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http://www.nikkei-bookdirect.com/science/page/magazine/0707/200707_066.html
以下の文章は記事本文の前書きです。
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ワタリガラス(体長60cm以上あり,カラス科で最大。日本では北海道のみに飛来)にまつわる逸話はたくさんある。多くは彼らがいかに賢いかを示すものだが,そうした話だけでは彼らの恐るべき利口さの証拠にはならない。例えば,彼らは牛の脂肪の塊をつついて運びやすいように小片に分ける。クラッカーをきちんと積み重ねて,一山全部を持ち運べるようにする。2個のドーナツを巧みに扱っていっぺんに運ぶ。そしてほかの動物に盗まれないよう,実際とは違う場所に食物を隠したふりをすることもある。しかし,そうした行動をとるからといって,彼らが意識的にいくつかの選択肢を考慮し,その中から最も適切なものを選んでいるという証拠にはならない。
それらの行動はもしかすると本能に根ざしたものかもしれないし,特定の行動を繰り返すうちに身についたものかもしれない。そのため観察だけでは,そのような可能性を捨て切れない。実際,1990年代までは,ワタリガラスが論理的な考察を行うことを,慎重な科学的検証で示唆した研究はおそらくひとつしかなかった。1943年に元ケーニヒスベルク動物学研究所のケーラー(Otto Koehler)が行った実験だ。彼はペットとして飼っていた10歳になるヤーコプという名前のワタリガラスを使って実験した。蓋についている斑点の数がいろいろ異なる容器を用意し,そのどれかに食物を入れて,ヤーコプにそこから餌を取り出させるように訓練した。そして,ヤーコプが7まで数を数えることができることを証明したのだった。
しかし,主に私たち2人がこの数年間に行った実験により,ワタリガラスが本当に賢いことを証明する確固たる証拠をついに得ることができた。彼らは理論的思考によって問題を解決しているのだ。さらに驚くべきことに,彼らがある個体を別の個体と区別できることもわかった。その点でも,彼らはヒトに似ている。昆虫などを除けば,個体を識別する能力なくして社会を作ることはできないからだ。
一般に賢いといわれている鳥はワタリガラスだけではない。過去20年間,研究が急激に進み,カラス科のより小さいカラスやカケス,カササギ,ホシガラスなども,驚くほど洗練された知能を持つことが明らかにされた。大型類人猿に匹敵する,あるいはそれに勝るほどの知能を持つ鳥もいるようだ。例えばホシガラスは,食物を隠した何千カ所もの場所を覚えていられる記憶力を持ち,人間でもかなわないくらいだ。
著者
Bernd Heinrich/Thomas Bugnyar
ハインリッチとバグニャールは,ともにワタリガラスの知的能力に興味を持っている。バグニャールがバーモント大学の研究員だったときに,2人はワタリガラスの研究を始めた。ハインリッチは1980年から同大学で生物学教授を務めている。カリフォルニア大学ロサンゼルス校でPh.D.を取得した後,カリフォルニア大学バークレー校の昆虫学科に10年間在籍し,その後バーモント大学に移った。彼はRavens in Winter(Simon and Schuster,1989年,邦訳『ワタリガラスの謎』渡辺政隆訳,どうぶつ社,1995年)やMind of the Raven(HarperCollins,1999年)など,数冊の有名な本の著者であり,Mind of the Ravenはまもなく改訂版が刊行される予定だ。本記事はハインリッチにとってSCIENTIFIC AMERICAN誌7本目の記事にあたる。バグニャールはオーストリアのグリューナウにあるコンラート・ローレンツ研究所で行ったワタリガラスの研究によりウィーン大学からPh.D.を授与された。現在はスコットランドのセントアンドリューズ大学心理学部の講師を務めている。
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