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http://www.chunichi.co.jp/article/column/editorial/CK2008032402097811.html
【社説】
週のはじめに考える 春の風が吹いていたら
2008年3月24日
春が来た、春が来た、どこに来た。華やかでも、繊細な季節です。早く見つけて、そして守ってあげないと、やがてここには、来なくなるかもしれません。
「流星落ちて住むところ/かんらんの実の熟(う)るるさと/あくがれの南(みんなみ)の国につどいにし/三年(みとせ)の夢短しと結びも終えぬこの幸を…」
桜島の噴煙もゆらめくような蛮声が、南国に春を告げました。
「あるいは饗宴(うたげ)の庭に/あるいは星夜の窓の下に/若い高らう感情の旋律をもて思いのままに歌いたまえ/歌は悲しき時の母ともなり/うれしき時の友ともなれば」
寮歌を春の道連れに
旧制第七高校(現鹿児島大)寮歌「北辰斜(ほくしんなな)めにさすところ」。歌と踊りの前触れになる「巻頭言」。独特のせりふ回しに、惜春のかすかな哀感が漂います。
七高に限らず、往時の旧制高校生たちは「高歌放吟」に明け暮れて、共に生き、共に学んだ季節と時間を記憶の中に刻み付け、今も分かち持っています。
「それ京洛の山に咲く/三年の春の花嵐」(三高・京都大)
「伊吹おろしの雪消えて/木曽の流れにささやけば」(八高・名古屋大)
「寮歌」とは、短い春の道連れであり、記念碑でした。
ところ変わって、名古屋市東区です。
自動車整備士だった今村トオルさん(49)が、フォーク酒場「ひまわり」を開店させたのは、昨年七月のことでした。
フォーク世代の今村さんは滋賀県の高校を卒業後、名古屋の整備工場へ。音楽に浸る余裕もなく、二十数年、無我夢中で働きました。
二年前、職場が倒産、次の仕事は見つかりません。開き直って手当たり次第、好きなライブを聴き歩く日々が続きます。
季節とともにある暮らし
ちょうどそのころ、吉田拓郎とかぐや姫が、三十二年ぶりに静岡県掛川市のつま恋多目的広場で共演した野外コンサートに、三万五千人を動員し、団塊の世代のフォーク回帰が加速しました。
「そういえば、今みんなで歌える歌がない」。蓄えをはたいて、自分の店を持とうか。「ヒマワリはどんぶり鉢にだって育つじゃないか」。大好きな佐渡山豊の歌声が、背中を押してくれました。
小さなステージに生ギターが二本置いてあり、サラリーマンが仕事帰りに立ち寄って、自由に弾き語りができる店−。
「感傷や郷愁だけではありません。みんな、音楽を通して当時の気持ちになって、だれかとつながっていたいんです。今を生きる勇気がほしいんです」と、今村さん。
のぞいてみると、店の中から聞こえてきたのは、一九七〇年代に人気があった、拓郎の「春の風が吹いていたら」。「どこかで泣いてるだれかのために、春風に乗せて草笛の音を届けたい」という、おじさんたちの合唱でした。
私たちの暮らしは本来、季節とともにありました。
食べ物は、折々の季節の恵み。恵みへの感謝が祭りや歌になり、歌声が人々の心を結び付けました。
ところが今や、二十四時間、三百六十五日、いつでも、何でも手に入るのが当たり前。買い物はコンビニで、情報はインターネットで事足りるとでも言いたげに、祭りはおろか、隣近所とあいさつを交わす機会もありません。
工場で大量生産された、いのちの糧は、地球の裏側からも手際良く運ばれて、肥大化した冷凍庫は、「旬」という言葉とその意味を「氷の世界」に閉じこめます。地球温暖化の行き着く先は、四季の完全な消滅です。季節のない街に、人々の心を動かす歌は生まれません。
私たちは、季節を感じるアンテナをもう一度研ぎ直し、四季の変化を守らねばなりません。季節がめぐるということは、当たり前のようでいて、実はとても大切で、とても壊れやすいものだから。
春。春夏秋冬の筆頭にある何やら特別な季節です。草は萌(も)え、花はほころび、はじまりの予感をはらんだ風が吹いています。このような風景を四季のめぐりの最初に置いた先祖のセンスは鋭敏でした。
「わたしどもの高校三年間は空であり、零でした。無であり、零であるというのは、なんにもなかったということじゃありません。そうでしょう。ここから生まれるものは無限大であるはずです。無は無限大に通ずるからです」(瑞穂丘物語)
旧制八高の卒業生で、名古屋国際ホテルの社長などを務めた多湖実夫さんの述懐です。
ゼロは無限大だから
おめでとう、お疲れさまの言葉とともに、多くのことが再びゼロに戻る春。無限大の力を宿す季節なのかもしれません。
そんな春だから、自分のために、どこかで泣いてるだれかのために、だれかと一緒に何かを始めてみませんか。新しい風に吹かれて、好きな歌を口ずさみながら。
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