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フランス寓話が問いかけるもの ファシズム牽制 [東京新聞]
http://www.asyura2.com/0401/bd33/msg/752.html
投稿者 のらくろ 日時 2004 年 2 月 14 日 10:29:52:lijcWyS1gzuJk
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20040214/mng_____tokuho__000.shtml
フランス寓話が問いかけるもの
「茶色の朝」というフランスの寓話(ぐうわ)が注目を集めている。日本でも昨年暮れ、邦訳(大月書店刊)が出版された。茶色はファシズムの象徴。原文はわずか十一ページ、声高ではなく「ファシズムの危険は市民の事なかれ主義に潜む」と指摘する。フランスではベストセラーとなり、同国や欧州で台頭する極右勢力の動きをけん制した。戦後初めて戦地に自衛隊が派遣された。「茶色」の危険は日本社会とは無縁だろうか−。
この本の作者は仏ブルノーブル在住の臨床心理学者フランク・パブロフ氏(57)。父親は「反ファシズム」を掲げたスペイン人民戦線に義勇兵として参加したブルガリア人で、パブロフ氏も仏、ブルガリアの二つの国籍を持つ。セックス産業に従事するアフリカやアジアの子どもたちの人権保護などを訴えてきた。
■11ページの訴え 1ユーロで販売
原本の出版は一九九八年で、パブロフ氏は印税を放棄し、一冊一ユーロ(約百三十円)で発売。二〇〇二年四月、仏大統領選の第一回投票で極右政党国民戦線のルペン党首が18%の支持を得た直後からブームを呼び、教材にも使用されるうち、この年の年間ベストセラーになった。これまでに五十二万部が売れた。
その後、英国、ドイツなど十カ国以上で訳され、日本では映画監督などで知られる米国のヴィンセント・ギャロ氏が挿絵を担当。初版(六千部)はたちまち売り切れ、増刷中だ。
筋書きはこうだ。主人公はごく普通の男性市民。ある日、遊び仲間の友人から飼い犬を安楽死させたと知らされる。理由は、政府が毛が茶色以外の犬や猫はペットにできないという法律を定めたためだ。
■違和感放置して染まりゆく日常
その後も日常に小さな変化が起きる。このペット制限を批判した新聞が廃刊され、その系列出版社の本も消えていく。
しかし、「(政府の認めた)『茶色新報』も競馬とスポーツネタはましだから」と、さして不自由のない生活に主人公はまだ、声を上げない。だが、ある日、友人をはじめ、多くの人々が逮捕され始める。過去に茶色以外の動物を飼っていたことを犯罪と見なす法律ができたためだ。「茶色の朝」、主人公にも危険が迫る−。
邦訳に「メッセージ」という形で解説を寄せた高橋哲哉・東大大学院教授は「フランスの極右はナチスに協力した歴史を持つ。国民戦線は一九七二年に結成されたが、勢力を伸ばしたのは八〇年代。失業の増加や欧州連合(EU)統合問題で不満を募らせていた国民の一部が移民排斥を掲げた彼らに共感を抱き始めた」と同書の歴史的背景を語る。
同教授は「日本で右傾化が顕著になったのは、歴史教科書問題が注目された九〇年代。バブル崩壊後、経済不安から不満を募らせた国民はスケープゴート(いけにえ)を求めた。その対象がアジアの隣人。その状況はフランスの極右台頭と類似する」と指摘する。
■一人一人が自覚 思考停止やめて
同教授は「メッセージ」の中で、一人ひとりが「(小さな変化を)やり過ごさないこと」「思考停止をやめること」と訴える。
「日本もだいぶ、茶色になっている。例えば、多くの人は民族学校の朝鮮人生徒への嫌がらせをおかしいと思う。戦後民主主義の最低基準に触れるからだ。でも、自分の小さな生活が脅かされないと放置する。こうして茶色に慣れていく」
同書を読んだノンフィクションライターの魚住昭氏も「ここ数年、日本で起きたことを振り返ると“茶色の朝”はもう来てしまったんじゃないか」と話す。
「最近まで『新たな戦前』という言葉を聞いていたが、イラク派遣をした段階で戦前は終わった。次は本物の戦争が待っている」
魚住氏は一連の流れの底流として、九〇年代のグローバリゼーションの流れを指摘する。米国の圧力による規制緩和が国内産業の空洞化を生み、さらに逆輸入で地場産業がつぶされる。
定職を得ていた人々が振り落とされる不安定な状況を乗り越えるため、国家は治安強化、情報コントロールを強めているという。
■ブレーキ壊れて法律が次々成立
その流れが顕著になる起点を、同氏は九五年の阪神大震災やオウム真理教事件とみる。立法面では九九年の自公連立発足以降、「法律化のブレーキが壊れ、官僚がかつて出したかったがあきらめていた法律が一気に通る状況になった」という。
「一連の治安強化を横目に自分の中にはやばいという警戒感と仕方ないという気持ちの両方があった。盗聴法一つとっても対象は暴力団だから、と抵抗感が少なかった。だが、一つ一つ譲歩していった結果、露骨な状況ができていた」
同氏はメディアの責任にも言及する。例えば「イラク復興支援」という言葉をイラクに派遣された自衛隊の報道に使う。「復興支援か否かが論議になっているはずなのに、報道で無自覚に多用する。何回も報じられるうちに違和感が消え、既成事実化されていく」
同様に改憲や教育基本法改定など今後、政治焦点となる課題も規定の流れと報じられがちと批判する。
「正直、この全体主義的な流れは止まらないのではないか。だが、この先には徴兵制が待つ。自分は兵隊に取られないが、子どもたちのために何とかしたい」
現代日本の風俗、事件を分析してきた東京都立大の宮台真司助教授(社会学)も同書について「『なんだか茶色になっていくなあ』という漠たる不安を抱えた日本の現状にうまく照準する部分がある」と論評する。
同助教授は「第二次世界大戦の開戦決定という合理的な判断が必要とされる場面で、日本は引けないまま進んできた」と評す。そのうえで、日本社会を「火にかけられた鍋のお湯の中のカエル」に例える。
「カエルはだんだん熱くなっても飛び出さず、そのまま丸ゆでされてしまうのに似ている。わずかにおかしいと気づいた人がいたとしても声を上げない。カエルは『周りの誰も飛び出さないからまだいい』とそのままゆでられてしまう」
こうなってしまう理由として「(多くの日本人は)周囲に少数派に属する友人がおらず、異質な人間と接触することがほとんどない結果、自分は多数派、あるいは勝ち馬に乗っていられると信じている」と指摘する。
「日本ではメディアも運動家も、分かりやすい言葉で『早く鍋から出ないとまずい』と伝えることができていなかった。この本はそうした人々に問題を分かりやすく伝えている」
■もう手遅れかも でも絶望せずに
前出の高橋教授は同書の「メッセージ」で「では、どうすればよいのか」という問い自体にも懸念を覚えると記す。「他者から指示してもらおうというのはそこに国や『お上』の方針に従うことをよしとするのと同型のメンタリティーがあるのではないか、と感じられてならないのです」。同教授はこう話を結んだ。
「正直、手遅れかもしれません。でも、絶望したら終わり。本書では一人ひとりに考えてほしいと訴えました。今はもう一歩踏み込んで、声を上げ、行動してほしいと思っています」