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http://mainichi.jp/enta/cinema/news/20071009dde018200055000c.html
＜最新エンタメ事情 Ｗｈａｔ’ｓ ｎｅｗ？＞
イラク戦争やテロを正面から取り上げた映画が米国で続々と作られ、公開が今秋に集中している。泥沼化する戦争を背景に、ハリウッドは米兵の犯罪に焦点を当てた作品や「米国が善、イスラムが悪」という単純な描き方を排した作品を通し、戦争の大義に疑問を投げかけている。【ロサンゼルス國枝すみれ】
★米兵の犯罪にも焦点
米国で９月に公開されたポール・ハギス監督の「イン・ザ・バレー・オブ・エラ（エラの谷）」は、ニューメキシコ州の米軍基地で起きた実話に基づいている。イラクから一時帰還した米兵が行方不明となり、のちに遺体で発見される。トミー・リー・ジョーンズ演じる父親が奔走、同じ部隊に所属する兵士たちが息子を刺し殺し、遺体を焼いたことを突き止める。さらに、その部隊がイラクでの民間人虐待に関与したことを知る。死因を追及する過程で、米国への忠誠心を失っていく退役軍人の姿が強い印象を残す。
今年のベネチア映画祭で上映された「リダクティッド」（ブライアン・デ・パルマ監督）も、イラク駐留米兵がイラク人少女を集団レイプし、証拠隠滅のために家族ごと殺害した実際の事件に基づいて製作された。
「グレイス・イズ・ゴーン」（ジェームズ・ストラウス監督）はイラク従軍中に死亡した母親について説明しようと、娘らを旅に連れ出す父親の物語。１２月に米国の一部で公開される。
全米公開中の「キングダム／見えざる敵」（日本公開は１３日）は、サウジアラビアで起きた対米テロ事件が題材。ジェイミー・フォックス演じるＦＢＩ捜査官は、サウジアラビアの警察官とともに爆破テロ犯を追ううち、国や文化の差を超えた連帯感を感じる。だが、憎しみが世代を超えて引き継がれる現実にも目を向け、テロが続くことを暗示する。
１１月に全米公開されるロバート・レッドフォード監督の「ライオンズ・フォー・ラムズ」は、レッドフォード演じる大学教授の教え子２人がアフガニスタンに派兵され、その運命が、メディアを利用して戦争への支持を高めようとたくらむ共和党議員（トム・クルーズ）によって翻弄（ほんろう）されるストーリーだ。
レッドフォードは今年はじめ、業界紙に「ウソつくことが政治家の資質といわれるような時代……まっとうな精神を持つ人が、極右から左がかっている、と批判される」と政治不信を明らかにした。９月のエミー賞の授賞式でベテラン女優のサリー・フィールドが「母親たちが世界を支配していたら、戦争なんて起きない」と叫ぶ出来事もあった。
★終結前から批判的作品
カリフォルニア大サンタバーバラ校のジェニファー・ホルト助教授（映画論）によれば、第二次大戦中に製作された映画はすべて戦争支持。ベトナム戦争を批判する映画は戦後数年を経てようやく製作された。しかし、「今回は戦闘終結前から戦争を批判する映画が公開され始めた」と語る。
戦争批判の映画が増えた背景には、世論の変化もある。ギャラップ調査によれば、昨年１２月時点で米国人の６２％が「イラクで戦う価値はない」と答えた。イラク戦争で米国の勝利を信じる米国人はわずか１６％。イラクの反米派が勝つと思う１７％より少ない。６４％は「どちらも勝てない」。「テロとの戦争はどちらが勝つか」という質問でも、米側が勝つとの回答が２９％だったのに対し、テロリストが２０％。「どちらも勝てない」が５０％と最も多かった。厭戦（えんせん）ムードは全米共通なのだ。
★重い内容は敬遠される？
だが、こうした戦争に否定的な映画に対し、米国人の観客はどう反応するのだろうか。ホルト助教授は「善悪が明確な戦争映画なら受容できるが、複雑で議論の余地がある難しい内容は受け入れにくい」と否定的だ。また、映画は「現実から逃れるためのエンターテインメント」として発展した歴史があるため、重い内容の映画は避けられがちだ。
例えば、イラク帰還兵の苦しみを描いた「ホーム・オブ・ザ・ブレイブ」は、昨年１２月に米国内の一部で公開されたが、興行成績は４万３０００ドル（約４９５万円）とふるわなかった。イスラム過激派に殺されたウォールストリート・ジャーナル記者の妻をアンジェリーナ・ジョリーが演じた全米公開作「マイティ・ハート／愛と絆」（日本公開は１１月）の興行成績も９１８万ドル（約１０億円）で、予想を下回った。
毎日新聞 2007年10月9日 東京夕刊
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