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「ヘッジファンドって何?」
(お忙しい方のために:簡単サマリー)
・ 今、世界経済ではヘッジファンドに対する米英の動向が注目されている。
・ 個人投資家にとっては、難しく、隠された存在のヘッジファンドだが、米英の動向次第では、市場に大きな影響が出るほか、今後の投資の在り方も変わってくる。
・ さらに、こうしたヘッジファンドだけにとどまらず、金融業界そのもの転換期を迎えているという評価もあり、「世界の潮目」として動向を見守る必要がある。
去る2月9日・10日の両日、主要7カ国財務省・中央銀行総裁会議(G7)が開催され、世界経済のリスク要因として、機関投資家のヘッジファンドを取り上げた。事前には、米英とドイツとの間に規制をめぐり温度差があると指摘されていたが、最終的には、共同声明でヘッジファンドがもたらすリスクに警戒が必要と表明された。そして、1兆5千億規模とされるヘッジファンド業界の透明性を向上させる取り組みを推進する方針が示された。
●日本のヘッジファンドと世界のヘッジファンドの認識
そもそも、ヘッジファンドとは何であろうか。
日本でヘッジファンドが有名になり、認知されはじめたのは、通称「村上ファンド」が台頭してきた頃で、比較的最近である。
だが、その「村上ファンド」は、従来の日本経済、証券市場との比較では異端児であり、同時期に社会の話題を独占したLivedoor社との関係、さらに双方とも「違法行為の摘発」によってマーケットからの撤退を余儀なくされたために、「道化者」として社会に記憶されてしまった感が強い。
ヘッジファンドは、元来、個人投資家が利用できるものではない。そのため、日本の多くの人にとって村上ファンドなどは、「お金持ち」がさらに「お金持ち」になるための道具でとしか思われていない。投資の対象として狙われた企業はともかく、ヘッジファンドの活動が日本経済全体を崩壊させかねないリスクであるとは認識されていないのだ。
ヘッジファンド、つまり機関投資家であるはずの村上ファンドと、一般企業であるLivedoor社が同一視され、それぞれインサイダーと不正会計という「悪行で儲けた」、現代の「越後屋」としての印象だけが残されたわけである。
だが、世界経済全体に目を向けると、ヘッジファンドそのものが、世界経済を危機に陥れかねないリスク要因として、先進国会議で議題となっている。
とりわけそこでは、多くのヘッジファンドを抱え、規制に対して消極的な米英と、これに対して厳しい規制を求めるドイツという、最近、弊研究所が何度も指摘してきた、世界のマーケットにおける「米独戦争」の一局面を見ることもできるのだ。
たとえば、米英に近い各国では、2月の世界同時株安の引き金がヘッジファンドであったとして、国際的にヘッジファンドへの規制の議論が高まりを見せ始めた中でも、ヘッジファンドを擁護する発言が続いている。例えばアイルランドの政治家で欧州委員会のマクリービー委員(McCREEVY, Charile)は、ヘッジファンドに規制は必要ないとする発言を続け、英フィナンシャル・タイムズ紙や米ヘラルド紙が掲載している(ロイター、ヘラルド)。
また、カナダ財務大臣も、今月開催されるG7に向けて、ヘッジファンドの世界的規制は不要であるとの考えを示した
(朝日、ロイター)。
当然、アメリカもポールソン財務長官が「ヘッジファンドのリスク、市場の規律で対処可能」と前回のG7後に発言をしている
(ロイター)。
また、ヘッジファンドに対して、ポールソン財務長官のもと米連邦準備制度理事会(FRB)、証券取引委員会(SEC)などが参加する金融市場作業部会は「規制よりも監視」によって監督するという2月22日に新指針をまとめた
(産経新聞)。
これに対し、ドイツは2月のG7前にはトーンを少し落としたものの、6月のドイツ・ケルンで開催される先進国首脳会議(ケルン・サミット)で、再度、ヘッジファンドに対する規制の強化を再提案する可能性が強まっている。
米国における動きは、ドイツのこうした「猛攻」への防御という側面が否めないが、米国自身がヘッジファンドの危険性を警戒していることも確かだろう。
なぜなら上記の「作業部会」は、1998年にアメリカのヘッジファンド、ロング・ターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)が引き起こした世界の金融危機の後に設置されたものだからである。また、最近では、昨年9月にアマランスが天然ガス市場で大損を出し、市場に冷や汗をかかせたほか、今年2月の世界同時株安の例もある。
私たちは、世界経済の動きを読むためにも、ヘッジファンドとは何かを知らなければならないだろう。
●ヘッジファンドとは何か?
