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http://www.bund.org/interview/20070215-1.htm
石油ピークは農業・文明ピーク
「もったいない」の精神で脱浪費社会をめざそう
東大名誉教授 石井吉徳さんに聞く
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いしい・よしのり
東京大学名誉教授、「もったいない学会」会長、日本学術会議会員、日本リモートセンシング学会長、物理探査学会長、石油技術協会副会長、NPO地球こどもクラブ会長。専門は地球環境科学、エネルギー・環境論、リモートセンシング、物理探査工学。著書に「エネルギーと地球環境問題」(愛智新書)「国民のための環境学」(愛智新書)「豊かな石油時代が終わる」(丸善)「石油最終争奪戦ー世界を震撼させる『ピークオイル』の真実」(日刊工業新聞社)など。
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石油減耗の時代が現実のものとなり、世界では資源ナショナリズムが台頭している。どうすれば人類はカタストロフィを回避できるのか、ピークオイル論の第一人者である石井吉徳さんに聞いた。
ピークオイルを知っているブッシュ政権
――ブッシュ大統領は今年の一般教書演説で、「脱石油依存」を掲げました。
◆ブッシュ大統領の「脱石油依存」に展望はありません。
大統領は自動車燃料をガソリンからエタノールへ転換する方針を掲げましたが、エタノールはトウモロコシから造ります。コーンは人間が食べるものですから、人間と車が食糧の奪い合いをすることになります。そうなれば必ず人間が負けます。
車にエタノールを供給するほうがお金が儲かるからです。既にメキシコでは、貧しい人たちの主食であるトルティーヤの値段が暴騰しているようです。人間を飢えさせて自動車を走らせるのは間違っています。
日本も他人事ではありません。日本の家畜飼料のほとんどは輸入トウモロコシです。牛や豚、鶏などの肉類や卵は、トウモロコシを大量に飼料とすることではじめて手に入るのです。
サトウキビも同じ状況です。ブラジルはサトウキビの余剰がありますから、この余剰からエタノールを造れば、それほど食糧とバッティングしないかもしれません。しかし、「石油ピークは食糧ピーク」の現実は変わりません。
実は昨年末に衆議院から原稿を依頼されました。日本では減反で休耕田がたくさんあり、米は余っています。この余った米でエタノールを造る話がありますが、これについて原稿を依頼されたのです。私は「本当のことを書いてもいいのか?」と質問し、「いいです」というので、タイトルは「食べ物を車に奪われてよいのか?」にしました。
農水省も環境省も、「石油ピークは食糧ピーク」であることを理解していないようです。「日本の農業、水田を守るために米をエタノールに利用したい」といいますが、その場しのぎでしかありません。
ホンダ自動車は食糧と競合しないように、稲ワラからエタノールを造る技術を開発しました。しかし土壌は数千年かけてつくられた貴重な資源です。土壌に有機物を戻さなければ、単なる岩石の粉末になります。
21世紀最大のテーマは、「持続的な発展」ではなく、人類がいかに生存するかです。
――石井さんが出席しているASPO(The Association for the Study of Peak Oil)には、ブッシュ大統領のエネルギー・アドバイザーのM・シモンズも参加していますね。
◆彼とは何回も話しをしています。アメリカのエネルギー投資銀行会長で、ブッシュ大統領を選挙の時からサポートしています。そのM・シモンズは「He knows(ブッシュは知っている)」と明言しています。 ブッシュ政権は石油政権ですから、間違いなくピークオイルを理解しています。意図的なダブル・スタンダードなのでしょう。他国と国境を接し、常に争ってきた欧米では、騙した方よりも騙された方が悪いのです。それに比して日本の指導層は平和ボケなのでは。
ブッシュ政権のエネルギー戦略が端的に表現されているのが、2001年に発表された「National Energy Policy」の第8章で、エネルギーセキュリティと国際パートナーシップの促進が謳われています。イラク戦争につながる内容が打ち出されていたのです。
ところが、日本のエネルギーの専門家は自分にとって都合の良い部分を引いてくるのです。第6章では再生可能エネルギーの一つとして水素エネルギーを挙げていますが、これを引いて「これからは水素だ」というのです。
EPRを抜きにエネルギー問題を語れない
――石油代替エネルギーには展望がないわけですね。
