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小泉「裏官邸」と竹中官房長官説 [文芸春秋]
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投稿者 white 日時 2007 年 3 月 10 日 16:21:01: QYBiAyr6jr5Ac
 

□小泉「裏官邸」と竹中官房長官説 [文芸春秋]

▽小泉「裏官邸」と竹中官房長官説(1)

 http://seiji.yahoo.co.jp/column/article/detail/20070310-01-0701.html

2007年3月10日
小泉「裏官邸」と竹中官房長官説(1)
早くも赤信号の灯る安倍政権。焦った中川幹事長は小泉に泣きついた
「支持率なんて上がったり、下がったりするんだ。一喜一憂するな。目先のことにもっと鈍感になれ。『鈍感力』も大事だよ」
 二月二十日昼、国会内。前首相・小泉純一郎は自民党幹事長・中川秀直や官房長官・塩崎恭久らを前に檄を飛ばしていた。首相・安倍晋三の求心力低下で不協和音ばかりが目立つ政府・自民党首脳。小泉は団結して難局を乗り切れとカツを入れた。
「小泉前首相らしい言葉ですね。鈍感力というのも必要かも知れません」
 冴えない顔色が続く安倍もこの日の記者団のインタビューでは思わず頬が緩んだ。
 無理もない。厚生労働相・柳澤伯夫の「女は産む機械」発言は内閣支持率の右肩下がりを加速。防衛相・久間章生はイラク戦争や米軍普天間基地移設を巡って挑発的な言辞を連発、ブッシュ米政権を激怒させた。それでも安倍は問題閣僚の辞任ドミノと自らの任命責任論を警戒して切るに切れず、ズルズルと事態を悪化させた。
 党執行部も首相官邸との一体感ゼロ。政調会長・中川昭一は「成長力底上げ戦略構想チーム」など塩崎らが次々設けた官邸の政策会議に「似たようなものを沢山創るな」と怒鳴り込んだ。中川秀直は「首相が入室しても起立できない、私語を慎めない政治家は内閣にふさわしくない」とテレビに映る閣議前の閣僚応接室の「学級崩壊」を公然と批判。政権中枢のいがみ合いと機能不全は末期症状の様相を呈していた。
 小泉は事実上、後継者として指名した安倍の窮状を見かねてテコ入れに動いた。昨年十一月、郵政造反組の復党問題をめぐり、反発して騒ぐ小泉チルドレンを「政治家は使い捨てだ。甘えるな」と叱って抑え込んだのに続く援護射撃だった。退陣後はほとんど沈黙を守ることで逆に人気と求心力が衰えない小泉。間欠泉的な支持表明は安倍の生命維持装置になりつつあった。
 小泉の後押しで一息ついた安倍。ただ、官邸の足元で進行していた致命傷になりかねない事態には余りにも「鈍感」すぎた。

