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http://mainichi.jp/select/opinion/eye/news/20071205ddm004070172000c.html
記者の目:笑顔振りまきサービス、巡業先の朝青龍=田原和宏(西部運動部)
◇「土壇場」で新たな一歩−−集客力、感心したが…
「土壇場。まさに、今の大相撲だな」
私が大相撲九州場所で取材した鳴戸親方(元横綱・隆の里)の言葉だ。話はその後、横綱・朝青龍(27)を巡る騒動や時津風部屋の力士急死問題にまで及んだ。
土壇場。辞書には「斬罪(ざんざい)の刑場。転じて、進退極まった場面」とある。その語源を、鳴戸親方は教えてくれた。罪人が首を切られる際、もがけばもがくほど余計な傷を負う。逆に覚悟を決め、首を出せば一刀両断で事が終わる。
九州場所と九州3カ所で行われた冬巡業の取材を続け、鳴戸親方の言葉を何度も思い出した。そして朝青龍とともに日本相撲協会も土壇場に追いつめられていると実感した。
近年、客入りが思わしくない九州場所は平日、中段以降の升席は空席ばかり。満身創痍(そうい)でカド番に臨んだ地元・福岡県出身の大関・魁皇を除けば、歓声がわく場面も少なかった。加えて初日、中日、千秋楽に土俵に這(は)った横綱・白鵬の姿に、改めて朝青龍の存在感を何度も思い起こした。
結局、祝日の13日目に「満員御礼」の垂れ幕が出たが、実は空席があった。それを協会幹部にただすと「重箱の隅をつつくようなことを聞くな。こういうのは勢いだよ」と一喝された。
対照的に朝青龍が復帰した冬巡業は、会場が狭いとはいえ、立ち見も出る盛況ぶりだ。名古屋場所後に「巡業参加お断り」と言い放った巡業部幹部が、九州場所では一転して「朝青龍には冬巡業で頑張ってもらいたい」と語ったのもうなずける集客力だった。
だが、横綱に求められているのは「品格力量抜群につき」だ。11月30日の謝罪会見で、目指す横綱像を問われた朝青龍は「いろいろな方と話し合いながら直していきたい、いや、勉強していきたい」と語った。冬巡業はその言葉が試される第一幕だった。
大分県であった巡業初日。朝青龍は十両力士のけいこが続く時間から登場した。その熱の入れようは「相撲が好きだから」と語った謝罪会見を思い出させた。観客に応援の拍手を求めるちゃめっ気を見せたり、ファンに囲まれても嫌な顔ひとつせず、笑顔を振りまいた。
横綱としては疑問符が付く土俵上のパフォーマンス。巡業部長の大島理事(元大関・旭国)は「あれはサービスなのだろうね」と、やや渋い顔だが、解離性障害に陥るほど追いつめられた朝青龍が「変わらなければ」と決意したのは想像に難くない。横綱の変化を感じたのかファンも温かく迎えた。
ただ、この手のひらを返したような展開が、腑(ふ)に落ちない。
一つは、朝青龍は報道陣の前で「(巡業参加は)当たり前のこと」と繰り返したこと。その様子からは、夏巡業に休場届を出しながら無断帰国中にサッカーに興じたことなど、まるでなかったかのようだ。さらに謝罪会見で厳しい質問をした記者に対して、巡業中にも「しつこく質問した記者だろ」とにらみつける姿を見ると、騒動でどんな教訓を得たのか疑問も残る。
もちろん、朝青龍だけに騒動の責めをすべて負わせられない。
土俵での立ち居振る舞いなど、問題視される朝青龍だが、16歳で高知・明徳義塾高に相撲留学して以来、相撲の世界にどっぷりつかってきた。その横綱の品格が問われるならば、外国出身者が関取の3割を占める今、弟子の育成方法など協会内で何らかの対策が真剣に論議されてもいいはずだ。今なお「横綱は悪いことをしたのか」とかばうモンゴル人力士もいるからだ。
しかし、福岡市内の宿舎で、朝青龍の謝罪会見を見守った北の湖理事長は「指導は部屋の師匠の責任」という姿勢を崩さなかったばかりか、協会の対応策を質問した、ある記者を「もっと相撲を勉強するように」とたしなめたほどだ。
ほぼ満席となった大分県の巡業会場で、実行委員長を務めた地元商工会長はこうあいさつした。「(盛況なのは)横綱とマスコミのおかげ」。その口ぶりに皮肉の響きはなかった。ただ、沈黙を貫きモンゴルに帰国した横綱と、追いかけ回す報道陣のもたらしたものが、一時のにぎわいだけでは、あまりにもむなしい。
4カ月ぶりに土俵に復帰した朝青龍が時折、鋭い眼光を見せたり、過剰とも言えるファンサービスをする姿を見ると、少なくとも「土壇場」で新たな一歩を踏み出したように思うが、巡業地のファンには、力士教育などで協会の説明不足を指摘する声もあった。次は協会の一歩が必要だ。
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毎日新聞 2007年12月5日 東京朝刊
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