◆私は様々なエネルギーを評価する際に一番大切なことは、EPR(Energy Profit Ratio)だと思います。EPR=〈出力エネルギー/入力エネルギー〉です。石油の場合は中東の巨大油田に限らず、当初この値が極めて高く60もあります。だからこそ石油は、最も有効なエネルギーなのです。
私は大学を卒業してすぐ帝国石油に入社しました。当時帝石は国策会社で、日本国内にも陸上の油田が小さいですがかなりありました。私は地球物理学が専門でしたから、地下を調べるのが仕事で、秋田では日本最大の八橋油田に配属されました。八橋油田では、何キロにも渡って櫓が建ち並び、生産テストで原油が轟音と共に出るのに驚きました。20代前半だった私は、地下にこんなすごいものがあると背筋が震えるぐらい感激しました。
若い油田は井戸を掘れば凄い勢いで自噴するのです。それに比して最近話題のメタンハイドレートなどは、そうではない。EPRを計算する程の具体性もないのです。メタンハイドレートはシャーベット状の地層に分散した固体です。メタンハイドレート層といいますが、ここを掘っても自噴しません。
私はかって日本でメタンハイドレートのプロジェクトを立ち上げた当事者です。ある特殊法人で非在来型の天然ガスの調査研究委員会の委員長を務めましたが、一つぐらい日本独自の考えがあってもよいと主張し、選んだのがメタンハイドレートです。そしてメタンハイドレート層の下にフリーガスがあれば、と思っていました。メタンハイドレートは高圧力、低温では固体ですが、その下は深いほど温度は高くなるので、フリーガスとなっている可能性がある。そうすれば普通のガス田と同じようにガスが自噴するはず、資源として意味がある、それを確認するのに100億円ほど使ってもよいのではと考えました。しかしその後の海洋掘削ではフリーガスゾーンは存在しませんでした。
この段階で、メタンハイドレートは資源として利用できないことが明らかになりました。ところが、いつのまにかメタンハイドレートが分布する地層そのものがターゲットになってしまいました。いったん公共事業が動き出したら止まらない。
――環境問題で世界的に有名なレスター・ブラウン氏は、ハイブリッドや燃料電池車の普及を訴えていますが?
◆レスター・ブラウン氏はもともとアメリカ農務省で働いていた人です。彼が水や穀物を語る時には一流ですが、エネルギーの話はどうも素人のようです。
彼は風力や太陽光など、自然エネルギーへ転換すれば大丈夫といい、燃料電池車も推薦しています。しかし、太陽光にしろ水素にしろ、資源としては濃縮されていなければ意味がありません。水を電気分解して水素を造るとしても、電気そのものはどうする、分解する過程のエネルギーロスも大きい、私は簡単に水素社会が来るとは思いません。
彼が日本は火山国だから地熱で、と本に書いているのですが、日本は数千億の税を投下しましたが、地熱発電の規模は未だに51万KW程度です。
――世界的に原子力を見直す動きがありますが。
◆一次エネルギーとしての原子力は、日本で10%、世界では7%前後だと思います。石油の後は原子力だと主張する人は多いですが、もし原子力ですべての一次エネルギーを代替するなら、原発を10倍に増やさなければならない。
原子力で車は走りません。燃料電池車に供給する水素を原発の電気で造るとしても、相当エネルギーロスが生まれます。そもそも石油ピークと同じように、ウランピークがあります。原子力で石油代替は不可能なのです。
核燃料サイクルは、使用済燃料を繰り返し使うので、資源的には大丈夫といわれています。これもEPRで考えるべきと主張しておりましたが、電力中央研究所の天野治さんは、高速増殖炉のEPRを37・5と算出しました。多分世界で初めてでしょう。彼はこの値を算出するに当たって、放射性廃棄物の管理など、関連するエネルギー投下を考慮に入れたと述べています。
今後このような原子力についての数値を巡って、科学的に議論する必要があると思います。高速増殖炉を使えば無限のエネルギーを得ることが可能だという人は、この数値をどう受け取るかです。
私は原子力関係者に講演していますが、「原子力のEPRはどんなに低く見積もっても500以下ということはない」という人もいます。しかし天野さんの計算によると、原子力のEPRは電気を得る場合が17・4で、熱エネルギーを得る場合は45・23です。
ちなみに、ウランの寿命については60年説があります。大学の先生にも、高速増殖炉を使えばウランの寿命は60倍なので何千年分もあると思っている方がいます。
その意味でも、天野さんのような科学的データに基づいた議論が開始されたことは大いに評価できると思います。
ハバートは成長の限界を知っていた
――ハバートカーブを提起したハバートは、成長限界論に行き着いたようですね。
◆ハバートは、世界で最も有名な地球物理学者=geophysistとして評価されています。
