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□安倍晋三と中川秀直に「致命的なズレ」 [FACTA]
http://seiji.yahoo.co.jp/column/article/detail/20070228-01-1101.html
2007年2月28日
安倍晋三と中川秀直に「致命的なズレ」
同じ舟に乗っていると分かっていながら不信の連鎖。すっかり政権末期現象だ。
2月5日昼、首相官邸。首相・安倍晋三と自民党幹事長・中川秀直は冷え冷えとしたやり取りをしていた。
中川「内閣支持率が下がっている要因の一つは首相のリーダーシップへの催促だと受けとめています。我々が支えますから。本来の闘う政治家として指導力をどんどん発揮していただいて結構ですから」
安倍「分かりました。そうします」 記者会見で会話の内容を明かしたのは中川。安倍の指導力不足への批判としか取れない異例の進言だった。
宮崎県知事選の「そのまんま東ショック」に続き、厚生労働相・柳澤伯夫の「女は産む機械」発言。自民党は北九州市長選を落とし、愛知県知事選も辛勝だった。支持率の右肩下がりに歯止めがかからず、特に無党派層の離反は深刻だ。一枚岩を装ってきた安倍と中川のミゾもついに露呈、すっかり政権末期現象だ。
官邸には「お友達」の壁
安倍と中川。前首相・小泉純一郎から、同じ森派(清和政策研究会)の釜の飯を食った誼(よしみ)で重用された。小泉の威光を最大限利用し、急速に台頭。ポスト小泉でも「清和会政権」の既得権を守る打算から、互いの力を必要とした。安倍は表の選挙の顔、中川は裏の汚れ役という分担だ。
ただ、中川は小泉流の官邸主導の信奉者なのに対し、安倍の政治手法は小泉と対極に位置する。両雄の「分裂症」が政権迷走の底流にはある。
致命的なズレは昨夏、自民党総裁選の前からのぞいていた。安倍を推し立てた中川はこう豪語していた。
「ポスト小泉に必要なのは公約を捨て身で実現する覚悟で、数ではない。首相指名で賛成するが、実際にやる政策には反対だなんてことは許されない。公約実現のための闘う仕事師内閣を作らざるを得ない」
小泉流の継承を当然視した中川。郵政民営化ばりの思いきった改革マニフェスト(政権公約)を安倍にも掲げさせ、党内の敵をあぶり出す踏み絵とする。それでも安倍を支持するコアな勢力で強い政権基盤を創出し、高い支持率を背景に改革断行路線で参院選を乗り切る戦略だった。
ただ、安倍は現官房長官の塩崎恭久ら「お友達」に公約作りを委ねた。タイトルの「美しい国、日本」が象徴する抽象的なスローガンを羅列し、「たった4ページ」の薄っぺらなパンフレット。中川が勧めた戦略を安倍は却下した。小泉流とはまるで逆。なるべく敵をつくらない党内融和の安全策を選んだのだ。
中川は公約作りから外されていた。官房副長官・下村博文、首相補佐官・世耕弘成ら清和会の若手が主力の「チーム安倍」が安倍を囲い込み、うるさい小舅・中川を遠ざけようとした。中川は「小さな行き違いも積み重なれば、小泉における元官房長官・福田康夫のように切られかねない」と焦り、安倍と直に意思疎通する機会を増やそうとするなど巻き返しに躍起になった。
安倍は案の定、幹事長に現外相・麻生太郎の起用に傾き、中川は経済財政担当相にと元首相・森喜朗に相談を持ちかけた。中川は兄貴分の森と二人三脚で安倍を押し返し、幹事長をもぎとったが、官邸には塩崎以下ズラリと「お友達」の壁。政調会長にも安倍はタカ派の盟友、中川昭一を送り込んだ。「幹事長に党執行部の全権を委ねたわけではない」と楔を打ち込む意思表示だった。
