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□浅野の東京大変身計画 [AERA]
http://seiji.yahoo.co.jp/column/article/detail/20070312-01-0101.html
2007年3月12日
浅野の東京大変身計画
経歴、思想、政治手法、すべて石原知事とは対極的に見える。
そんな人が4月の都知事選に乗り込んできた。これは面白くなりそうだ。
「男前ではないし、背も高くなく、地味。絵に描いたような高級官僚なのに、中身は違うんですよ」
障害者団体の役員・松友了さん(59)は、前宮城県知事・浅野史郎が厚生省の障害福祉課長だったころからの知り合いだ。
アポなしで全国の施設を訪れ、話を聞くフットワークの良さに驚いた。福祉の分野で先端的な活動をしている人を招き役所の会議室で語り合う「人権研究会」を主宰していた。謝礼なし、講師は次回からメンバーになれる。缶コーヒーだけで徹底討論、2次会は割り勘で居酒屋に繰り出す。
「オレだって本庁の課長だぞ、なんて冗談を飛ばすほど、偉ぶらない。目線の低さは知事になっても変わりませんでした」
厚生省時代を知る人たちは、浅野の功績を「福祉行政を変えた二大改革」という。
いまや当たり前になった「グループホーム」を日本に導入した。当時、知的な障害のある人は施設に収容される隔離政策が採られていた。家族の負担は減るが、障害者は社会からはじき出される。
浅野は「地域社会を障害者の受け皿に」と街中にグループホームをつくる政策に舵を切った。
「横浜の田園調布」と呼ばれる栄区桂台中に重度の身体障害者が通う「朋」が出来たのは1986年。「高級住宅地になんで重度障害者の施設なのか」と難色を示す人もいたが、全国初の重複障害者の通所施設になった裏には障害福祉課長だった浅野の奮闘があった。
「当時、複合障害のある人は社会から隔離され、施設に預けるか在宅で面倒みるかどちらかだった。浅野さんは社会との接点を重視され、通いで仕事や学びができる道を開いてくれた」
朋を運営する生田目昭彦さんは語る。
石原慎太郎東京都知事は99年、重度の知的障害者の施設である府中療育センターを訪れた後、記者会見で「ああいう人ってのは人格があるのかね」と語った。会見後に「文学者としての表現」と注釈を加えたが、福祉関係者の間では「石原知事の障害者観がにじみ出た発言」と受け止められている。
福祉から情報公開へ
もう一つの大仕事が障害基礎年金。20歳までに重い障害を負った人は掛け金を払わなくても月7万〜8万円の基礎年金を受給できる。年金は掛け金を払うのが原則だが、子供の頃に重い障害をもつとまともな収入の道を断たれる。
浅野は経営者や労働団体を説得して回り、社会で支える仕組みをつくった。
宮城県知事に立候補したのは45歳の時。福祉仲間は大挙して応援に駆けつけた。ゼネコン汚職で逮捕された知事の後任を選ぶ選挙だった。告示3日前に突然名乗りをあげ、泡沫扱いだったが、みるみる間に風をつかみ、当選した。
「福祉の浅野」が「情報公開の浅野」に変貌する。汚職摘発をきっかけに県庁を見る目が厳しくなり、市民オンブズマンが情報公開制度を使って不明朗な行政を調べるようになった。
カラ主張や官官接待など不正があちこちで見つかり、知事として被告席に座った。だが、「防御」には回らなかった。不都合な真実をどんどん認め、そのたびに減俸など自らに懲罰を与えた。敗訴しても控訴しない。県民の関心を高めることで県政は変わっていく。
全国市民オンブズマン連絡会議は98年から都道府県ごとの情報公開度を調査している。宮城は7回全国一の評価を受け、浅野県政では5年連続で1位となった。東京は「失格」が続いている。公開度が低いことに加え、資料請求を有料にしているので「根本的姿勢に問題あり」とされている。
