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http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=200702051704291
2007年02月05日掲載 無料記事
メディアと官僚機構の関係を正すための「西山訴訟」 3月の判決を前に西山太吉さんが報告
1972年の沖縄返還をめぐる日米の密約をスクープし、国家公務員法違反の罪で有罪判決を受けた西山太吉さん=元毎日新聞政治部記者=が、国・外務省に謝罪などを求めた訴訟の判決が3月27日に東京地裁で言い渡される。密約を裏付ける公文書が相次いで米国で公開されたうえ、当時の外務省の交渉担当者がついに密約を認めながらも、外務省は組織防衛のために“しら”を切っている。西山さんは判決を前にした3日、都内で今回の訴訟の意味を語った。(ベリタ通信)
(2005年4月に)提訴した理由、そこに私の問題意識が集約されています。私が法律に違反したのか。私を起訴した検察、その背後にいる国・外務省は法律に違反していないのか。問題の本質はそこから始まる。終始一貫しているのは、私は起訴状にも書かれたとおり法律を違反した、と。
ところが、片方(=国)の法律違反がいつの間にか消滅し、何十年間か話題にならなかった。原点はそこにある。法治国家の存立基盤に抵触するだけでなく、重大な組織的な法律違反を国民に伝えなかったメディアの本質も問われるということ。
▼1998年の朝日の記事
2000年にアメリカで機密文書が公開されてから問題になったと考えられている。しかし、正確にはその前の1998年(7月11日)に朝日新聞が一面トップで、「柏木―ジューリック」秘密覚書【注】の存在を報じた。その記事をよく読めば国の重大な違反は歴然としていた。しかし、その記事は問題にされることなく消えてしまった。日本のジャーナリズムのレベルはその程度ということが証明された。
【注】柏木雄介・大蔵省財務官とアンソニー・ジューリック国務省特別補佐官の間で結ばれた密約。1969年の佐藤栄作首相とニクソン大統領の共同声明発表直前に、前記2人の間で返還に伴う諸費用として、計5億2000万ドルを日本がアメリカに支払うことで合意していた。
その記事をよく読めば、沖縄返還のときの3億2000万ドル【注】もうそだったことがわかる。「2000年の公文書」と何度も言われるから、私は1998年の記事を精査した。公文書に勝るとも劣らない内容が書いてある。それを当時、ほかのメディアはネグった。その後、2002年にTBSが報じたことで、日本政府が隠していたことの全貌が明らかになった。
【注】沖縄からの核兵器の撤去費用などの名目で日本政府が当時、返還協定7条に基づいて負担した額。
「あの事件は西山が悪い、政府は何もないんだ」ということで踏襲されてきた。それがジャーナリズムの中で体質化し、その結果、民衆の中にも体質化していった。国家権力はそれに安住してきた。そういう構造が日本の特徴。(沖縄返還の密約は)法的な問題なのに法的な問題として取り上げられなかった。
それをもう一度、法の世界に引き戻す。そこで全部問題点をさらけ出し、メディア、主権者である国民、政府に、原点から見つめさせる必要がある。そのためには訴訟という方式しかなかった。そうすればメディアももう一度、取り上げるのではないかと思った。仮に司法記者クラブで話したとしても何も取り上げられない。朝日の(1998年の)記事すら後追いしなかったのだから。
▼「密約」ではなく協定の偽造
この問題は「密約」と呼ばれてきたが、その表現は不正確。最近、私は「協定偽造」と言っている。密約とは裏取引みたいな感じがある。しかし、協定、条約などの規定事項自体が虚偽である場合、それは協定偽造。沖縄返還協定には偽造が3ヶ所ある。4条、7条、8条です。
その裏にはすべて秘密書簡がある。実際の規定をすべて否定する、事実に真っ向から反する秘密書簡があり、それが正確なのです。本質は協定の偽造、捏造です。記事や公文書を精査するうちに、この3つ以外にも虚偽があることがわかった。返還協定の全体が虚構なのです。
この際、その全貌を(過去のマスコミ報道のように)散発的にではなく、体系的に出さなければいけないと感じた。そうすればジャーナリズムも少しは考えるだろう。日本における、政府権力と国民の意識との間に介在するメディアの後進性と閉鎖的な構造、国民の側の無関心などすべてを、あらためて皆さんに示すことで考えてもらいたい。そうすることで何か新しいものが開けるだろうし、メディアにもインパクトが与えられるだろう―という判断で提訴した。
