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盗聴された通話の85%以上が犯罪と無関係–「盗聴報告書」を読む(no more capitalism)
http://www.asyura2.com/07/senkyo30/msg/1186.html
投稿者 gataro 日時 2007 年 2 月 17 日 19:22:53: KbIx4LOvH6Ccw
 

http://www.alt-movements.org/no_more_capitalism/modules/wordpress/index.php?p=62 から転載。

2007年2月17日(土曜日)

盗聴された通話の85%以上が犯罪と無関係–「盗聴報告書」を読む

警察庁は16日づけで「通信傍受法第29条に基づく平成18年における通信傍受に関する国会への年次報告について」を発表した。
http://www.npa.go.jp/sousa/keiki2/20070216.pdf

新聞報道では、「通信傍受、9件適用し27人逮捕」といった数字しか報じられていない。(朝日、時事、共同など)たとえば、「朝日」は以下のように報じている。

 長勢法相は16日の閣議で、電話や電子メールの盗聴を捜査機関に認めた通信傍受盗聴)法に基づき、捜査当局が06年の1年間、覚せい剤取締法違反など9件で傍受を行い、27人が逮捕されたと報告した。件数・逮捕者数ともに、初めて実施された02年以降で過去最多。04年の4件17人、05年の5件20人と比べて大きな伸びとなった。

しかし、マスコミが報じる「9件」は盗聴令状の件数ではなく、たんなる警察庁の分類番号の数字が9であるということでしかない。だが、9件という数字はあたかも9回しか盗聴されていないかのように大きな誤解を与える。メディアはなぜこうしたいい加減な数字しか報じられないのだろうか?メディアが警察の広報でないとしたら、数字の裏付けくらいは取材すべきだろう。

わたしは新聞報道のいう「件数」だけでなく、裁判所の発付している令状に件数、盗聴された通話の回数や警察がどのような通話を盗聴しているのかということ、そしてこれらと逮捕、起訴といった一連の警察権力の行使との関連を検証する必要があると思う。

報告書からわかるのは、令状ごとの通話回数と逮捕者の数などだ。報告書の別表の参考として一例のみ以下に紹介する。(オリジナルの報告書では表組になっている)

番号1
傍受令状 請求件数 1件
     発付 1件
     罪名(罰条) 覚せい剤取締法違反(同法第四十一条の二第二項、同第一項、刑法第六十条)【営利目的の覚せい剤譲渡】
通信手段の種類 携帯電話

実施期間 19日間
  通話回数 204回
  第22条第2項 第一号 9回
         第三号 なし
逮捕人員数 4人

マスコミで報道されているのは、このうち報告書の傍受番号を盗聴捜査の件数として9件とカウントしているもの。警察庁の報道資料を鵜呑みにした報道なのだろう。しかし、裁判所の令状の発付件数は、同一の事件で複数回令状が請求されているので、21件あり、しかも令状請求は全て認められている。

この盗聴捜査で盗聴された通話回数は7161回にものぼり、このうち犯罪関連の通信とみなされたのは、998回だけ。したがって、盗聴された通話の13.9%しか犯罪関連の通信はなかったということになる。これはかなり低い数字だが、盗聴法が法案として議論されていた当時から、米国の盗聴捜査報告書(Wiretap Report)の実績などから、このくらいの低い数字になるのではということが危惧されていた。この危惧があたってしまった。盗聴捜査の手続きが超厳密に守られていれば、無関係な通話は聞かれないことになっているが、これを証明するものはない。むしろかなりの程度聞かれているとみたほうがよい。

もうひとつ重要なことは、逮捕とのかかわりだ。報告書から知ることのできる範囲でまず問題になるのは、逮捕者がゼロのケースが整理番号数で二件、令状数でいえば5件あることだ。とくに、令状が4回も繰り返し発付され、58日間、860回も盗聴されながら逮捕者ゼロという番号6のケースは極めて問題が大きい。もうひとつの逮捕者ゼロのケースは盗聴期間8日間で44回盗聴されている。こちらは規模が小さい一方で、いわゆる犯罪関連通信(22条2項の第一号)に該当する通信もゼロというこれまでになかった異例のケースである。いいかえれば盗聴されたすべての通信が犯罪とは無関係であったというわけだ。

