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なぜネット選挙活動が実現しないのか(曽根泰教・慶大教授)【コラム】
今年2月、首長選挙におけるマニフェスト(選挙ビラ)解禁を盛り込み、公職選挙法が改正された。ところが選挙活動にインターネットを使う「インターネット選挙」は、いまだに実現していない。ブロードバンドインフラで国際競争力を持つわが国において、選挙でのネット利用がまだ解禁されないのは不思議である。「電子政府」を唱えるのなら、まず民主主義の基本となる選挙から始めるのがスジであろう。(曽根泰教・慶大大学院政策・メディア研究科教授)
■立ちはだかる公職選挙法の壁
ネット選挙解禁の前には公職選挙法という壁が立ちはだかる。この法律は、大正時代以来のもので、いってみれば「増築・改築」の繰り返しで、問題が出てくるたびに穴をふさいできた、つぎはぎだらけの法律である。
制度の体系としても、複雑かつはなはだしく古い。例えば、衆議院と参議院の選挙規定は同じ枠組みだし、議院内閣制の衆院選挙と大統領制をとる首長選挙を同じ法律で縛っているのは、現状にはそぐわない点が多い。
選挙活動におけるネット活用のあり方を議論した政府の「IT時代の選挙運動に関する研究会」の報告書が出たのは2002年8月。Google(グーグル)などの高度な検索エンジンの浸透やブログなどによる個人の情報発信の高まりといった現象はその後に起きたものだ。世界では2004年の米大統領選以来、IT活用が政治の領域でも急速に発達した。
そういった背景から、現在の制度が技術の進化に対応できていないのは当然だ。一般的な電子メールの選挙での利用は禁止するとしても、規制はミクシィ(mixi)などのソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)にまで及ぶのか。ダウンロード行為だけを対象としてきた規制はユーチューブ(YouTube)のようなアップロード行為についてはどう考えればよいのか。
選挙活動に電話の使用は禁止されてこなかったが、携帯電話の画面はもはやパソコンと比べて遜色(そんしょく)ない。となると、携帯電話も規制の対象になるのだろうか――。さらに、公職選挙法の問題は、新しい技術をカバーしきれないという技術論だけでは不十分で、法律の根本問題までに立ち帰る必要がある。
政治のなかにもネット選挙実現に向けた動きはある。インターネット利用に消極的だった自民党も、「小泉郵政選挙」の大勝以来抵抗感が少なくなり、世耕弘成首相補佐官、小林温参議院議員などが積極的に進めようとしている。ただし、まだ党内合意を固めるところまでは至っていない。
■ホームページは「文書図画」か
現状の公職選挙法を前提に選挙のネット利用を考えるとき、2つの重要なポイントがある。1つには、現行公職選挙法は、政治活動と選挙運動を明確に区別している。特に、公示以降の時期を「選挙期間」として、厳しい条件を設けている。
本来の政治活動は、当然のことながら、選挙期間にも及ぶのであるから、その区別自体おかしいといえる。しかし現状では、時期を区切って、その期間を厳しく規制していることが公選法の特徴である。
また、選挙期間中はビラとはがき以外の文書図画(ぶんしょとが)の頒布・掲示は規制されている。もし、それを解禁するなら、法改正が必要になる。しかし、インターネットを利用してディスプレー上に表示されるホームページなども、文書図画(定義では「文字若しくはこれに代わるべき符号又は象形を用いて物体の上に多少永続的に記載された意識の表示」とされている)なのだろうか。紙に印刷されたものだけではなく、ディスプレーに表示されたものもネオンサインなどと同じ扱いで文書図画であるとされることが、IT利用の大きな壁になっている。
こういった壁を回避する何らかの方法はないかとさまざまな模索がなされているが、決め手はまだ見つかっていない。例えば、インターネットへの「アクセス」(接続)は、候補者の選挙事務所に出向いてドアを開け、そこで文書図画をもらってくることと同じという解釈や、ホームページを「ダウンロード」して印刷することが「頒布」にあたるとして規制されるという解釈には違和感を覚えるが、現行法では同じ扱いになる。「電子化された情報」の問題は通常のモノの世界とは本質的な差があり、法的に詰めるべき大きな問題を含むが、その体系化が十分なされているとは思えない。
選挙期間という「時間」の区切りの代わりに、選挙を「地上戦」、テレビ利用などを「空中戦」、インターネット利用を「サイバー戦」と「空間」区分で考えようという提起を私もしてきた。しかし「地上戦」では許されないのに、「サイバー戦」では許されるという説得力のある根拠を見出すことも、これまた難しいことである。
■選挙は有権者と候補者のコミュニケーション
基本的に選挙は、立候補者と有権者のコミュニケーションが成り立たなければならない。その手段として、これまでも手紙、電話、テレビなどが利用されてきた。その延長線上にあるのがインターネット(あえて定義すれば、「TCP/IPというプロトコルによって、世界中につながったネットワークの集合体」)であり、通信と放送の両方の特性を持っている。しかも「電子化された情報」は、発信も、検索も、獲得も、コピーも、即時・大量・安価にできるし、双方向のコミュニケーションも可能である。
選挙に金をかけないという趣旨からいえば、こんなに便利な手段はないはずである。一部の政治家たちは、ダウンロードして印刷するためには(パソコンやプリンターが必要で、紙代・インク代も)実際は相当費用がかかるとして「公平性」に疑問を投げかけている。しかし、それは問題の本質ではないだろう。
インターネット利用反対派の議論には、候補者に対する匿名による誹謗中傷の危険性を挙げる意見が一番多そうだ。だが、それは何も政治や選挙に限ったことではなく、インターネットに関わる一般的な特徴なのではないか。
ただし、将来ネット選挙が解禁されたら、サーバーへの攻撃などセキュリティー対策の強化も当然覚悟しておく必要がある。このような危険性を排除するための費用は誰が負担するのか。従来の「選挙公営」の考え方からすれば、選挙管理委員会が管理する「サイバー空間」に、ポスター掲示場のようなものを想定するのが1つの方法だろう。
もう1つの方法は、政党の「新たな役割」として、政党が責任を持って候補者のサーバー管理を行うということだ。サーバー攻撃を防ぎ、選挙期間中24時間管理しておくには、とても個々の候補者では対応が難しいからだ。
■「サイバー空間」での選挙と政治の再定義を
「サイバー空間」がビジネスのフロンティアを広げたように、政治の世界も「サイバー空間」を利用することが可能になったと考えるべきだろう。その空間での政党の役割、選挙や選挙区とは何か、電子化された情報をどう扱うべきか、匿名・誹謗中傷の排除にどう取り組むか、などの論点を体系化し、再定義すべきだ。
われわれはいま、政治家を交えて、公職選挙法の全面的な改正の研究会を始めている。だが、改正が実現するのはずいぶん先になってしまうだろう。当面は現行の公職選挙法と向き合って、インターネット活用を何とか模索しなければならないというジレンマが残ることになりそうだ。
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