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特報
2007.01.26
『資金洗浄の疑い通報せよ』
「マネーロンダリング(資金洗浄)の疑いがある行為を見かけたら、当局に通報すること」−弁護士など約五十の職種に、こんな義務を課す「ゲートキーパー(門番)法案」が国会に提出されそうだ。「国民を警察の手先にする“依頼者密告法案”だ」「共謀罪とともに、監視社会化を進める法案」と反対の声が上がっている。いったい、どんな法案なの?
政府・与党からはゲートキーパー法案、反対派からは密告法案と呼ばれる「収益の移転防止に関する法律案」(仮称)は、「マネーロンダリング対策とテロ資金対策が目的」という。
今でも、金融機関で顧客の本人確認などのマネロン防止策が取られているが、新法が成立すると、金融機関だけでなく、約五十の職種が▽本人確認▽疑わしい取引を見つけた場合の当局への届け出−などを求められるようになるという。
対象職種は金融機関、ファイナンス・リース業者、クレジットカード会社、宅地建物取引業者(不動産業)、貴金属取引業者(宝石店、貴金属店)、郵便物受取業者(私書箱を運営する会社)、電話受付サービス業者(電話秘書サービス会社など)、弁護士、司法書士、行政書士、公認会計士、税理士などなど。ユーザーの個人情報を知りうる職種なのが特徴だ。
各職種の人は「犯罪がらみの取引かもしれない」と感じたら、それぞれの監督官庁に届けなければならない。例えば、金融機関ならば金融庁に、となる。
その情報は監督官庁から国家公安委員会に流され、捜査に使われる。政府の「国際組織犯罪等・国際テロ対策推進本部」(本部長・塩崎恭久官房長官)は、この制度の効用を「安心・安全な社会」「健全な経済システムの維持」とうたっている。
「もしかしたら、犯罪がらみかも」と感じた業者が、次々と顧客情報を政府に流す。膨大な事件情報、厳密には「事件かもしれないと思える事案情報」が政府に蓄積されるのだから、犯罪組織も壊滅するに違いない−と思えてくる。
しかし、弁護士や識者からは「国民同士が監視しあう暗黒社会になる。そればかりか善良な国民が巻き添え被害に遭う危険が高い」と反対論が出ている。例えば、次のようなケースが想定されるという。
■悪くないのに口座凍結…とんだ巻き添えも
【ケース1】 長女の結婚式を控えたAさんは「おたくの土地を買いたい」と言う男に高値で売却したが、不安なので弁護士を立ち会わせた。後日、結婚資金に使おうと、売却で得た金を銀行から下ろそうとしたが、口座は凍結されていた。売却相手がヤミ金融業者だったため、弁護士が「Aさんは何も悪くないんだが」と思いつつも、当局に通報したからだ。
結婚式はキャンセルするはめとなり、Aさんは弁護士に「ひどいじゃないか。訴えてやる」と抗議したが、弁護士は「私には通報義務があるので仕方ないんです」と弁解した。
【ケース2】 借地にビルを建てたBさんが死亡した。遺産分割協議がまとまるまでの間、Bさんの銀行口座を管理していた弁護士は、違法営業のようにもみえるテナントからの賃料収入に気付いた。適法かもしれないとは思ったが、通報義務に従い当局に通報した。通報したことを当事者に教えることは禁じられているため、Bさんの遺族たちは何も知らない。
間もなく、口座は凍結されて賃料収入が引き出せなくなり、遺族は借地料を支払えなくなって立ち退きを余儀なくされた。後日、テナントは適法営業と判明したが、後の祭りだった。
監視カメラや住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)による「国民監視社会」化に警鐘を鳴らしているジャーナリストの斎藤貴男氏は「電話秘書サービスの業者まで依頼主のことを通報するというのでは、人と人との信頼関係は、どうなってしまうのだろう。社会全体のためなら(善良な市民の受ける)多少の被害は仕方がないでしょ、ということなのか」と危惧(きぐ)した上で、「私のようなことを言うと、『性善説でテロや犯罪に対処できるか』という反論が来そうだが、そういう人々には、なぜ、捜査機関性善説を取るのかと聞きたい」と話す。
確かに、富山県警と富山地検の捜査ミスで、無実の男性が強姦(ごうかん)罪に問われ、二年九カ月も拘置、服役させられた問題が発覚したり、ファイル交換ソフト「ウィニー」により警察官のパソコンから大量の捜査情報がインターネット上に流出した。警察官による性犯罪、強姦罪、捜査報告でっち上げも後を絶たない。
