が死の床にあり、自らの死期が迫っていることを悟ったとき、これら7人のことを思い浮かべることはないのだろうか。
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