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2007年3月 3日 (土)
NHK改革とは何なのか?改革が進んだら受信料を義務化してよいのか?
視聴者不在の綱引き騒動
菅総務相が受信料の義務化とセットでNHKに迫った受信料の2割値下げにNHKが応じなかったことから、今国会に提出される予定の放送法改悪法案に受信料の義務化は盛り込まれないことが確実になったと報道されている(私はまだ、義務化法案が断念されたとは楽観していないが)。しかし、受信料義務化問題をめぐる報道を見ていると本質からずれた思考停止の記事や解説が少なくない。
たとえば、3月3日付『東京新聞』(8面)は「受信料バトル」という見出しで、<総務相 強引際立つ>、<NHK 改革遅れる>というタイトルを対置した記事を掲載している。その中で、局長などを飛び越して放送業務担当課長を更迭した菅総務相の強引な手法を指摘する一方で、多額の徴収コストにメスを入れず、受信料値下げを渋るNHKに改革の意欲がないと迫る菅総務相や片山虎之助自民党参議院幹事長の言動を紹介している。
しかし、受信料の義務化は、これら政治家が言う「NHK改革」の進捗と引き換えに容認される「帳尻あわせ」の話なのか? 受信料の義務化は、受信料の値下げ原資を確保するための単なる増収対策なのか? こうした議論の根底には受信料の値下げを施せば視聴者は義務化にも応じるはずという思い上がった、視聴者を愚弄する意識が見え隠れしている。
何をすることがNHK「改革」なのか?
しかし、そもそも論として、受信料の不払い・支払保留が急増したのは、NHK内部での相次ぐ金銭的不祥事に加え、政治におもねる報道姿勢への批判が原因であり、受信料が高いことへの不満が原因だったわけではない。ただ、しばしば、徴収コストの高さがNHKの非効率の例として指摘されるので、この点を事実に即して吟味しておきたい。
NHKの契約収納費の推移
(単位:百万円)
年 度 契約収納 契約収納 受信料
業務費 推進費 未収金
1999 40,055 17,931 21,281
2000 40,355 21,057 22,784
2001 41,015 21,384 24,633
2002 40,556 22,089 26,625
2003 40,872 21,682 26,805
2004 38,075 23,274 37,383
2005 37,203 26,812 64,166
(NHK公表の各年度決算書より作成)
この表でいう「契約収納業務費」とは、地域スタッフ等への報酬、金融機関への口座振替手数料等の受信契約及び受信料収納に要する経費を意味し、「契約収納推進費」とは、受信契約・受信料収納の推進対策及び情報処理等に要する経費を意味するとされている。
そこで、上の表を見ると、1999年度比で契約収納費は10.5パーセントポイント増加しているが、内訳で見ると、契約収納業務費は7.0パーセントポイント減少する一方、契約収納推進費は約50パーセントポイント増加している。つまり、受信料徴収コストの増加はもっぱら受信契約や受信料の支払いを督促するための経費の増加を意味したことになる。これは、受信料未収金が急増した2004年度以降、契約収納推進費が急増していることからも裏付けられる。
とすれば、受信料徴収コストの削減は、NHK「改革」の対象・目標として位置づけられるものではなく、受信料を自覚的に支払おうとする視聴者の信頼を取り戻すようなNHK改革が進捗した結果として期すべきものというのが正しい理解である。言い換えると、NHKに課された「改革」とは経営の効率化である前に、視聴者からの信頼の回復であり、それが果たされてこそ、財務的意味での「改革」ーー受信料収納コストの削減ーーが進捗するという関係にあるのである。
この点でいうと、NHKが東京都内で始めた民事督促を全国展開し、1000万件近い未契約者に契約締結を求める民事訴訟を起こすとなれば、契約収納費の削減を謳いながら、その実、契約収納推進費がさらに膨らむのは必至である。原因と結果を取り違えた「改革」が行き詰まるのは目に見えている。
受信料義務化はNHK「改革」の報償なのか?
3月3日付『朝日新聞』のbe on Saturday 欄に「受信料の支払い義務化をどう思うか」をbeモニター(回答3080人)に尋ねたアンケート結果とその解説記事が掲載された。それによると、賛否の分布では、
義務化に賛成 41%
義務化に反対 50%
わからない 9%
となっている。記事の中で紹介された賛否の理由はそれぞれ興味深いが気になるのは解説記事の結びの次の文章である。
「値下げが先か。義務化が先か。NHKも歩み寄りの姿勢が求められているのではないでしょうか。」
私に言わせると、義務化は値下げの前でも後でもない。義務化を値下げとセットで議論すること自体が思考停止なのである。私がそう考える理由はこのブログで何度か記してきた。要点を繰り返すと、受信料の支払い義務を公権力が定める片務的な法律で定めるのか、視聴者とNHKが交わす双務契約で定めるのかで、NHKに対する視聴者の位置取りは根本的に変わってくる。
なぜなら、受信料の支払い義務を法律で定めるとなれば、受信料はその収納を公権力を後ろ盾にした強制力で担保される税金に準じたものになり、視聴者はNHKが提供する放送内容がどうであれ、受信料の支払いを強制されることになる。そして、義務化だけでは収納実績が上がらないとなれば、その先には延滞に対する割増金、不払いや支払い保留に対する罰則規定が待ち受けている。そして、こうした法の強制力の執行はNHKの手を離れ、公権力の手に委ねられる。そうなれば、NHKはますます行政府に対する依存度を深める結果になる。
これに対して、受信料の支払い義務をNHKと視聴者が交わす受信契約で定める現行の仕組みでは、視聴者は契約の相手方であるNHKが公共放送としての責務、とりわけNHK自身が「公共放送の生命線」と言い切った政治から自立した放送を提供するという責務、を果たさない場合、契約上の自分の義務である受信料の支払いを停止する抗弁の権利を持つことになる。そして、こうした抗弁権の行使を通じて、視聴者はNHKの報道姿勢を監視し牽制するガバナンスに参画できることになる。
放送法が受信料の支払い義務を明記せず、受信契約に委ねた背景には、双務契約に内在するNHKと視聴者のこうした自治的統治への強い期待があったことは、荘宏『放送制度のために』に記されているところである。
NHK、特にそのトップに立つ人物には放送メディアを担うに足る見識が求められるが、NHK「改革」を財政の帳尻合わせでしか論じず、受信料の義務化問題をNHK「改革」の報償かのように報道する報道関係者もメディアに関わる人間としての資質が問われている。
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/blog/2007/03/post_b360.html
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