■国民は蚊帳の外早期成立に懸念
弁護士たちからは「最近の警察は不祥事のデパート。そこに個人情報を蓄積する新制度は危険すぎる」との声も上がっている。
通常国会で審議されるという法案の内容は十分、国民に伝わっていない。三月にも成立させてしまえば、七月の参院選までに、国民は忘れてしまう−そんな読みも出ているというのだが。
■捜査不信安心できない ジャーナリスト大谷昭宏氏に聞く
この法案を「密告制度」と批判する一人で、事件記者歴が長いジャーナリスト・大谷昭宏氏に聞いた。
まず、密告制度の導入で捜査実績が上がるのか、疑問だ。この制度では、弁護士に相談する行為じたい、警察に密告されるリスクを伴うため、犯罪組織は弁護士を使わなくなるはず。弁護士会から懲戒された人物を使うなど、(弁護士ではない人の法律事務の取り扱いを禁じた)非弁活動を助長するだけだと思う。
一方で、まじめな多数の国民が警察の手足にされる。従来も、犯罪を見つけた国民が警察や検察に通報し、刑事事件摘発のきっかけになってはきたが、新制度は似て非なるものだ。今までの内部告発は、不正行為を見つけて自主的に通報するのに対し、新制度は怪しいと感じたら密告しろというもの。通報と密告は、まったく違う。不正行為をとがめたり、やめさせるのでなく、一足飛びにお上に密告しろという制度は、社会の犯罪防止機能を弱めてしまう。
経験者なら分かるだろうが、一般市民が事件情報を持ち込むと、捜査機関は「相手をずっとウオッチして、おかしな点を情報提供してくれ」と求めるのが常だ。すべての持ち込み情報を捜査機関自身でフォローし切れないから必然的にそうなる。その時点から、情報提供者は警察の手足となる。顧客が、宝石店や弁護士、電話秘書などから監視され密告される暗い社会は、いかがなものか。
「怪しい取引」と思われ密告された人がシロだった場合のみならず、クロの場合でも、密告者は恨みを買う。密告者が誰だったかを犯罪者に知られたら、どうするのか。警察は「通報者が誰なのか、絶対にバレないようにする」と言うだろうが安心できない。現に、警察官のパソコンから大量の情報が世間に流出している。流出データはプリントしたら人の背丈に達する分量だったと言われている。警察がボディーガードしてくれるわけじゃなし、密告者の安全は誰が守ってくれるのか。警察官は銃を所持しているからいいが、国民は丸腰だということを肝に銘じるべきだ。 (談)
◆予想される法案骨子
【目的】犯罪収益の移転とテロ資金供与の防止。市民生活の平穏確保と経済活動の発展に寄与する。
【国家公安委員会の責務】疑わしい取引の情報が刑事事件捜査などに活用されるよう、迅速、的確に集約、整理、分析する。
【特定事業者(対象職種)の義務】▽顧客の本人確認▽取引記録の七年間保存▽犯罪収益の疑いある取引は監督官庁に届け出る。
【その他】特定事業者への罰則などを整備する。
<メモ>国家公安委員会 内閣府の外局で、警察を民間人が監視する目的で戦後、つくられた。委員長は国務大臣で、ほかに学者など5人が委員。委員は特別職国家公務員で守秘義務がある。各都道府県にも県警を監視する公安委員会がある。しかし、「公安委の実務は警察官任せの部分が多く、機能を果たしていない」と指摘されて久しい。
<メモ>ウィニー事件 愛媛県警で2006年3月、ファイル交換ソフト「ウィニー」を入れてある捜査一課警部補=当時(42)=の私物パソコンから殺人、性犯罪などの捜査資料や個人情報が、インターネット上に大量に流出したことが発覚。京都府警や北海道警も同様の事件を起こした。06年7月に政府が公表した各省庁の情報管理対策評価で、警察庁は最低のDランク。
<デスクメモ> 五年ほど前、小一の男児誘拐事件を取材したが、犯人が身代金の受取先として指定したのは都内の私設私書箱だった。「振り込め詐欺」などの犯罪の温床となっているのも事実だが、ネット取引で、個人情報を守るために「第二の住所」を利用している人は多い。密告を奨励する社会って、やっぱり暗い。 (吉)
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20070126/mng_____tokuho__000.shtml
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