ヘッジファンドとは何か、という定義について、実はほとんどの先進各国の規制当局が、正式な法的定義をしていない。当然、国際的に共通する定義も存在しない(詳しくは、IOSCO:証券監督者国際機構が2006年11月に発表した報告書「ヘッジファンドに対する規制状況―調査及び比較検討」(The Regulatory Environment for Hedge Funds A Survey and Comparison)を参照)。当局でさえこの有様なのであるから、個人投資家にとってわかりづらい、理解しがたいものであるのは当然だ。
ヘッジファンドの構造は非常に複雑であるが、その特徴は次のようである。
(1)一つのファンドあたりの資産規模が、大型の投資信託に比べ、大きくない。
(2)主に私募債である。
(3)最低投資金額は日本円でも1億円以上である場合が多い。
(4)投資戦略は、市場の傾向によって推移するが、伝統的なロングショートからエマージング(新興市場)、ファンド・オブ・ファンズなど様々な戦略をる。
(5)複雑で、レバレッジをかけた(信用売買など)戦術をとることがある。ロングショート資産のみならず、コモディティー(原油、金属、貴金属など)での先物、スワップなどのデリバティブ(金融派生商品)なども扱うため、通常の投資信託よりも複雑な戦略・戦術をとれるのである。
投資商品自体に、個人投資家では手を出すことさえできないものが含まれるほか、高度に専門的で複雑な理論を構築する場合もあるが、その手法がわかって真似ようとしても、実際に運用することはおよそ出来ない。
こうした特徴には、それぞれ理由が存在する。
「資産規模が大きくない」のは、ファンドの規模に制限を設けているためだ。例えば小型株、新興市場、あるいは一部のコモディティーなど資金の流動性が低い市場においては、自らの投資行動が相場のかく乱要因となり、想定したパフォーマンスが取れなくなることがある。あるいはアマランスの例のように多額でポジションを構築したことが、想定外の価格下落に対したポジションの解消を困難にし、その間に損失が拡大することもある。こうしたリスクを避けるためには、小回りの良さが必要なのである。
「私募債である」のは、当局の規制を回避するためである。私募債とは、証券取引法などで規定された人数以下で勧誘する投資信託である。当局の規制から逃れることで、情報の開示義務が緩いか、あるいは全くないため、金融におけるイノベーション(新しい手法の開発)によって投機することができる。
それに対し通常の公募型投資信託では、投資に詳しくない個人投資家からの投資を含むため、投資家保護のために、当局から情報開示のほかにも、投資商品の制限など様々な規制を受けることになる。
アメリカでは、いくつかの例外規定があるが、たとえば、the Investment Company Act of 1940(米国証券規制に関してはこちら)のもとでは、投資資産が500万ドル以上の投資家が99人以下の参加であるなら、私募債とされ同法の規制の例外となって、規制から逃れることができる。
このように参加できる投資家の条件には、投資資産総額、あるいは年収などの制限が法律上で加えられているので、「最低投資金額は高額」となる。これは、規定された条件を満たす投資家であれば、投資家保護を受ける必要のない、いわば投資のプロであると認められるからである(accredited investors or qualified purchasers)。
規模を比較的小さく設定する、そして私募債である、という条件から、運用成績の良いヘッジファンドは、投資者の選定を行うことになる。つまり、いくら資産のある投資家であっても、ファンドに参加できるとは限らないのである。
以上のような理由から、ファンドに参加できる投資家は、機関投資家、投資のプロ、あるいは非常な富裕層に限られてくるのである。
ヘッジファンドの戦略は多様だ。
その戦略の種類は1.「グローバル・マクロ」、2.「アービトラージ」、3.「ロングショート」、4.「イベントドリブン」、5.「その他」の5つである。それぞれを詳細に説明しないが概要だけ触れておく。(なおこれらの分類は、決定的なものでなく、様々な分類方法があることに留意して頂きたい。)
─「グローバル・マクロ」は、各国の株式や債券、為替などの市場で価格形成のゆがみやトレンドに投資機会を見出すものである。この戦略をとる場合、世界の各市場で多種多様なポジションを張ることになる。
─「アービトラージ」は、いわゆる鞘取りで利益を稼ぎ出す売買手法をとるものの中で、裁定取引(アービトラージ)を利用したものである。細分化すると、転換社債などを利用した転換アービトラージ、固定収入アービトラージ、リスクアービトラージ、統計的アービトラージ、デリバティブアービトラージなどがある。
─「ロングショート」は、伝統的な手法であり、有価証券(株式など)のロング(買い)とショート(売り持ち)の双方のポジションを同時に取るものである。ヘッジファンドにとっては原始的な方法であり、売りと買いを両方仕掛けていることから、相場に対してリスクヘッジが可能であり、ここにヘッジファンドという名称の由来がある。ショートに重点を置いたものをショートバイアス、ロングとショートを同規模ずつ持つのが、株式市場中立型(マーケットニュートラル)という。
─「イベントドリブン」は、企業の合併や、事業再編など特定の出来事(イベント)を利用するものである。
