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「iPS細胞が作る新しい医学」 山中教授講演全文(1) (朝日新聞)
http://www.asyura2.com/07/nature2/msg/653.html
投稿者 シジミ 日時 2008 年 3 月 24 日 22:22:42: eWn45SEFYZ1R.
 

http://www.asahi.com/science/update/0324/TKY200803240271.html

2008年03月24日16時22分

 山中伸弥・京都大教授(iPS細胞研究センター長)は、昨年11月、人間の体細胞から万能細胞を作成する手法を発表して世界的な注目を集め、2007年度朝日賞を「万能細胞作成に関する新手法の開発と実証」の業績で受賞した。この受賞記念講演会(朝日新聞文化財団、朝日新聞社主催)が3月21日、東京の有楽町朝日ホールで開かれた。「iPS細胞が作る新しい医学」と題して、山中教授が再生医学の基本からES細胞、iPS細胞の作成や今後の展望を満員の約650人の聴衆を前に約1時間半にわたってユーモアを交えて語った。

アサヒ・コムでは、山中教授の記念講演を計6回((6)は質疑応答と山中教授プロフィール)に分けて詳報する。

        ◇         ◇

 皆さん、こんばんは、京都大学の山中伸弥です。この1月に京都大学に「iPS細胞研究センター」というものが新しくできました。これまで私は再生医科学研究所だったんですが、いまはこのiPS細胞研究センターの所属となっております。

 本日はこのような講演の機会を与えていただきましたこと、また今年の初めに「朝日賞」という大変栄誉ある賞をいただきましたことに、改めて朝日新聞社および関係の方々にこの場をお借りして御礼申し上げます。どうもありがとうございました。

 本日は1時間少しの時間でありますが、私たちが報告いたしました新しい幹細胞であるiPS細胞、人工多能性幹細胞によってこれからどういうことができる可能性があるか、どんなふうに医学やその他の生物学が変わっていくかということについて簡単ではありますが、ご紹介させていただきたいと思います。

 私はいまは基礎研究しかしていないのですが、20年くらい前に大学を卒業したときは、数年なんですけれども、整形外科医として働きました。大阪の病院で研修医をしたのですが、残念ながら外科医としては手術も決して上手とは言えませんで、また研修医、半人前の医者ということでほとんど患者さんのお役に立った記憶はありません。

 今から20年前で、一生懸命働いたのですが、その当時、またそれから20年たった今の医学でもなかなか治すことのできない病気であるとかケガがまだまだたくさんあります。特に子どもさんであるとか働き盛りの若い人がかかるような病気、また受傷するようなケガ、それで治せないものがたくさんあるというのが現状であります。

 まず最初に、今のところ非常にまだまだ治すのがむずかしい病気とかケガで若い人や子どもさんもかかる可能性のあるものを三つだけご紹介します。

 まず一つ目は「若年型の糖尿病」もしくは「1型の糖尿病」と呼ばれている病気です。

 (スライドを指して)この女性は非常に美しくてきれいなんですが、それもそのはず、1999年の「ミスアメリカ」に選ばれたニコール・ジョンソンさんという女性です。彼女は一見、健康そのものですが、実は彼女はこの1型糖尿病という病気と闘いながら「ミスアメリカ」に選ばれてその仕事を一生懸命こなされた。「ミスアメリカ」「ミスジャパン」というのは非常に大変なお仕事らしいですが。

 この糖尿病は皆さまもよくご存じだと思いますが、「インスリン」と呼ばれるホルモンが不足して起こる病気です。私たちが食事をすると、食事の中の栄養分、ブドウ糖が血液の中にたくさん流れ込みます。インスリンは筋肉であるとか脳といった、ブドウ糖をエネルギー源として必要とする組織や細胞にちゃんと連れていって引き渡す、そういう役割をしているのがインスリンです。

 糖尿病はこのインスリンが不足してしまうのが原因です。ということは、幼稚園で先生が突然いなくなるのと一緒で、子どもたちはどこに行っていいのかわからなくなって、そのへんをさまよってしまう、そういう状態になります。

 何が起こるかというと、糖が血液のなかでどんどんたまってしまうということになります。そうすると、コーヒーに砂糖を1杯、2杯と入れた最初はいいんですが、どんどん入れていくとドロドロになっていくと思いますが、言ってみたら同じようなことが体のなかで起こってしまいます。

 その結果、血液を包んでいる血管に障害が起きる。また、これはまだなぜそうなるか完全によくわかっていませんが、血管だけではなくて神経も障害を受ける。血管が障害を受けると、例えば手足の血流が悪くなって、ひどい場合は切断したりすることもあります。神経の障害があると、手足の感覚がなくなったり、また目が失明という場合もあります。さらには、糖をちゃんとエネルギーとして使えないわけですから、さまざまな代謝障害が起こって意識を失ってしまったりというように、このインスリンが不足することによってさまざまな症状がじわじわと表れてくるというのが糖尿病です。