官邸の生き字引
 首相秘書官室の女性職員が退職する意向を口にした──二月、こんな噂が永田町や霞が関を駆け巡った。ただの職員ではない。佐藤栄作政権以来、約四十年にわたって秘書官室で働いてきた。目まぐるしく入れ替わった十九人の歴代首相に党派を問わず仕え、実務を支えてきた。政争に巻き込まれぬよう中立公平に心を砕き、秘密保持など自己を厳しく律し続けなければ務まらなかった仕事だ。だから、歴代首相さえ一目も二目も置く。大げさでなく、官邸の生き字引とも言うべき存在なのだ。
 この春、定年を迎える。それを知った小泉は退陣する前に、彼女の四年間の勤務延長を認める手続きを内閣府に取らせた。安倍政権の船出に際し、欠くべからざるスタッフだと判断しての置き土産だった。四年の間に後継者を育て、官邸実務を円滑に伝承して欲しいという含みもあった。そんな小泉肝入りの特別待遇を捨ててさっさと辞めてしまうなど本来、ありえない話だ。
「首が左に回らないらしい」。官邸スタッフの一人は打ち明けた。秘書官室でこの職員の左手に鎮座するのは安倍の政務秘書官・井上義行。その顔も見たくないから官邸を去りたいのだという。井上は周囲にこう漏らした。「定年なのだから、引き続きよろしくお願いしますと向こうから頼んでくるのが筋だ」。小泉からの引き継ぎなど関係ない、官邸の主は安倍なのだという鼻息だ。
 井上の過剰な忠誠心と安倍の威光を振りかざす言動が、ついに身内中の身内の離反を招き始めた。このベテラン職員には官邸に出入りする人間なら誰もが世話になってきた。まさか安倍・井上コンビが石持て追い払うとなれば、永田町や霞が関の信望が決定的に地に堕ちるのは間違いなかった。何より、本当に退職してしまったら、官邸の機能マヒは一層深刻化する。余人をもって代え難い、と有志が慰留を続けた。
 小泉の安倍官邸テコ入れに話を戻す。非情の宰相が頼りない後継者に業を煮やし、腰を上げたのは一月二十四日夜だった。財務省理財局長・丹呉泰健ら首相秘書官や特命参事官として官邸で小泉に仕えた側近グループの会合を緊急に招集したのだ。
「井上秘書官の評判が悪いらしいな。彼はいま、何歳くらいなんだ?」
 開口一番、小泉はまるで丹呉たちを叱っていると錯覚させるほど、厳しく問いただした。他人の悪口は絶対に言わないことを信条とする小泉が、安倍官邸のふがいなさに堪忍袋の緒が切れかかっている──かつての側近たちは顔を見合わせ、震撼した。
 井上は官邸で内閣総務官室に詰めた後、安倍に仕えて官房副長官室、官房長官室を経て首相秘書官室へと一気呵成に駆け上がってきた。〈俺ほど官邸経験が幅広い政務秘書官は過去にいない〉。そんな強烈な自負が在籍四十年のベテラン職員をないがしろにする言動にもつながった。ただ、井上がいくら官邸内を「制覇」したつもりでも滞空期間は合わせて五年にも満たないし、永田町や霞が関には全く顔が利かない。
「俺と飯島(勲・前政務秘書官)は三十五年もやってきたんだから。たった数年で同じようにやれるわけないじゃないか」
 小泉は吐き捨てた。井上の行状だけではない。安倍が閣僚同伴でないと次官以下の官僚に面会せず、各省がしらけきっていること。塩崎と首相補佐官の小池百合子、世耕弘成ら「チーム安倍」の絶えない内紛。安倍が官房副長官(事務担当)に一本釣りした的場順三が「霞が関のドン」として采配を振るどころか、出身の財務省とすら疎遠で、頼りにならない実情。官邸内の惨状は逐一、小泉の耳に入っていた。
 情報収集の司令塔は無論、飯島だ。小泉の事務所は官邸に隣接する衆院第一議員会館にある。小泉はほとんど立ち寄らない。かつては廊下に大声を響かせていた飯島も最近ではあまり姿を見せず、しんとしているが、開店休業と思うのは早トチリだ。飯島は同じ階の共用の議員面会室を半ば占有し、そちらで「営業中」。あまりの千客万来で事務所では対応しきれないからだ。
 ひっきりなしに訪れるのはかつての秘書官や特命参事官の小泉側近グループだけではない。官邸に相談しても埒があかないと愛想を尽かした各省の次官や局長クラスが大挙して流れてくる。まるで「裏官邸」の盛況ぶりだ。これは安倍官邸が霞が関を抵抗勢力に見立てる中川秀直の路線にも乗り、「官邸主導」を「官僚排除」と履き違えて霞が関を寄せ付けなくした結果であり、自業自得としか言いようがない。
 郵政造反組の復党を「小泉政権の否定だ。絶対に許せない」と息巻き、安倍に弓を引きかねなかった飯島を小泉は「何も言うな」と黙らせた。小泉とて内心に忸怩たる思いはあっても、後継者として育てた安倍を批判すれば、天に唾する行為になってしまう。すべて飲み込み、参院選まで黙って支える。主敵は民主党代表・小沢一郎だ。そう決めて安倍の成長に期待をかけてきた。


