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今だから語れるTBS買収工作―――村上ファンド、楽天、そして米国(前編)
楽天VS東京放送の「みどころ」は何か?
4月19日、楽天は、既に19パーセント余り取得した東京放送(TBS)の株式を20パーセント超まで買い増す意向を明らかにした。これと同時に楽天は、同社の三木谷浩史社長らをTBSの社外取締役に選任することを提案したのだという(関連報道)。これを受け、翌20日の東京証券取引市場でTBS株は一時、ストップ高の4340円まで高騰した。
この騒動を巡る今後の「みどころ」は二つある:
(1)第一に、楽天は今回のTBS株買い増しによって、TBSを自社の「持ち分適用会社」とすることを目標にしていると言われる。その背景には、楽天の苦しい台所事情があり、TBSを財務諸表上は抱え込むことによって、急場をしのぎたいと考えている可能性が高い。
そうであるだけに、今後、TBS株の買い増しを行い続けるならば、一体誰が楽天に対し、ファイナンスを行うのかが焦点となる。今となっては懐かしい「ライブドアによるニッポン放送買収事件」(2005年)の際には、同じく苦しい台所事情だったライブドアに対し、リーマンブラザーズ証券が資金を提供した(この辺りの事情については、宮内亮治「虚構――堀江と私とライブドア」(講談社)に詳しい)。現段階では楽天・三木谷氏の「単独行動」であり、外資勢を含め、ファイナンスをする気配はないとの情報であるが、仮にてこ入れをする外資勢が現れれば、事態は急変する。
(2)楽天のこうした動きを見て、TBS側が手をこまねいて見ているわけではない。TBS側は2月に買収防衛策を改定しており、今回の楽天による策動を、社内の「企業価値評価特別委員会」で協議し、既存株主に対する新株予約権の無償交付による株式総数の増大という防衛策を発動するかどうかを決定するものと見られる(関連報道)。
ポイントは、仮にこうした買収防衛策が発動された場合、果たしてどのような司法判断が下されるかにある。前出の「ライブドアによるニッポン放送買収事件」に際しては、ライブドアが時間外取引でニッポン放送株を大量取得した後、ニッポン放送の「実質親会社」であるフジテレビジョンがニッポン放送に対する株式公開買い付け(TOB)を発表し(1月17日)、それでもなおライブドアが35パーセント以上を取得するに至ったので、ニッポン放送側が新株予約権の無償交付による買収防衛策の発動を決定、実施した(2月23日)という経緯がある。これに対し、ライブドア側は翌24日に東京地裁に対し、この新株予約権発行の差し止めを求める仮処分を申請、3月11日に東京地裁はこれを認めたのだ(ニッポン放送からの不服申し立てについては、同16日に棄却)。
今回の楽天VS東京放送の事例の場合、このライブドアを巡る一件と比べると、今後の進展によって、より純粋・単純に「TOBが行われる前に新株予約権の無償交付による買収防衛策が発動された場合、どのような要件を満たしていなければ経営陣の保身とみなされるのか」という点について、司法判断が求められることになる。これが三角合併解禁(5月1日)後に外資勢が一斉に「日本買い」をあからさまに開始する際、迎え撃つ日本の企業勢が準備してきた買収防衛策を無力化させるための条件を暗に明示するものとなることはいうまでもない。
それは六本木での会話から始まった
実は今だからこそ、語れることが一つある。それは、公開報道には全く出ることがなかったもう一つのTBS買収工作があったということである。何を隠そう、私もこの工作に深く関与した一人であり、そのことによる「メディアの再生」を志した一人であった。
このストーリーの始まりは、2005年の夏にさかのぼる。
2005年7月22日。マーケットの最深部で活躍し、アセット・マネジメント系では日本で右に出るものはいないとの高い評価を受けている日本人の盟友A氏と、私は六本木にて会食をしていた。いつものような「四方山話」を進める内、A氏はやおら次のように切り出してきた。
「私も長きにわたって金融マーケットで勝負をかけてきましたけれど、そろそろ『日本のために意味のある投資』がしたいと思うのですよ。単なる金儲けではなく、日本の将来のためになる投資、日本の未来をつくる投資です。資金は3000億円ほど調達し、来年1月から始動します。ターゲットについては、いろいろ悩んだのですが、決めました。」
「決めたって、何にですか?」
「テレビを買収するんです。」
この言葉を聴いた瞬間、その年の春から初夏にかけて日本中を揺さぶってきた「ライブドアによるニッポン放送買収事件」を巡る一連の顛末が走馬灯のように私の頭のなかを駆け巡った。「戦後日本メディアに巣食う領袖たちの驕り・怒り」「ホリエモンの虚像」「小泉流劇場政治に飽き足りない世論の盛り上がり」「常に見え隠れする米国の影」―――これらを思い浮かべながら、私は言葉を継いだ。
「危なくないですか?ホリエモンみたいにバッシング受けたら、終わりですよ。」