情報公開では県警本部長と正面衝突。警察が協力者に支払う「報償費」が架空や他人の名義で支払われていることがオンブズマンの調べで分かった。「裏金」に使われている疑いは濃く、県は独自に調べようとしたが、本部長は「捜査の秘密」を盾に拒否した。
浅野は「明快な説明と情報公開がない限り予算は執行させない」と報償費を止める強硬策に出た。知事が県警に対し「裏金の疑いあり」と見なしたわけで、ことは宮城県に留まらず「裏金は存在しない」とする警察庁との衝突に発展した。
「警察に刃向かえば身辺を徹底的に洗われる。身ぎれいでなければ戦えない。浅野さんは気さくな人柄だが、芯は強く豪胆だ」
裏金問題を追及してきたジャーナリストの落合博実氏は言う。
「普通の生活」が基本
福祉、情報公開と並ぶ浅野の看板が「入札改革」である。
「このごろ全国の自治体から視察団がやって来て対応が大変」と県の入札適正化委員会の小野寺信一弁護士は言う。
談合と汚職を根絶しようと浅野時代、宮城県は1000万円以上の契約はすべて一般競争入札にしだ。その結果、落札率は80%を下回り、全国一低くなった。建設会社は音を上げたが、隣の福島など3県で知事が談合で逮捕される事態となり、国土交通省も重い腰を上げるようになった。各地の自治体は競争入札の徹底を迫られ、「先進県宮城」を手本にするようになった。
行政組織や権力は腐敗しやすい。不断の改革と市民の視線にさらすことが公正な自治に欠かせない。
緊張感が緩むと外国出張で豪華なクルーザーを繰り出して島巡りをしたり、高級料亭で身内と宴会をしたり、息子に公務をあてがって外遊させる、など税金の私物化といえるような振る舞いが起きたりする。
普通の生活が浅野の基本だ。
「権力的でない姿勢」は選挙にも表れていた。政党の支援を断って無党派で出た2期目の選挙を取材したことがある。
100円のカンパを集める。人がごった返す選挙事務所はなく、地域ごとに集会場のようなところでおばさんたちが集まり、手分けして電話をかける。自発的な応援団が、友達ネットワークを活かして票を掘り起こした。対立陣営は大規模な集会を各地で開き動員をかけ見かけは盛況だったが、ふたを開けると浅野がダブルスコアで勝った。地味だが本気で動く草の根選挙だった。
大都会の東京に草の根が広がるかは未知数である。知名度も石原知事より圧倒的に低い。不利な選挙に敢えて出る決断をした浅野に風が吹くとしたら、石原都政への違和感をどう引き寄せるか、にかかっている。
都知事になったら…
浅野が都知事になったら、真っ先に手をつけるのが情報公開による都庁改革だろう。職員17万人、予算13兆円の巨大組織は自ら改革するには重すぎる。都民の監視と住民参加で改革を進めるしかない。脱側近政治から開かれた都政への転換が図れるか、が焦点だ。
入札改革で業者と行政の癒着を断ち切る。これは知事が決断すればできることだ。抵抗は強いだろうが宮城で実績はある。
そして福祉。少子高齢社会をどう生きるか、は浅野のライフテーマだ。財源が豊富な東京は福祉モデル都市になれる。宮城で道半ばだった「障害者施設の解体」に手を打つだろう。「解体」とは障害者に地域で普通の人と一緒に暮らしてもらう、という意味だ。ハコもの福祉からの脱却でもある。
都知事選の焦点になっている「東京五輪の誘致」もこの延長線にある。お祭り好きな慎太郎知事は「責任を放棄するわけにいかない」と三選出馬の根拠にしていた。
「今どき五輪か?」という意見は反石原勢力に少なくないが、浅野はこの問題を「複合五輪」に昇華するのではないか。
「スーパースターの競技会ではなく、障害者五輪と一体化した新しい五輪を東京から始めるなら意味がある」と支援者は言う。頑固に拒否するだけでは、人々の心はつかめない。旧態依然のイベントを、時代に沿った形に変える。新しい運動を起こすのが浅野流だ。
編集委員 山田厚史
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