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日銀短観の発表と当面の経済金融情勢
4月2日、日銀短観2007年3月調査が発表された。大企業製造業の業況判断DIは2006年12月調査のプラス25から2ポイント低下してプラス23となった。先行き6月見通しもプラス20に低下する見通しである。日本経済の改善は2002年1月から始動していることとされているが、循環的な経済変動の側面において、経済が調整局面の入り口に立っている可能性が高まっている。
米国経済も住宅価格の下落、住宅ローンの焦げ付きなどの要因により、住宅投資、個人消費に陰りが見え始めている。原油価格の下落が停止しているため、FRBは安易に利下げには移行しにくい状況に直面している。世界経済が緩やかな調整局面に差し掛かっている可能性が高い。
しかしながら、米国では2004年6月から2006年半ばにかけて、大幅な金利引上げを断行した。日本銀行も政府からの強い風圧のなかで、2006年から2007年にかけて量的金融緩和解除、ゼロ金利政策解除に踏み切った。欧州でも2005年末以降、段階的な金利引上げを実行してきた。日米欧が足並みをそろえてインフレの未然防止策を実行し、これまで成功を収めている。その証左が各国長期金利の落ち着きである。
今後、経済の調整色がやや強まった場合、金融政策は経済悪化に対応する金融緩和政策を実行しうる。この点が大きな安心材料である。
日本銀行が4月2日に発表した短観では、製造業を中心に企業の業況に陰りが生じ始めていることが示された。大企業の業況判断DIは12月のプラス25からプラス23に低下し、先行き6月見通しはプラス20に低下となった。大企業非製造業の業況判断DIは12月調査のプラス22から変わらず、先行き6月見通しはプラス23と、小幅改善となっている。
中小企業の業況判断は、製造業が12月のプラス12からプラス8に低下し、先行き6月見通しもプラス7に低下となった。非製造業では、12月のマイナス4がマイナス6に低下し、先行き6月見通しはマイナス10に低下となった。中小企業非製造業の業況は依然として悪く、5年以上にわたる景気改善のなかでも、中小企業非製造業の業況はプラスに浮上することなく再低下し始めている。
企業収益にも大きな変化が生じ始めている。2007年度上半期の経常利益見通しでは、大企業で前年度比4.8%の減益が見込まれている。全規模合計でも前年度比2.2%の減益見通しである。下半期には持ち直す見通しだが、今後の経済動向では2008年3月期の企業収益が減益に転じる可能性も浮上してくるだろう。
企業の設備投資計画にも大きな変化が生じ始めている。ソフトウェアを含み土地投資を除く設備投資計画では、2007年度に大企業でプラス4.1%、全規模合計で2.5%の伸びが計画されている。2006年度の実績見通しでは大企業がプラス11.2%、全規模合計がプラス8.7%となっており、設備投資拡大ペースが大幅に鈍化する可能性が示唆されている。設備投資計画は変動の余地は大きく、設備投資動向について現段階で断定的な判断を下すことは時期尚早であるが、今後、設備投資も減速してゆく可能性が生じていることには注意が必要である。
また、安倍政権の財政政策運営が強度の緊縮となっており、今後、緊縮財政運営について論議が高まってゆくことが予想される。
米国では、住宅投資の減速が住宅ローンの焦げ付き問題とも相まって、個人消費減速の原因になってゆくことが予想される。経済成長率が年率で2.5%以下に低下し、緩やかなリセッション(グロース・リセッション)に移行する可能性が浮上してくるだろう。株式市場は景気の循環的な悪化に神経質になると予想される。
しかし、FRBは2004年から2006年にかけて、予防的に短期金利を大幅に引き上げてきた。FFレートは1%から5.25%にまで、4.25%ポイントも引き上げられた。今後の情勢次第でFRBは金利引下げの対応を示すことができる。長期金利も低水準で安定しており、株式市場で大幅な株価下落が生じるリスクは高くない。
日本でも、景気の循環的な悪化方向への変化は、株価下落要因になりやすいが、株価の水準が利回りからみて依然として割安な水準にとどまっているため、やはり大幅な株価下落のリスクは限定的である。株式の利回りは長期金利と比較されるものであるが、現在の株式益利回りは5%近くの水準にあり、長期金利の水準よりも大幅に高い。依然として株価は割安であり、投資妙味が極めて大きい。
当面、内外市場ともに、景気の循環的な悪化見通しの広がりに伴う株価下落圧力の広がりに注意が必要であるが、日米欧ともに金融政策が適切に予防的な金利引上げ政策を採用してきたことから、今後予想される経済の循環的な悪化に対しても、金融政策が適切に対応してゆくことが予想される。
日本では、経済の悪化を未然に防ぐための財政政策の小幅の軌道修正が求められる。長期金利は依然として低位で安定しており、株価が大幅に下落するリスクは限定的である。株式投資については、長期的に成長力があり、PERが低位にある業種、企業に狙いを定めて、押し目買いの方針を継続することが有用と考えられる。
為替市場では、依然として円資金調達、ドル金利運用の「キャリートレード」のポジションが大規模に残存していることが予想される。米国で金利引下げの可能性が強く浮上する局面で、ポジションの巻き戻しから急激な円高が発生する余地が依然として大きいことに留意が必要である。
国内債券市場では、日本経済の循環的な調整の可能性浮上に伴い、再び緩やかに長期金利低下圧力が生じる可能性があるだろう。ただ、全体として長期金利の変動は限定的と考えられる。
4月8日に投票日を迎える統一地方選挙の第一弾では大きなサプライズが生まれない可能性が高まっている。日本の政治情勢の劇的転換が求められるが、現状では可能性がまだ見えてきていない。安倍政権は公務員の「天下り制度」の見直しを提示しているが、「天下り」特権の全面的な廃止には程遠い「まやかしの改革」案しか示すことができていない。官僚利権を温存する現行の諸制度を抜本的に刷新する大胆な改革案を野党が提示できなければ、7月の参議院選挙での政治状況の刷新も難しいと考えられる。
2007年4月2日
スリーネーションズリサーチ株式会社
植草 一秀
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