すると普段は温厚なA氏が、やや憤ったかのような表情を見せながら言った。
「ホリエモンとは決して一緒にしないでください。奴は、私もよく知っているけれども、金融マーケットでは全くの素人に過ぎない。売名行為としかとられないやり方でやるから、ああいうことになるんです。玄人はそうはしない。」
今思い返せば、あの頃、金融資本主義の現実に不慣れな(今でもそうであるが)日本メディアが、盛んに「時代の旗手、マーケットの若きリーダー」と持ち上げていた人物たちは、いずれもプロからみれば全くのアマチュア、素人だった。逮捕直前に開いた記者会見で、「私は投資のプロですから」と豪語した村上ファンド代表の村上世彰氏などがその好例だろう。金融マーケット一筋で生き、そこにたどり着いたものしか知らない「真実」と「人脈」を幾多も知っているA氏が彼らとは全く異なる人種であることを私はすでによく知っていた。
A氏はあらたまったようにして言った。
「ホリエモンが失敗したのは、『インターネットとテレビの融合』なんていう、とってつけたようなお題目しか、最後の最後で言えなかったからだと思います。投資は投資で利益を回収しなければならないけれども、その一方でテレビを買収する以上、皆が納得するようなテレビ・メディア改革プランを同時に打ち出していかなければ潰されるのではないでしょうか。ついては、原田さんにその部分でぜひとも力を貸してもらいたい。」
故・後藤田正晴氏の右腕として活躍されてきた元警察官僚・佐々淳行氏ではないが、文字通り、「天下の素浪人」に過ぎない私である。言論人の端くれとして、一般人よりは確かに各種メディアに人脈もあり、内部事情も知らないわけではない。
その一方で当時、私は「追われる身」でもあった。2005年3月末日に古巣・外務省を自主退職し、翌4月には拙著「北朝鮮外交の真実」(筑摩書房)を上梓し、表向きの動きとは別に、米国によって次第に封じ込まれていく日本の危機を説いた私に対する風当たりは今以上に強かったのである(ちなみに、北朝鮮問題はその後、この本に記したとおりの展開となっている。「米中を中心とした経済利権の奪い合い」「日本外し」といった現状が既に2年前から現場では予見されていた。)。日本国内は言うまでも無く、各国の情報機関から影に日向に追跡されている私が関与することで、A氏の大胆なプランが台無しになってしまっては元も子もない。
だが、生真面目なA氏は、いつも以上に真剣であった。さらに話を進めていく中で、彼の決意が固く、またその志が私のそれと等しいことをあらためて確認することができた。
「小泉流劇場政治によって破壊・分断された日本を救うには、まずは民主主義の根幹となるマスメディアこそ、徹底的に叩きなおすべきだ」
外務省在職中の2003年に上梓した「劇場政治を超えて ――日本とドイツ」(ちくま新書)以来の私の思いがふつふつとよみがえってくる。
そして、私は決断した。
「やりましょう、一緒に。メディアが変わらなければ日本に未来はない。」
テレビ買収を画策していた大手広告代理店
そして、A氏とサシで突っ込んだやりとりが始まった。
A氏曰く、金融マーケットで日本のマスメディアについて調べられることは、意外に限られている。各種のデータバンクで表面的な情報はいくらでも集められるが、果たしてそれらが実態を反映しているのかというと大いに疑問がある。もっとも、金融マーケットの住人が真正面から攻めていったのでは、メディアが胸襟を開いて内部事情を話すはずもない。そこで、まずはテレビの各局の「実態」について可能な限り情報を集めてもらいたい。その上で、最終的に買収対象を決定しましょう、とのこと。
巨大なタマを投げられた私は思案を重ねた。
各局に知己がいないわけではないが、あからさまにあたったところで本当のことは何も話さないだろう。かといって、ライブドアによる一件以来、テレビ各局を総ざらいしている感がある雑誌メディアにあたったところで、結局は伝聞情報に過ぎない可能性がある。もっと各局の内実に迫る情報が集積されている場所はないのか。
―――その結果、たどり着いた結論。それは「大手広告代理店に集められたテレビ各局の経営情報を獲得する」という戦術だった。
2005年当時、大手といえども、広告代理店業界は「激震」に見舞われていた。HDDレコーダーの普及によって、視聴者がテレビCMを飛ばして録画、視聴し始めていたからだ(関連報道)。大手広告代理店の財力、そして権威の源泉となっているのが、テレビ・メディアに既得権として確保してきた「CM枠」である。それが無意味化するというのだから、放送メディア業界における「革命」とでもいえる事態といわざるをえない。
そこで大手広告代理店たちは、またぞろ、表では涼しい顔をしつつ、裏ではテレビ各局の財務状況、ひいてはその「買収可能性」について検討し始めていたのである。比較的開放的であることで知られる大手広告代理店の中でも、これを担当している特殊チームがあるフロアは、カードリーダーを通さないと中には入れないほどの厳戒態勢がしかれていたと聞く。そして、この特殊チームには、米系経営コンサルティングの筆頭格であるマッキンゼーのOBらが集結していた。まさに「知られざる精鋭部隊」だ。