こうした逮捕者ゼロ、犯罪関連通信ゼロのケースについては、裁判所の令状発付にも大きな問題がある。もし裁判所が令状の請求を精査していれば、これだけ被害は拡大しなかった可能性がある。裁判所の令状主義が警察の捜査権力の歯止めになっていないばかりか、むしろ裁判所と警察の癒着とみられても仕方のない明らかな証拠といえるもので、裁判所の信頼を大きくゆるがすものだ。この点で裁判所の責任は極めて重大であって、盗聴法はあっても令状によるチェックがあれば大丈夫だという令状過信の考え方はとりえない。

その他重要な特徴として、麻薬特例法が9件中8件と多用されていることだ。報告書では「業として行う覚せい剤等の譲渡」と記載されているのだが、特例法は主として「業として行う不法輸入」を取り締まる。麻薬関連は北朝鮮とのかかわりがあるので、これらの捜査が、麻薬取締りを名目として、ある種の公安警察的な別の意図をもったもの(あるいは両方の意図)である可能性も否定できないように見える。

報告書からわからないこともまた多くある。気づいた点だけ列挙しておこう。
・携帯電話は普通の電話機能に対する盗聴だと推察するが、この点については何もかかれていないショートメールも含むメール盗聴があったかどうか不明だ。
・何台の携帯電話が盗聴されたのかも不明。(令状一通につき携帯電話一台が原則だと思われるが。)
・都道府県別データ、令状を発付した裁判所名もわからない。
・逮捕容疑と盗聴内容の因果関係もわからない。
・逮捕者がその後起訴、有罪となったかどうかもわからない。

今回の報告書からわかる範囲でみても、盗聴捜査で盗聴される85%以上の通話が犯罪とは無関係な通話であるという現状のなかで、盗聴法の存在理由がはたして正当化されるだろうか、ということである。むしろ盗聴捜査のもたらす人権侵害や裁判所の機能不全を考慮すれば法の廃止を今一度真剣に検討すべきだろう。共謀罪とのからみで盗聴捜査の拡大が水面下でとりざたされているようだが、もってのほかだ。

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参考
盗聴法
第二十二条 検察官又は司法警察員は、傍受の実施を中断し又は終了したときは、その都度、速やかに、傍受をした通信の内容を刑事手続において使用するための記録(以下「傍受記録」という。)一通を作成しなければならない。傍受の実施をしている間に記録媒体の交換をしたときその他記録媒体に対する記録が終了したときも、同様とする。
2  傍受記録は、第十九条第一項後段の規定により記録をした記録媒体又は第二十条第二項の規定により作成した複製から、次に掲げる通信以外の通信の記録を消去して作成するものとする。
一  傍受すべき通信に該当する通信
二  第十三条第二項の規定により傍受をした通信であって、なおその内容を復元するための措置を要するもの
三  第十四条の規定により傍受をした通信及び第十三条第二項の規定により傍受をした通信であって第十四条に規定する通信に該当すると認められるに至ったもの
四  前三号に掲げる通信と同一の通話の機会に行われた通信
3  前項第二号に掲げる通信の記録については、当該通信が傍受すべき通信及び第十四条に規定する通信に該当しないことが判明したときは、傍受記録から当該通信の記録及び当該通信に係る同項第四号に掲げる通信の記録を消去しなければならない。ただし、当該通信と同一の通話の機会に行われた同項第一号から第三号までに掲げる通信があるときは、この限りでない。

第十四条 検察官又は司法警察員は、傍受の実施をしている間に、傍受令状に被疑事実として記載されている犯罪以外の犯罪であって、別表に掲げるもの又は死刑若しくは【又は】無期若しくは短期一年【長期三年】以上の懲役若しくは禁錮に当たるものを実行したこと、実行していること又は実行することを内容とするものと明らかに認められる通信が行われたときは、当該通信の傍受をすることができる。

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