 インスリンは「すい臓」という臓器が作ります。すい臓はどこにあるかといいますと、この胃の後ろにあります。大体こぶし大くらいの臓器です。1個しかありません。腎臓とか肺というのは2個あるんですが、すい臓はそれぞれの人は一つしか持っていません。

 非常に働き者の臓器で、二つの仕事をしています。一つ目は、十二指腸につながっていまして、そこに消化液をどんどんどんどん放出します。この作用のことを「外分泌作用」「外分泌部」というふうにいいます。なぜかというと、腸管というのは口からお尻までつながっていて体の外とつながっていますので、ある意味、体の外ですから、外に分泌するという意味で「外分泌」と呼ばれています。

 もう一つの仕事がインスリンなどのホルモンを作るという仕事で、これは血液の中、血管の中に放出しますので、体のなかに放出するということで「内分泌」と医学的には区別されています。

 このすい臓がインスリンを作るのですが、すい臓のすべての部分でインスリンを作っているわけではなく、島状に固まった一部の細胞がインスリンを作っています。この細胞のことを、見た目のとおり、すい臓の島ということで「すい島」と呼んでいます。このすい島がインスリンを作ります。

 糖尿病には二つのタイプがございます。多いのは「2型の糖尿病」と呼ばれている病気で、これは大人に多くて、日本だけで500万人くらいの患者さんがいてると言われています。この原因は、すい臓はちゃんとインスリンを作るけれども、体のほうがどんどんどんどん運動不足等で肥満になってしまって、その結果、すい臓が一生懸命インスリンを作っても相対的にインスリンが足らなくなる。だからさっきの話で言いますと、幼稚園の先生はちゃんといるけれども、町がすごく大きくなって子どももいっぱい増えて、その結果、相対的に足らなくなる。その状態が2型の糖尿病です。

 一方、1型は同じ「糖尿病」という名前でも、原因はぜんぜん違います。こちらは先ほどのインスリンを作る「すい島」と呼ばれる細胞がほぼ完全につぶれてなくなってしまいます。原因は免疫の異常とかいろんな原因が考えられますが、全くインスリンが作られなくなるという病気の原因です。

 ですから1型、2型は同じ糖尿病でも、ぜんぜん原因が違います。1型は30万人くらい日本で患者さんがいるんじゃないかと考えられています。こちらは子どもさんに多い。幼稚園とか小学生の子どもさんでもこの1型糖尿病が起こることがあります。ある日突然起こります。前の月は大丈夫だったのに、1カ月後には1型糖尿病になっている、そういうことも起こり得るのがこの1型の糖尿病です。

 では、治療はどうするかということですが、2型のほうは運動をしたり食事制限でやせると、大体制御できるけれども、1型はそういうことではだめです。根本的にインスリンが作られないわけですから、もう治療法は一つしかありません。インスリンを外から足してあげるしかありません。

 残念ながらインスリンは非常に不安定な物質で、風邪薬のように飲み薬で投与できたらそんなに大変でないけれども、非常に不安定ですから注射するしかありません。しかも注射しても不安定なので、1日1回ではだめで1日3回、4回注射する必要があります。

 先ほど言いましたように、小学生とか中学生とかそういう子どもさんがなることが多くて、1日に3回、4回注射するとなれば、そんなに病院に行けません。では、どうするかというと、もう自分で注射するしかないということで、この冊子ですね、「ボクにもできたよ インスリン注射」と書いてありますが、こういった幼稚園、小学生の子どもさんに、どうやって自分に注射するかということを教える冊子があるのはそういう理由からです。

 私に娘が2人おりまして、上の娘が高校を卒業してこんど大学生になることになったんですが、4月に新入生のための健診があると。「2回注射をしないとだめだ」ということが手紙で来たら、今からすごく憂鬱(ゆううつ)で「いやだ、いやだ、いやだ、いやだ」と、もう大学生にもなるのにそういうことを言っている。私も注射は今でもいやですけれども、こういった子どもさんたちは1日に3回、4回。それも自分自身で注射をしないとだめという、それだけでも非常に大変だということはわかっていただけると思います。

 ただ、こういう患者さんは非常にみんな頑張って、注射はちゃんとする子が多いです。では、注射さえちゃんとしたらそれでいいかというと、だめなんです。注射をちゃんとしていて起こるのが、効き過ぎてしまうということ。インスリンが効き過ぎて逆に低血糖になる、これが患者さんを苦しめます。

 低血糖発作というのは、皆さまも経験があるかもしれませんが、もう冷や汗が出てきてふらふらして、ひどいと倒れてしまいます。意識を失ってしまいます。非常に苦しいんですね。ひどい場合は、意識を失ってそのままもし誰にも発見されないと亡くなってしまうこともあります。これがいやで治療をやめてしまう子どもさんが多い。