私はとあるルートを通じ、これら「精鋭部隊」が日々つくっていくテレビ各局の内部事情調査ペーパーを次々に入手し、分析していった。
その結果、導き出した結論は一つ。―――「買収するのであれば、視聴率が低迷し、放送事業外収入も伸び悩んでいる局を選ぶこと。テレビ放送局として持つネットワーク力が良質であれば、なおのこと好ましい」
そして8月19日。私はA氏にあるペーパーを提示した。
(余談であるが、上記の「特殊チーム」はその後、なんらの成果もなく、事実上、開店休業状態となっているのだという。彼らはむしろ、「買収可能性を考えるにあたって、まずは自社(=広告代理店側)の基礎体力が分からなければ始まらない」として、大手広告代理店自体の財務状況、人には知られたくない内部事情を徹底取材していたのだとも聞く。「買収提案」という本業には一切力をいれず、逆向きに親元を調べる彼らの「本当の目的」「本当の主人」が誰であったのかは、これから始まる三角合併解禁後の「日本買い」の中で明らかになることであろう。)
読売グループの怪
「日本テレビ放送網(株)の買収に向けて クリアーすべき問題点」と題し、「極秘(STRICTLY CONFIDENTIAL)」と右上に書かれたこのペーパーで、私は次のように記した。
まず、日本テレビを買収ターゲットとして考えるべき理由は4つある。
(1)第一に、視聴率が著しく低迷していること。これは本業である「放送事業」による収入が激減していることにつながり、それだけ買収可能性が高まっていることを意味している。こうした状況が、「読売ジャイアンツ」を含めた、旧来型のコンテンツへの過度な依存によるものであることはいうまでもない。
(2)第二に、幹部を刷新するが、氏家齊一郎会長をヘッドとする既存の権力体制の持続による閉塞感は高まる一方であること。晩年の毛沢東体制ではないが、次々に有力幹部が粛清された結果、過去の成功体験にしがみつき、かつ現体制にはむかうことのない幹部だけが温存される末期症状となっている。
(3)第三に経営状況の建て直しのため、新規採用でも経営戦略部門を集中的に採用しているものの、とにかくそれでは対応できないほどの「ありえない状況・経営」が続いていること。実際、斬新な経営改革プランは提示できていない。
(4)第四に、汐留という立地が、放送事業外の事業を展開するための立地としては不適当であり、負担だけが重なる結果となってしまったこと。イベントが華やかに打てないことによる放送事業外収入の伸び悩みが、経営状態の悪化に拍車をかけている。
(5)第五に、コンテンツ事業についても相当な出遅れ感があること。韓流ブーム(当時)にのっての収益増はあるものの、それ以外に成功しているのはスタジオ・ジブリとのコラボレーションくらいのものであり、かつ、そうした映画事業を支える人員も少なく、担当者は著しく疲弊してしまっている。
もっともこうした経営リスク(=買収する側にとってはチャンス)の裏側には、買収にあたってどうしてもクリアしなければならない巨大な壁もまたあった。
それが、資本構成で上位を占める読売新聞グループを一体どのようにして抑えるかという問題だったのである。現在でも、読売新聞グループ本社が14.8パーセントの株式を持っている(3月15日現在)日本テレビは、同グループの傘下にあることは疑いようがない。
問題はそこから先にある。―――日本テレビを買収するためには、丁度「入れ子構造」のように、今度はその上に位置する読売新聞グループへの影響力確保、あるいは極端な場合にはその「買収」が必要となってくる。いや、正確にいえば、日本テレビを買収するまでもなく、読売新聞を買収することができれば、そこを経由して日本テレビを支配することができるのである。ところが、肝心の読売新聞グループはというと、資本構成が過度に入り組んでおり、結局のところ、誰が決定的な影響力を「資本の論理」の上で持つのか分からないようになっている。例の広告代理店ルートのみならず、読売新聞の内部関係者に調査を依頼したものの、結果は同じであった。つまり、社内の関係者であっても、極めて一部の幹部しか、資本構成に関する正確な情報は知らなかったのである。
「社会の木鐸と自らを語り、外務省など、役所に対してはこれみよがしに情報公開請求をしてくる新聞社自身が、実は情報公開をしていないなんて、皮肉なものですね。」
ひとしきりペーパーの説明をし、そう付言した私に、A氏はやや押し殺した声で言った。
「原田さん、日テレは現実問題として買収不可能ですね。いくらカネがあっても、資本の論理だけでは埒があかない。」
「ではどうしますか?プラン自体をあきらめますか?」
「いや、まだ、です。ターゲットはTBSにしましょう。あそこなら可能性がある。」
こうして、私たちの「テレビ買収計画」第2ラウンドが始まった。
(続く)
2007年4月22日
原田武夫記す
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