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2007.1.19(金)
稲村公望(中央大学大学院客員教授・元日本郵政公社理事)
有森隆+グループK著『「小泉規制改革」を利権にした男 宮内義彦』(講談社刊)を読む
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森田実様 先週は雪景色の北国の地方を歩いておりました。また今週初めには、県知事選挙で賑わっている日向の町を訪れました。ところどころで、旧知の友人や、昔の仕事仲間に会いましたが、いずれも、地方切り捨てにたいする溜め息が聞こえました。どうしようもないと呆然と立ちすくんでいるような姿も見えました。そうした中でも、微力を尽くして何とかこの国の形を良かれとしようと、酒を酌み交わしながら、冬の時代の克服を若い友人たちと語り合えたのは、幸いでした。着実に、春を求める期待は高まっています。「プラハの春」ならぬ「日本の春の雪解け」をめざさなければなりません。
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今日は、新しい本が出版されたので、紹介いたします。
地方の書店は、だんだんと立ち行かなくなり、県庁所在地の本屋でも、政治や経済の単行本はなかなか手にとって見ることができかねる状況になっています。書評をみて、取り寄せ注文で購入する事例が増えているようです。書籍の再販制度がいかに重要かがわかります。
戦後の政治家の中で、漢籍の素養のあった吉田茂氏を除き、学殖豊かであった総理は大平正芳氏である。大平総理が、立ち寄った本屋が、東京・港区虎ノ門の虎ノ門書房である。1階は雑誌をはじめベストセラー本や文庫本が所狭しと並んでいるが、2階売り場は、いわゆるお堅い本が並んでいる。世の中の動きに敏感な読者が訪れるところであるから、経済や政治の本で、その2階の動きを見れば、どんな本が売れているのかよくわかるし、あるいは、ベストセラーにならないが1冊数千円もするような学術とジャーナリズムの間をいくような本なども結構書棚に納まっている。この国の知的な水準を示すような本屋さんである。
いま、この書店に、2列の平積みで売られている本がある。有森隆+グループK著の『「小泉規制改革」を利権にした男 宮内義彦』という長ったらしい題名の講談社刊(1680円)の単行本である。ベストセラーになる気配であるが、先日訪れた県庁所在地の本屋さんにはまだ見当たらなかったので、地方でのこれからの売れ行きに期待したい。
本の帯には、[「規制緩和の旗手」と「改革利権の最大の受益者」の一人二役を演じた経済人の「光と影」]とあり、裏表紙側には、[宮内は、何を狙って規制緩和を推進したのか、ビジネスチャンスの拡大が、彼の目的であろう。規制を少し動かすだけで、ヒトの流れ、モノの流れ、カネの流れが変わるからだ。規制を撤廃すれば、既得権者に向かっていた流れを断ち、新しい商機を生み出すことができるのである。規制緩和は、既得権者が独占していた利権を奪うことを可能にした。新語辞典風に言えば「改革利権」である]と書いてある。
著者は、中小企業者との雑談の中で宮内義彦に関心を寄せ始めたと書き出すが、宮内の地方切り捨て発言である。「過疎地の自然死を待つといわんばかりの宮内の発言を読んで、この人はニヒリストではないか」と思った。宮内はホリエモンや村上ファンドのような時代のあだ花ではないとも言う。時代の澱を浮かび上がらせる作業が執筆の動機だと述べる。要すれば、小泉構造改革の功罪を検証するために、宮内義彦という経営者の軌跡をチェックすることに大きな意味があるとする。
序章は、政商とは何かという議論をしたうえで、その変遷について書く。第1章は「規制緩和を糧として」という題で、高知県で失敗した株式会社病院の実例をあげて、「混合医療」の問題に迫る。医療関係者には必読である。会社方式の学校に反対するなど、いわゆる宮内委員会での反対意見を黙殺する強硬さを分析する。第2章では、村上ファンドとの関係を詳述する。第3章は、あおぞら銀行上場で大儲け、エンロンと組んで電力ビジネスヘ参戦などの小見出しをつけたうえで、日米の2つの会計基準を使い分ける粉飾の方法について解説する。第4章は、「生身の宮内義雄」と題する人物評価である。第5章は、プロ野球のオリックスのオーナーとしての言行不一致を解き明かす。話題になったプロ野球界の騒動だけに、簡明に理解できる。第6章は、「本当は何を変えようとしたのか」との題で、市場化テストのことや、議事録が作成されなかった会議の模様、日本取締役協会設立の内幕について触れる。第7章では、城島正光衆議院議員(当時)の国会質問をめぐって発生したいわゆるザ・アール事件について述べたうえで、宮内の人脈について解説する。ちなみに、郵政民営化の関連では、奥谷禮子ザ・アール社長の日本郵政株式会社の社外取締役就任については、「日本郵政公社総裁・生田正治との関係が指摘されている。(中略)日本取締役協会を立ち上げた同志である。宮内人脈の後押しを受け、奥谷の日本郵政の社外取締役就任が決まったと言っても過言ではない。(中略)社外取締役の会社に〔接客サービスの研修などを〕委託しているのは、透明性にかけるとする声は強い」と記述しており、そのほか、ゆうちょ銀行社長人事をめぐる駆け引きについても言及している。
いずれにしても、勇気のいる出版である。去年の8月、月刊現代の記事で、名誉を傷つけられたとして、発行元の講談社と記事の筆者に対して、計2億2000万円の損害賠償を求める訴訟が、宮内義彦側から起こされている。月刊現代編集部は、「長期にわたる綿密な取材に基づいた記事であり、非常識な賠償請求額にもあきれ果てる」とコメントしていたが、今回の単行本を含め、出版社の、大日本雄弁会講談社の旧名に恥じない今後の追及を期待したい。
郵政民営化問題を含め、失われた20年の中で、構造改革なるものの影の部分を読み取るための貴重な出版である。とくに地方の読者に勧めたい。地方切り捨てに悲しみ茫然自失する必要もなく、こうしたすぐれたノンフィクションの読書に親しみ、原因がわかれば、問題の解決はたやすい。春の統一地方選挙、夏の国政選挙では、市場原理主義の残照を消すためにも一読を勧めたい。虎ノ門の本屋さんの学殖を地方でも広げていただきたい。
http://www.pluto.dti.ne.jp/~mor97512/
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