 血糖が高い状態がずうっと続いて、10歳くらいでこの1型糖尿病になって全く治療しないと、30歳くらいで心臓の血管が障害を受けて、普通は年を取ってからしか起こらないような心筋梗塞(こうそく)とかそういうことが起こったりする可能性もある。そういう病気です。

 では、これだけ医学が進んできてなんとかならないのか、一生懸命やっても低血糖で患者さんを苦しめるインスリン注射をなんとかできないのかというのは当然、いろんな人が考えています。先ほどのニコール・ジョンソンさんを苦しめていたのはこの低血糖発作なんですね。

 まずいちばん考えやすいのは、1990年代に臓器移植が非常に発達しました。ということですい臓でインスリンができないのであれば、すい臓そのものを移植したらどうだろうかと当然考えられます。しかし、これには問題があります。

 すい臓というのは、インスリンだけではなくて消化液も作ると最初に言いました。ということは、心臓が止まるとどうなるかというと、その消化液があふれだして自分自身を溶かしだしてしまうんですね。すい臓は一個しかありませんので、このすい臓を移植しようと思うと、亡くなった方の臓器を取り出すしかないんですが、心臓が止まってしまうと、もう使い物にならないということで、脳死移植が必要です。しかし脳死の方の移植というのは、日本では年間本当、10例くらいしかない。非常に少ないのが現状です。

 それと、すい臓は非常に柔らかくて豆腐みたいな柔らかさで、血管が非常に多い臓器ですから、これを移植するというのはものすごい大手術です。何時間もかかって、失敗すると大出血してしまうような手術になります。それらの理由からこの1型糖尿病の子どもさん、患者さんに脳死の方からすい臓そのものを移植するという治療は基本的には行われません。リスクが大き過ぎるし、また臓器もほとんど手に入らないので、この治療は行われていません。

 では、どうしようもないかというと、そういうわけではありません。すい臓そのものを移植する代わりに「すい島移植」。よく似ていますが、すい臓移植ではなくてすい島移植という技術ができました。これはカナダのエドモントン大学という大学でできた技術です。すい臓からインスリンを作るすい島の細胞だけを取り出す。それ以外の部分は除去してしまって、すい島、インスリンを作る細胞だけを効率良く取り出すという技術が完成しました。

 こうなりますと、臓器移植ではなくて細胞移植ですので、先ほど「非常にむずかしい手術だ」と言いましたが、ぜんぜん変わります。細胞を移植するだけですから1時間くらいで終わる操作になります。しかも、別にすい臓に移植する必要はなくて、カテーテルを通して血管から肝臓にこのすい島の細胞を入れてあげると、肝臓のなかに生着して、そこでインスリンをちゃんと作り出すということがわかりました。これだと1時間くらいでできます。外科の先生でなくても内科の先生で十分に行える方法です。

 これは非常に効果があるということがわかってきました。インスリンを打たなくて良くなる患者さんもありましたし、たとえインスリン注射はまだ必要であっても、先ほどの低血糖発作が非常に頻度が下がる、そういう効果があるということがわかりまして、このすい島移植を受けた患者さんは全く今までと違う生活、より快適な生活になるということがわかってきました。非常に効果のある方法です。

 しかし、これもまだまだ問題があります。なぜかというと、すい島を取り出すためにはやはりすい臓が必要なんですね。やはり脳死の方からいただくか、もしくは今日本で行われているのはその患者さんのご家族ですね。お父さん、お母さんのすい臓、一個しかありませんが、その一部をいただいて、そこからすい島を生成して移植するという必要があります。

 脳死の方からの移植というのは、先ほどと同じように日本では非常にまれにしかありません。家族の方から、これも一個しかないすい臓です。それを取り出すというのはやはり大手術になりますし、危険も伴いますので、これもそんなに頻繁に行えるようなものではありません。

 日本におきましては、このすい島移植というのは私たちの京都大学の医学部の付属病院が中心になって行っておりますが、これまで全部合わせても100例も行っていないと思います。ですから30万人患者さんがいてるんですけれども、こういったすい島移植を受けることができたのはまだ2けたというのが現状ですから、大部分の患者さんにとってはまだこれは夢の治療です。

 このように90年代というのは移植医学が非常に発達しました。心不全で全く運動のできなかった、動けなかった人が心移植を受けることによって、アメリカではそういった人のオリンピックまであるんですね。走ったりする、それくらい良くなる。非常に多くの患者さんにとって福音となりました。しかし、問題点はドナー不足ですね。臓器や細胞移植したくても、その臓器や細胞が手に入らないというのが非常に大きな問題です。

 これに対して私たちがいま目指している再生医学というのは――私はこの再生医学も移植医学の一部だと思っていますが、従来の移植医学と違うのは、移植する臓器や細胞を人間の手で作りだしたり、もしくは増やすということをするという点で今までの移植医学とは違います。臓器や細胞を増やしたり作ったあとで移植するというのが再生医学です。

 ((2)へ続く)

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