─5の、「その他」には、新興市場への投資、あるいはファンド・オブ・ファンズ(ファンド・オブ・ヘッジファンド:FoHF)、すなわちヘッジファンドに対してポートフォリオ(分散)投資するヘッジファンドが含まれる。
なぜファンド・オブ・ファンズのようなものがあるかというと、年金基金などの機関投資家もヘッジファンドをポートフォリオに組み込んでいるが、彼らは、ヘッジファンドなどを詳細に調べる、つまり投資先として適当であるかを調べるデューデリジェンスを単独で行う能力がないことが多いためである。したがってこうした機関投資家はヘッジファンドをポートフォリオに組み込む際に、直接ヘッジファンドへの参加をするのではなく、ゲートキーパーと呼ばれるヘッジファンドを専門とする投資顧問の運用するファンドへの投資をすることになる。それがファンド・オブ・ファンズである。
しかし、ファンド・オブ・ファンズへの投資に対するリターンは相当圧縮されるのが通常だ。ファンド・オブ・ファンズが投資する先のヘッジファンドにおいて、まずその運用収益に課税され、さらに彼らは手数料を取る。ファンド・オブ・ファンズは、それらが差し引かれた後の収益に課税を受け、さらに手数料を自ら取る。そうすると、ファンド・オブ・ファンズへの投資者である年金基金などは、3重課税の上に2重に手数料を取られることになる。年金基金に投資をしている一般企業や一般の人々はさらに搾り取られることになるのはいうまでもない。
それでも、ファンド・オブ・ファンズが成立しているということは、現在のヘッジファンドがそれだけの運用実績を持っている、あるいは運用実績があるように見せている、ということなのだろう。
●ヘッジファンド規制議論の真の狙い
ここまでの御説明で、ヘッジファンドが、個人投資家にとって非常に遠い存在であることを御理解頂けたであろう。しかし、ここにいくつかのニュースと視点を付け加えることで、現在の先進国、特に米英とドイツの間の、ヘッジファンド規制に関する対立を読み解いていくことが可能なのである。
個人投資家が自分の身を守るために重要であるのは、ヘッジファンドが本当に危険であるかどうか、どうやって儲けているのか、を専門的に詳しく知ることではない。なぜならたとえヘッジファンドが本当に危険であるとしても、それを規制する力は一般の投資家にはなく、また成功しているファンドの手法はどのような戦略においてであれ、ほとんどが高度に専門的で、一般に利用できるものではないからである。
昨今、ヘッジファンドが数多く立ちあげられているが、専門家であるそれらヘッジファンドでさえ、マーケットにおいて苦戦し、多くのファンドが破綻し、撤退していっているのもまた現状である。独創的な仕組みをつくり、運用できないファンドは、他のファンドと同調的にならざるを得ず、全体として大量に張られたポジションは収益率を低下させ、またそれらは成功しているファンドの餌食になるからである。
さらに言えば、どのような手法であっても、絶対確実に安全な投資法は存在しない。先ほどあげたLTCMは、天才的な投資トレーダーと天才的な経済学者が、完璧(に見えるよう)な仕組みをつくりあげ、驚異的な運用実績をあげた。LTCMは、ベルリンの壁崩壊後のロシア・東欧資金の流入、そしてそれに続くアジア通貨危機によって崩れた相場において、それまで絶対確実で安全な投資法と言われながら、結局、破綻した。そしてLTCMの破綻は、リスクマネージメントを怠っていた多数の参加金融機関へと波及し、マーケットに大きな危機をもたらしたのである。
このような危機を経験しつつも、米英がヘッジファンド規制に関して「消極的」であるのはなぜか。もちろん、ニューヨークとロンドンという二つの巨大な金融マーケットと、自ら多くのヘッジファンドを抱えているからという理由はある。
だが、ヘッジファンドは、まさに「越境する投資主体」として、世界中を移動していることに注意しなくてはならない。他の先進国の市場のみならず、東欧、とりわけ最近ではアジアのいくつかのマーケットにヘッジファンドが流入している。
米英がこれまで世界の各国に対して行ってきた、「創造し、破壊し、奪っていく」パターンを思い浮かべれば、ヘッジファンド規制に対して米英がどのように動くかで、今現在彼らがどのフェーズにおり、これから何をしようとしているかを推測することができる。それが出来れば、個人投資家も米英の動きを先読みし、どのように行動すれば良いかを考える足がかりを得ることもできるのだ。
村上ファンドの村上世彰代表が逮捕前に運用拠点を移したことで注目を集めた、シンガポールには、世界のファンドが集結していた。シンガポールの規制当局である金融通貨庁(MAS: Monetary Authority of Singapore)によると、「証券・先物法」に基づくライセンス(免許)対象外のファンド、すなわちここでいう私募債によるファンドにあたるものが、2001年にはわずか数十社であったものが、2004年には約70社に急増した。村上ファンドで注目を浴びた昨年6月時点で300近いファンドが活動、現在では350社近い。運用資金の出資元の地域別内訳は、アジア・太平洋地域が半分を占めつつ、欧州、米国からも大きな資金が流入している。そこへ、中東マネー、さらに日本からの資金が流入し始めたのである。
そのシンガポールに対し、複数の有力投資家から、現在は緩めとなっているヘッジファンドに対する規制を強化するよう迫られている、というニュースが3月29日付の英フィナンシャル・タイムズ紙に掲載された(記事はこちら)。しかし、実際にシンガポールにおける規制に「強化」は本当に必要なのだろうか?
