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特報
2007.01.18
残業代ゼロ法案問題点と今後は
年収など一定条件の会社員を労働時間規制の対象から外し、残業代をなくすホワイトカラー・エグゼンプションを導入する労働基準法改正案の通常国会への提出は見送られた。しかし、油断は禁物。七月の参院選が終われば、導入論議復活は必至。将来的には、官民問わず対象となるとの声も聞かれるが、労働行政の第一線で働く労働基準監督官らも反対する法制化の問題点をあらためて検証すると−。
■労働Gメンの6割が導入反対
「今でも長時間・過重労働が横行し、過労死、過労自殺が起きているのに…」
「(監督官の)六割が反対している」という結果が出た監督官アンケートを行った全労働省労組の森崎巌書記長(47)が、現場の声を代弁する。
アンケートによると、全国の監督官の八割に当たる約千三百人が回答。同制度の対象者(管理監督者)を管理職以外の「スタッフ職」に拡大すべきか問う質問では、「拡大すべきでない」が七割以上。今後の労働時間法制の改善方向(複数回答可)については、「監督官を増員する」が71%、「労働時間の把握義務を強化する」が64%、「労働基準法違反の罰則強化」が57%で、同法案導入を求める人は10%にとどまった。
森崎書記長自身も六年前まで約二十年監督官を務めた。「景気回復といっても、実態はリストラ景気。労働時間短縮(時短)は進まず、長時間労働が景気を支えている」と指摘。確かに、過労死、過労自殺は増加の傾向だ。脳・心臓疾患で過労死と認定された人は二〇〇一年度は五十八人だったが、〇五年度には百五十七人に増えた。
ホワイトカラー・エグゼンプションは労働時間を自主的に決めるとしているが、日本の労働者は目標の達成度で賃金を決める目標管理やノルマ、納期といった要素にも左右されている。「早く帰っていいと言われても、目標を達成できなければ残業せざるを得ない。現行制度にもフレックスタイム制度などがあり、硬直化しているとは思わない」と慎重な議論を求める。
同法案のモデルは米国だが、「米国では労働者の階層化が進み、『プロフェッショナル』という収入の多い層が主に対象になっている。米国にはもともと労働時間の上限がなく、法制度が違う日本に導入するのは、木に竹を接ぐようなものだ。それに、米国は職務内容が明確で他の人の仕事はしないが、日本はチームで協力する企業風土。自分の仕事の範囲は必ずしも決まっていない」と強調する。
ところで、残業が強いられているのは、今回の対象とされた民間企業ばかりではない。
■残業は年々増加年間80万円にも
人事院の調査によると、国家公務員の年間一人あたりの残業時間は年々増加しており、本府省では上限(三百六十時間)ギリギリの「三百五十三時間」(〇五年)に達している。「四十歳 係長 配偶者と子供二人」モデルでは、一時間当たりの残業代は二千二百四十五円で、三百五十三時間残業すれば八十万円近くにのぼる。ホワイトカラー・エグゼンプションが国家公務員にも導入されれば、給料が激減するのは必至だ。
本府省職員の超過勤務時間が三百五十三時間にのぼることについて、森崎書記長は「何かあれば、当然徹夜になる。帰ることは上司より、周りが許さないでしょう」などと、サービス労働が恒常化している実態を明かす。
■「工夫をしても早くは帰れず」
こうした実態について、官僚OBはどう受けとめているのか。
元文部科学省職員の山本直治氏(32)も「毎晩十一時ごろまで仕事をしている人がいた。国家公務員は、ほかから出る情報を待って加工する仕事が多く、国会質問の準備も議員から質問が来ないと進まない。工夫すれば早く帰れるわけではない」と振り返る。
当時の感覚では、残業代は実働の一−三割だった。大事件などで補正予算がつくような場合を除き、局など職場単位で原資が決まっている。「文句を言っても無理、とあきらめていた」という。
この法案は民間で導入した後、公務員にも拡大されるという見方があるが、「国際競争力を求める中で生産性向上や人件費削減を掲げる民間と、役所の公務は前提が違う。民間がやっているから役所もやるのは違う気がする」と否定的だ。
山本氏は国家1種試験採用の「キャリア官僚」だったが、二年前に人材紹介会社のコンサルタントに転職した。
今の仕事は、何時間働いても一定の時間働いたと計算される「みなし労働制」で、自由に動いて成果を出してくれればいいというシステム。公務員のころは土日の大半は休みだったが、休日や深夜の仕事もある。労働時間も長くなったが、「管理下の労働でなく、自律的な面があり、事実上ホワイトカラー・エグゼンプションのようなもの。この法案で利益を受ける人はいるだろうが、職種の区分をせず、一律に導入するのは問題だ」と話す。
関西大学の森岡孝二教授(経済理論)は「民間企業の現状はすでにホワイトカラー・エグゼンプションに近い。『管理監督者』の範囲を広げて、わずかな特別手当でサービス残業をさせている。しかし、訴えられれば会社が負ける。だから財界は、ホワイトカラー・エグゼンプションを導入して現状を合法化し、人件費を抑えたい」と、同制度の狙いを解説する。
現時点では、同法案は民間企業が対象だが、森岡教授は「公立の小中学校教師は、もうすでに、そうなっており、一般公務員にも制度が導入されることは考えられる。相変わらず公務員は甘いという世論があるが、もう『官民問わず、もっと働け』ということになる」。
東京管理職ユニオンの安部誠副委員長は「民間に導入されて、公務員は今のまま、ということはあり得ない。ところが、おめでたいことに公務員はいまだに民間の問題だと思っていて、労組の動きは鈍い」と苦笑する。
元人事院幹部の川村祐三氏は「年収が四百万円か九百万円かでは対象が全然違うが、民間で導入すれば、『公務員にも』という議論は起こる」と指摘。その上で、「もっとも戦前の役人は『天皇の官吏』として忠実無定量が原則。勤務時間は二十四時間で、残業手当という観念はなかった。公務員に導入されれば、結果的に“戦前回帰”ということになるのでは」と皮肉な見方をする。
いったん導入されてしまえば、官民問わずに大きな影響が出てきそうだが、安部副委員長は「残業代が出なくなるのは確かに問題だが、一番の問題は時間規制を取っ払われること。成果主義と時間規制の撤廃が結びつくと『成果を上げられず長時間働いたおまえが悪い』ということになり、労働者は奴隷状態になる」と危機感を募らせる。
とりあえず次期国会への提出は見送られたが、森岡教授は「財界の根強い要求からすると、そう簡単に引っ込めることはない。労働の規制緩和はこれまでも法改正ではなく、省令などで変えられてきた。ホワイトカラー・エグゼンプションも一度制度ができてしまえば、年収の上限も対象も、どんどん変わっていくだろう」と予測する。
■選挙争点にして国民に問うべき
安部副委員長は、冷ややかに、こう“提言”をする。
「選挙目当てで法案提出を見送っただけだが、ホワイトカラー・エグゼンプションがワークライフバランス(仕事と私生活のバランス)の見直しになると言うのなら、選挙の焦点にして国民に問えばいい」
<デスクメモ> 「ホワイトカラー・エグゼンプションの対象は民間だけ。提案者の厚労省も含む公務員が対象外はおかしいよ」とは、会社員の友人の話。なるほど、この法案のままなら、官民格差ともいえる。だが、将来、公務員の勤務も変えるから、国民に「痛みを」と、政治家は言い出しかねない。今後も要注意だ。 (吉)
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20070118/mng_____tokuho__000.shtml
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