▽小泉「裏官邸」と竹中官房長官説(2)

 http://seiji.yahoo.co.jp/column/article/detail/20070310-02-0701.html

2007年3月10日
小泉「裏官邸」と竹中官房長官説(2)
早くも赤信号の灯る安倍政権。焦った中川幹事長は小泉に泣きついた
 ただ、内閣支持率は下げ止まらず、さすがの小泉も官邸の機能不全のひどさを座視できなくなった。小泉が側近グループを自ら集め、霞が関の生の声に耳を傾けたのは危機を察知する政治的カンが働いたからだ。確かに安倍はダッチロールに陥っていた。一月二十九日、「裏官邸」にいた飯島の携帯電話が鳴った。安倍からだった。
 安倍「久間さんの件もありますし、至急、小泉前首相にお会いできませんか」
 飯島「いま、小泉にお会いになると、あらぬ憶測を招きかねず、逆効果になりかねません。ここはお控えになった方が……」
 井上経由ではなく、安倍が小泉に会いたいと直談判してきたことに飯島は驚いた。久間や柳澤が問題発言を連発した直後で、安倍は切羽詰まって小泉にSOSを発信した。ただ、安倍が小泉に頼り切りとなれば、「小泉院政」の印象が広がり、逆に政権の危機を増幅しかねない。そう懸念した飯島は「予算案が衆院通過するまではダメです。やる時は小泉、安倍、中川幹事長の三者会談しかありませんね」と安倍を思いとどまらせた。小泉は人を介して久間に「一連の発言に呆れかえっているぞ」と怒りのメッセージを伝達し、とにかく口を封じた。
 この話を耳にして小泉担ぎ出しに噛もうと動いたのが中川秀直だ。中川も「チーム安倍」の迷走ぶりに焦燥を隠せなくなっていた。安倍政権がジリ貧のまま、七月の参院選で与党過半数割れに追い込まれれば、選挙対策責任者である中川の地位が真っ先に危うい。カンフル剤が必要だった。ただ、中川は造反組の復党問題が象徴するように安倍とは微妙なズレを抱え、諫言しづらい立場。そこで温めた秘策を小泉から安倍へインプットさせようと画策した。
 二月七日夜、東京・赤坂にある小泉行きつけの日本料理店「津やま」。小泉、中川、そして小泉退陣とともに「改革の司令塔」から慶応大教授に復職し、グローバルセキュリティ研究所長に就いた竹中平蔵が顔をそろえた。口実は竹中の再就職祝いだった。
「安倍さんはよくやっている」と強調した小泉は中川に「小沢は大事にした方がいいぞ」とアドバイスした。中川は小沢を政治資金規正法の抜け穴になっている事務所費の疑惑で激しく攻撃する戦術に出ていた。小泉は安倍と同様に求心力が低下する小沢を攻め立てるのはいいが、生かさず殺さず、手負いの状態で民主党代表にとどめておく方が参院選に向けてくみしやすいから逆説的に「大事にしろ」と命じたのだ。
 久々に政局の渦中に姿を見せた竹中。掲げるのは「民間からのポリシー・ウォッチ」だ。講演などで安倍を「改革のパッション(情熱)がある」と持ち上げ、側近の塩崎や総務相・菅義偉と気脈を通じる。半面、「経済財政諮問会議に政権のアジェンダ(議題)設定の戦略がない」と小泉政権では連携した現経済財政担当相・大田弘子と諮問会議には落第点を付けてみせる。日銀総裁・福井俊彦の金融引き締めを「デフレ脱却に逆行する」と批判するのも定番だ。