安倍は政権発足直後に電撃訪中。舞台回しの立役者は外務事務次官の谷内正太郎だったが、某紙は中川が中国国家主席・胡錦涛の側近に根回ししたと報じた。中川は「でたらめを書くな!」と怒髪天を衝いた。中川が自分の手柄だとリークした、と安倍に疑われでもしたら、バッサリ切られかねないと慌てた。
小泉継承か断絶か。ねじれは郵政造反組の復党問題で決定的になった。郵政解散に懐疑的で、造反組に平沼赳夫ら友人が多い安倍は確信犯の容認論。本心は復党反対だった中川に後始末を押し付けた。中川が安倍の意向を尊重し、小泉をも慮って七転八倒した末の中途半端な結論が「詫び状」要求とそれを拒んだ平沼の復党見送りだった。苦肉の世論対策をよそに安倍の支持率は急落した。
稚拙な安倍に精一杯の皮肉
中川は森と瓜二つで、堂々たる体躯に似合わず「超」がつく細かい性格。婿養子に独特の弱さも内包する。安倍との目に見えない緊張関係を知らない党内外から「政権の大実力者」扱いされればされるほど、異様なまでに神経を尖らせる。政治家の中では情報量が格段に豊富と評判の中川ブログをのぞいてみよう。
「安倍総理はマウンドで仁王立ちしている」「施政方針演説で、国民が待ち望んだ総理の力強いメッセージが発信された」。中川は安倍に言及する際、必ず冒頭に「安倍支持」を明言する一節を入れる。「安倍支持」をくどいほど繰り返すのは、官邸の猜疑心を招かないためだ。ただ、水面下のぎくしゃくを隠し切れなくなったのは昨年12月19日だった。
「一般論としては企業にも政治活動の自由は認められている。法人税の支払いの有無によって寄付を制限する規定は関係法令にはない」
中川は午前の会見で、自民党が大手銀行からの政治献金受け入れを再開する環境が整ったと強調した。経団連とも調整済みで、官邸にも経過は報告したはずだった。わずか数時間後、安倍が中川を官邸に呼んだ。
「銀行が公的資金で立ち直り、法人税も納付していない段階で献金を受けるのは国民の理解を得られない」
青天の霹靂だった。ハシゴを外された経団連やメガバンクは激怒し、中川の顔は丸つぶれ。小泉も数々のサプライズを演出したが、ここまで幹事長をピエロにした仕打ちはない。
年明けから文部科学相・伊吹文明、農水相・松岡利勝、民主党代表・小沢一郎らの事務所費の疑惑が広がり、野党から政治資金規正法の改正論が高まった。1月28日、中川はテレビ出演で「政治活動の自由の問題もあり、慎重な議論が必要だ。党の内規でできないか」と防戦に努めた。
翌29日は午後から衆院本会議で各党代表質問を予定していた。開会直前の昼、安倍が中川を呼んだ。「政治資金規正法の改正も視野に入れ検討してほしい」。中川は悪夢のようなデジャヴ(既視感)に襲われた。
ただ、柳澤発言に世間の関心が集中し、安倍流の官邸主導は埋没した。中川が安倍に「リーダーシップの発揮」を迫ったのはこの1週間後。もはや稚拙な安倍流への精一杯の皮肉としか聞こえなかった。半面、安倍官邸から見れば、中川には頼り切れない。いつ「お荷物」と化すか一抹の危うさもつきまとうからだ。
1月、官邸に怪電話が鳴った。
「お前たち側近は美しい安倍晋三に薄汚い者を近づけるなよーッ」
戸惑った官邸スタッフが「誰のことですか」と問い返した。
「決まってるだろう。ナ・カ・ガ・ワだ。雑誌にまた写真が出るぞーッ」
おどろおどろしい警告の主は暴れん坊ハマコーこと浜田幸一。官邸は揺れ、安倍にも報告が上がった。
安倍も中川も参院選をしのがなければ政治生命がない。同じ舟に乗っていると分かっていながら不信の連鎖。「野党の審議拒否に屈するな」。中川は柳澤更迭論を抑えるのに、小泉から励ましの電話をもらったと「お墨付き」にすがる始末だった。政権の危機に小泉だけが高みの見物。再登板説が独り歩きする。(敬称略)
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