その結果は、目標を100とすれば70%ぐらいの問題提起はできたと思う。なぜかと言えば、一部のメディアが訴訟の過程で猛烈に動いた。北海道新聞のある記者は、私のところ(北九州市)まで頻繁に来た。「成果があがることはないだろう」と、私も最初は客観的に見ていた。その記者が「吉野文六【注】にあたって必ず落としてみせる」と言う。「そんなことは不可能だろう」という先入観で私も相対していた。
【注】吉野氏は沖縄返還交渉当時の外務省アメリカ局長。
▼外務省元アメリカ局長の証言
ある日、その記者から電話がかかってきた。「西山さん、吉野が密約を認めました」と言う。「そんなことはない。君の解釈の間違いだろう」「だったら、取材の内容をいまから読み上げますから」。精緻極まりないのでびっくりした。私の直接の敵は吉野氏だった。
外務省機密漏洩事件の裁判で国側は18ヶ所の偽証をしているが、ほとんどが吉野証人だった。それは本人もわかっていたはず。私にはそういう先入観があったから、しゃべるわけがないと思っていた。なぜ法廷でうそをついたかも吉野証言は説明していた。さすがにその証言はほとんど全紙、全テレビが後追いした。
判決については楽観していない。吉野証言があったにもかかわらず、相変わらず政府・外務省は密約を否定している。3つの秘密書簡のうち2つは、吉野局長とスナイダー駐日行使の間で交わされていた。その2つとはVOA(ラジオ局・アメリカの声)の移転と、対米請求権(アメリカ側が負担するべきであった土地の原状回復費用)の問題【注】。
【注】少なくともこの2つの費用を日本が肩代わりしていた。西山さんは原状回復費400万ドルを肩代わりする「密約」を示す文書のコピーを外務省の女性事務官から入手した。その文書を横路孝弘衆議院議員(現民主党議員)に西山さんが渡し、横路議員が1972年3月、内容を国会で暴露したため事件へと発展した。
吉野氏はすべて肯定した。それでも外務大臣、官房長官、北米局長は交渉の当事者の証言を否定する。そもそも吉野証言を否定したのは外務次官。外務次官こそ糾弾されなければならない。
吉野発言をめぐり新しくこういう事態になった。私は「しめた」と思った。これこそ日本の権力とメディアの関係の本質を明確に表している。外務省が否定してくれたことで私にテーマを与えてくれた。訴訟が貴重な副産物を与えてくれた。過去のことなのだから、国・外務省は思い切って国民に真実を告げて、自分たちで見直しをしてそれを告げればいい。
それにより民主的なフィードバックが始まる。阻んでいるのは何か。官僚機構です。裁判で偽証を続けてきたが、それが覆ることになれば、組織がガタガタになる。そういう恐れを抱いている。だから何とかして阻止してくれ、うそをついてくれと(いうことになった)。
▼公開制度を棄損している外務省
最初に公文書が出たとき、河野洋平外務大臣(当時)が吉野氏に「記者が来ても密約を認めないでくれ」と電話してきた。吉野氏はそのこともメディアにしゃべった。河野氏は私の裁判の弁護側の証人だった。当時は親しくしていたから。歴史の皮肉と言いますかね。彼は外務省の事務当局に突き上げられて電話したのでしょう。
日本のジャーナリズムと官僚機構の関係が最も象徴的に表れるのは外務省。省の内規では、30年経過すれば外交文書はすべて公開することになっている。それをわずか2、3人と歴代の事務次官が、公開するかどうか判断している。要するに、外務省にとって都合のいいものを選んで開示している。
1960年の日米安保条約の改定で「事前協議」をめぐり密約があったのは、公になっている。岸信介は表に出ないことをやっていたわけだ。そういうことがあるから公開しないのだろう。しかし、韓国は日韓交渉に関する文書を公開したし、アメリカだって日米交渉の記録をほぼすべて公開している。
日本の場合は逆に、出そうにも出せなくなった。外務省が開示制度を棄損していることになる。出そうにも、これまでうそをついていたのだから出せない。そうなると永久に秘密になる。それが外務省による吉野証言否定に表れている。
それを打破し、突き破ることが、メディアと権力の関係を正常にするための関門。そのためには下からのエネルギーをどんどんためて、それを発露する環境の醸成が大事になると思うわけです。それをやらないと永久に埋もれてしまう。外務省は自分たちの独善的なやり方に安住している。それを突き破るしかない。
先ほど言ったように、70%ぐらいは新しい流れができた。今後、ますますこれを強めてゆきたい。それはメディアと権力の関係を考えるとき建設的な要因になる。(文責=中邑真輔)
西山さんは2月3日、「沖縄密約問題とジャーナリズム」というタイトルのセミナーで報告した。日本マス・コミュニケーション学会ジャーナリズム研究会の研究部会主催。原寿雄氏(元共同通信社長)、松元剛氏(琉球新報記者)、諸永裕司氏(朝日新聞記者)の3氏も報告・意見を述べた。
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