先ほどあげたIOSCOの報告書によれば、イギリスでは、ヘッジファンドは登録も規制も適用されず、運用者だけが公認・規制されているのみである。他方アメリカでは、SECとCFTCの二つの規制当局があるが、SECでは登録も規制も適用されず、運用者にも規制は適用されない。CFTCでも運用者に規制がかかるのみである。
これに比べて、市場が適正であり、ルールが透明で、政治が安定していることで有名なシンガポールのヘッジファンドへの規制はむしろ「他国より厳しい」といっていい。シンガポールがヘッジファンドを引き付けたのは、そのような健全な市場であることと、税金の安さからである。そこに規制を強化せよという。米英の本国においては、規制の強化がなされる方向にはないにもかかわらず、である。
ここで思い出していただきたいのが、一つのマーケットの格言である。それは「中東と日本が出てきたら、売り」というものである。アジアの新興株は昨年から依然高騰を続け、中東と日本の資金が流入してきた。そこに米英から規制強化の声、となると、シンガポールにおける米英資本のフェーズがどこにあるか、おのずとみえてくるのではないだろうか。つまり、そこでの規制強化は、アジア株、とりわけバブルに沸く中国株の「売り崩し」のための仕掛けとなる疑いがあるのだ。
そこで、こうしたシンガポールの事例をみつつ、また世界へと目を向けてみよう。
今、世界経済において、最も注目されているものの一つが、ヘッジファンド規制に対する米英の動向である。今月のG7(米:ワシントン)、6月のケルン・サミットで、米英が「ヘッジファンド規制」についてどのように動くのかその展開をめぐっては大きな二つのシナリオが想定される。
一つは、他国でヘッジファンドへの規制が強化される動きを容認しつつ、米英は依然として自国での現在の「規制」を維持する(=規制強化をしない)シナリオである。この場合は、各国の規制強化を理由に、資金を引き揚げることになるので、その前に米英系外資は「利益確定」に出るはずである。
もう一つは、世界での規制強化の動きに同調して、ヘッジファンド規制のスキーム構築に乗り出すシナリオである。この場合は、「破壊」に続く、「創造」のフェーズといえる。こちらでも当然、事前に収穫を行う、あるいはすでに行っているかもしれないが、その後に新たな収益をもたらすスキームを用意していると想定しておくべきだ。
ちなみにヘッジファンドに限らず、1990年代に入って、これまで金融マーケットを牽引してきた「主役」たちが総じて転換期を迎えているのではないかという評価もある。たとえば、4月4日付のフィナンツ・ウント・ヴィルトシャフト紙(スイス)は、「プライヴェート・エクィティの方向付けは難しい」と題する記事を掲載している。これによれば、カーライル、KKR、あるいはブラックストーンといった有名な巨大機関投資家=「プライヴェート・エクィティ」は、あまりにも「日常的な存在」となりすぎてしまっており、従来の「非公開」「閉鎖的」を旨としてきた性格を失ってきているのだという。とりわけブラックストーンが上場を発表したことは、こうした金融市場の覇者たちの「黄昏」を示唆するものであるとして、注意を喚起している点に注意しておきたい。−−−ひょっとしたら、金融マーケット全体の「パラダイム転換」の日はそう遠くないかもしれないのである。
ここまでくれば、個人投資家にとってみれば遠く、難しいと思っていたヘッジファンドとそれをとりまく各国の思惑が、身近なリスクとして存在していることを理解して頂けたのであろう。そしてそのリスクがいつやってくるかを未然に察知するために、ヘッジファンドなど、「越境する投資主体」が世界中で織り成す「世界の潮目」を見守り続ける必要があるのだ。
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