日本画家の平山郁夫や東山魁夷（かいい）らの偽版画が流通していた事件で、販売に関わった大阪府池田市の男性画商（52）名義の金融機関の口座が犯罪収益の恐れがあるとして凍結されていたことが捜査関係者への取材で判明した。預金額は約6億2000万円に上る。警視庁が偽版画の売上金が含まれている可能性があるとして金融機関に凍結を要請した。

ピカソやシャガールも…

　画商の関係先への捜索で、ピカソやシャガールを含む画家計12人の原画を基にした版画80点を押収していたことも明らかになった。同庁が鑑定を進めており、偽版画がさらに流通している可能性が高まった。

　同庁は著作権法違反容疑などを視野に捜査している。2020年12月に画商の池田市内の自宅を家宅捜索したところ、他人名義で借りているマンションの部屋に現金約2億5000万円を入れた金庫を置いていることが分かった。21年1月、偽版画の販売による収益だったとみて現金を押収しようとしたが、金庫からはなくなっていた。

　画商の資産状況を調べたところ、二つの金融機関に約6億2000万円が預金されていた。金庫にあった現金も口座に移された可能性があるとみて、金融機関に口座の凍結を求めたという。口座凍結は、取引を停止し、現金の振り込みや引き出しができないようにする措置で、同庁は資金の流れを捜査している。

　一方、画商の関係先の捜索で見つかった80点の版画には、これまでに計10作品の偽作が明らかになっている平山や東山、片岡球子の作品のほか、3人の日本画家とピカソやシャガールら海外の画家6人の作品が含まれていた。著作権を持つ画家本人や遺族の許可（ライセンス）を取っていない可能性があるという。

　画商は約8年前から奈良県大和郡山市の版画工房経営の男性（67）に偽版画の制作を依頼していたとみられ、工房も捜索を受けた。男性は取材に「（画商とは）10年以上前に状態の悪い版画の修復を頼まれてからの付き合いで、ライセンスがあるから版画の作製を依頼してきたと思っていた」と話す。偽版画への関与については「本物を作る技術はある。今回はライセンスがなかっただけで偽物とは言えない」と強調した。

　事件は、業界団体「日本現代版画商協同組合」の組合員が20年春ごろ、平山らの作品の偽版画が流通していることに気付いて発覚した。組合の聞き取りに画商は「版画のサインは自分で書いた」などと関与を認めたという。