究極の秘策
 市場では来年三月で任期が切れる福井の後継人事を巡って「竹中日銀総裁」説が消えない。成長重視の上げ潮政策でかねて竹中と手を組む中川が後押しするだろうという観測だ。ただ、来春まで竹中カードを温存する余裕は失われつつある。ふらふらの安倍に突っかい棒をし、支持率を反転させるには劇薬しかない。小泉改革継承の旗印を再び高らかに掲げ、その司令塔として竹中を再登板させる手はないか──中川の脳裏には究極の秘策としてズバリ、「竹中官房長官」の電撃起用すらよぎっていた。
 小泉の口から安倍に竹中カードの効用を直々に説いてもらい、劇薬を飲ませる。中川はこんなシナリオを描き始めていた。「慶応の塾長に『もうどこにも行きません』と約束しちゃいましたから」。竹中は講演でこう語って聴衆を笑わせ、再入閣説や日銀総裁説を打ち消してみせた。ただ、「津やま」で竹中は小泉に向かって大胆にも飯島批判を口にした。財務省を筆頭とする霞が関抵抗勢力が「裏官邸」に巧妙に入り込み、安倍や中川の足を引っ張っていると牽制したのだ。生臭さは一向に消えていない。
 一週間も経たない十三日夜、竹中は今度はホテルニューオータニの日本料理店「千羽鶴」に現れた。米国留学時代からの旧友という塩崎に伴われ、安倍と会食したのだ。IT(情報技術)の第一人者で慶大教授の同僚、村井純も同席したが、安倍・竹中会談の政治色を薄めるためのダミーでしかなかった。竹中は帰り際、記者団に「首相は改革路線をキッチリやっている」と安倍を持ち上げたが、安倍へのレクチャーでは大田の諮問会議の切り回し、民間議員の役割などに厳しい評価を投げかけていた。
 党内では参院選前の内閣改造論が半ば既成事実のように語られ始めた。「改造して心機一転でも図らないと参院選で勝てないどころか、そこまで持たない」(参院自民党政審会長・舛添要一)と参院側は悲鳴を上げる。元首相・森喜朗は「閣僚のベテラン組には首相への尊敬の念がないし、若手には派閥の後ろ盾がない」と現内閣を酷評、次の人事こそ俺によく相談しろよと言わんばかり。中川はこの空気を利用して小泉・安倍会談の仕掛けを進めようとしていた。
「閣僚には安倍首相への絶対的忠誠、自己犠牲の精神が求められる。自分最優先の政治家は官邸を去るべきだ」
 十八日、中川の仙台市での講演は暗に安倍に内閣改造の検討を促す布石と受け止められた。ただ、閣僚の行儀や私語まであげつらい、政権内のバラバラぶりを世間に知らしめた発言は幹事長として政治センスを疑わせ、自身に批判のブーメランが返ってきた。今度は中川が小泉サイドに泣きつく番だった。非情の宰相は舌打ちしながら「鈍感力」のワンフレーズを放ち、中川と塩崎の手打ちを演出して見せたのだ。小泉「裏官邸」のスクランブル発進だった。
 安倍は二十二日、中川のミスを逆手に取る行動に出た。郵政造反組で落選したタカ派の盟友、衛藤晟一を復党させ、参院選で比例区から出馬させるよう命じたのだ。支持率の続落や公明党との選挙協力への悪影響を危ぶむ中川は落選者の復党に強く反対してきたが、閣僚に求めた「安倍への絶対的忠誠」に自らが縛られるハメに陥った。「最後は私が判断する」と確信犯の安倍に押し切られてしまったのである。
 内閣改造論など狭まる包囲網に、安倍は「一千万といえども、我行かん」などと開き直りものぞかせる。予算案が衆院を通過すれば、小泉に会えるはずだ。政権産みの親はガッチリ握手を交わし、励ましてくれるに違いない。最強のお墨付きを足がかりに反転攻勢に出る──安倍は政局の転換点となるべき小泉との会談を待ち焦がれていた。それは果たして開かれるのか。小泉は安倍にどんな一言を発するのか。啓蟄(けいちつ)を前に小泉「裏官邸」が安倍の命脈を握りつつあった。(文中敬称略)

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