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チャールズ・サイフェ著 林大訳 早川書房 2200円(税抜き)2008年2月15日 金曜日 松島 駿二郎万物はコード化できる、と最初に提唱したのは、アメリカ人の情報科学者でクロード・シャノンという男だった。コンピュータ内を走る電流に0と1で表現できるコードが使われるようになったのも、シャノンのおかげだ。 0と1という二進数にコード化された情報は、それ自体は暗号のようなもので、そのままでは読みとれない。読みとるためには復号(デコード)しなくてはならない。 著者のスタンスは、我々がいま目の前にしている宇宙の姿は暗号そのもので、実は量子情報がコード化されているという。そのありのままを見たり知ったりするには、量子コードを復号しなくてはならない。 コンピューターの二進コードは、コンピューター内に組み込まれた2進数のコード、デコード器で行っている。量子暗号を解くには、量子コンピューターが必要だ。量子コンピューターは、シャノンの二進数コードとは似ても似つかないコーディングやデコーディングを行う。 レイモンド・ラフラムという科学者がカナダで、量子コンピューターの研究をしている。強力な磁場を発生させる、2つの装置を並べ、それが作り出す複雑な磁場の中で、原子をダンスさせ、その振る舞いを観測する。その振る舞いこそが量子情報そのものなのだ。原子どもはテレポーテーションとか、壁のすり抜けなど奇跡的な振る舞いをする。 シャノン形のコンピューターでは情報単位はビットである。量子情報の基本単位はキュービットという単位となる。いま、量子コンピューターが扱うキュービット数は増えつつある。100万桁の数字の素因数分解は、現在最速のコンピューターを使っても、宇宙生成以来の時間よりもっと時間がかかる。しかし、量子コンピューターに適当なアルゴリズムを投入すれば、数分で答えが出るだろう。 これはSFではない。現に人類は量子コンピューターの実現に向けて歩みだしている。1950年代に一歩踏み出したデジタルコンピューターが、いまどうなっているか考えれば、量子コンピューターは、近い未来に各家庭のデスクの上に載るようになるだろう。 人類はそうやってずっと進歩を大股で歩んできたではないか。 ペンローズの『皇帝の新しい心』がおもしろく読めた読者には、本書もおもしろく読めるだろう。<量子脳>と特に括ってあるのは、言葉自体がまだ馴染みがないからだ。 人間の脳はニューロンの錯綜する、複雑きわまりないネットワークだ。人の意識はこのネットワークの中を量子状態で漂っていて、さまざまな状況において、何らかの触手によって、その都度引っ張り出されてくる。茂木健一郎のペンローズとの出会いもおもしろい。 本書を注意深く読んでも、<量子脳>とはどのようなものか分からない。人の意識の出所も、誰もが(著者も解説者も)よく分かったように、自明のこととして話し、書き、語っている。禅問答がおもしろいように、本書もおもしろい。 そして、量子のレベルに降りていくと、人は誰でも哲学者になることにも気付いた。コギト・エルゴ・スム(我思う故に我あり) 1977年、ボイジャーという宇宙船がフロリダから打ち上げられた。「ボイジャー」とは「航海者」という意味で、帆船時代の言葉だ。ボイジャーは虚空の宇宙を、何かに向かって飛翔し続ける、マゼラン海峡を越えて初めて太平洋に乗り出した帆船のようだ。 ボイジャーははっきりと地球外生命(ET)との遭遇を意識していた。そこで普遍的な数学式や、脳のいちばん奥にある聴覚への刺激を与えるために、ヨハン・セバスティアン・バッハの『平均立クラヴィア曲集』のプレリュードが録音盤が搭載した。 著者は物理の目で宇宙を見る。そして驚異的な事実として、プラスの電気とマイナスの電気の量はぴったりと同じだ、と断定する。もしひとつでもマイナスが多ければ、そのマイナスと他のマイナスは反発しあい宇宙はあっという間に崩壊する。 筆者はきわめて優しい言葉で、深遠な宇宙のことを語る。19世紀末の詩人オスカー・ワイルドは「自然は芸術を模倣する」という言葉を残した。この言葉は、美しい自然が先にあるのか、あるいは美しい芸術が先にあるのか、というちょっと哲学的な疑問を突きつける。ここから著者は、一気に宗教的な考えにふけり始める。 月面着陸した宇宙飛行士や、シャトルで宇宙に出た飛行士などは科学の知識に散りばめられている。そんな人々がどこかでふっと宗教的な感覚に捉えられ、宗教に帰依する。宇宙や星々は、ビッグバンという大爆発によって散りばめられた粒子によって誕生した。それらの莫大な数の粒子が地球を作りそこに住む人類を作った。人類のからだも、ビッグバンの名残でできている。 ボイジャーは時速5万4000キロメートルというスピードで太陽系を後にした。どこで地球外生命(ET)と遭遇するのかも分からない。ボイジャーは海王星の軌道に到達したとき、振り返って太陽系の写真を、65億キロメートルかなたの宇宙空間から、未だ誰も見たことのないアングルで送ってきた。その中に針の先ほどの小さな青い点があった。われらが地球だ。 この本は読む人を気宇壮大にしてくれ、ちょっと哲学的にもしてくれる希な本だ。 |
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