ハバートはいち早くピークオイルを指摘しました。当時は原子力が脚光を浴びた時代ですから、彼も一時原子力に夢を託してます。しかし、放射性廃棄物など様々な問題があり、ウラン資源も無限ではないと、最終的には原子力だけに人類の将来を委ねるわけにはいかないという意見に変わりました。指数関数的な成長に、疑問を投げかけています。
ハバートは1903年生まれで、1989年に86才で亡くなりました。彼は1929年に起きた世界経済恐慌から、資源と経済への洞察を深めました。ハバートは、本質的に異なる二つの世界に注目しています。
一つは、物理的に存在するエネルギー・物質の世界で、もう一つはマネー・経済の世界です。前者には実態がありますが、マネーは「虚の世界」です。
このマネーの世界が崩壊したのが1929年の世界恐慌ですが、その兆候はそれ以前に出ていた、というのです。それまで年率7%で拡大していたエネルギー・粗鋼生産が1910年頃、2%に急落していたのです。不況とは需要が落ち込むこと、過剰生産がその背景にあるのですが、その結果として生産は減少し経済成長は低迷します。当然雇用も落ち込みます。
ご存知のように、この世界恐慌を救ったのが国の大規模な財政支出でした。これがケインズ経済学です。つまり政府が大規模な公共事業を行い、需要を創出することで恐慌を回避しようとしたのです。当時は地球の資源はまだ豊富で、政府の財政出動に意味がありました。ケインズの主張は正しかったのです。そして事実、経済恐慌は収まりました。
しかし今は違う、地球資源の有限性が、石油ピークとして現れています。石油の価格は1970年代の石油ショックの時と違い高値に張り付いています。ケインズ政策はもう時代遅れなのですが、日本は無駄な公共事業で、国や地方自治体が1000兆円に達する借金の山をつくりました。大きな誤りです。
「地球は有限で、自然にも限りがある」のは当たり前なのです。この当たり前が一番大切なのですが社会はそうは思わない。そこで私は昨年、「もったない学会」を設立しました。
「もったいない学会」のキーワードは「石油ピークは農業ピーク、そして文明ピーク」です。主張は実に単純です。エネルギー問題、地球環境問題、温暖化であろうと、現在のような浪費生活をそのままにしては解決できない。先ず無駄をしないことです。これは要らないものを作らない、買わない、捨てないであって、生活水準を落とす耐乏生活を強いるものではありません。
会を立ち上げる際に、いまある学会を改革する方が良いのでは、という人もいましたが、いまの多くの学会は細分化しています。しかも、学会ほど「分かったつもり」の人たちが多いものです。残念ながらメディアやテレビに出る人たちは、「分かったつもり」の有名人がほとんどです。
ある新聞社の科学担当の記者が、「『もったいない』と看板がついたNPOは沢山ありますが、どこが一番違うのですか?」と尋ねました。それに私は「石油ピークを主題にする」と答えました。石油ピーク論は有限地球観ですから、当然脱浪費につながります。
技術の進歩は資源消費拡大をもたらす
――「もったいない」は江戸のリサイクル社会につながりますね。
◆江戸時代に鎖国が可能だったのは、自給自足の社会だったからです。今の日本は鎖国なんかできません。
江戸時代は、自給自足のために徹底的にリサイクルをしました。そもそもメソポタミア・エジプト・インダス・黄河の世界4大文明のうち、人間の排泄物を畑に戻したのはアジアの黄河文明だけです。他の文明は全部捨てるだけでした。
パリには昔に造られた立派な下水道があります。以前は排泄物は窓から捨てていました。それに比して江戸時代は排泄物を農民は買って畑に鋤き込んでいたのです。
J・ダイアモンドの『文明崩壊』(『Collapse』)は大変興味深い本です。彼はイースター島の崩壊など、様々な文明の比較をしています。自然を破壊し、森を破壊し、土壌を破壊した人々は、ほとんど例外なく最後に人間を喰べたようです。サバイバルの原点は食糧ということで、決して車ではありません。
ダイアモンドは、江戸時代は理想的な社会だったと評価しています。江戸は当時100万人の世界最大の都市でした、徳川幕府は森を大切にして計画的に植林を行っていました。
江戸時代のエリートはとても優れていたようです。明治維新以降、とりわけ1905年に日露戦争で勝ってから、日本はおかしくなったようです。バルチック艦隊に勝ったことを過信し、「脱亜入欧」「富国強兵」へと踏み込んでしまった、そして太平洋戦争が終わった1945年までを「40年の魔の季節」だったと、司馬遼太郎は『この国のかたち』でいっています。
彼は「日本人は思想は外から来るものと思っている」と厳しいのです。自分で創造しない、外からの思想の受け売りだから、自分で変えたり良くしたりできない、私は今日本が新たな「魔の40年」にあると思っています。
欧米の物質文明、西洋文明には二つの柱があります。一つは機械論的な宇宙観・自然観で、デカルトの物心二元論やニュートン力学に象徴されます。もう一つはアダム・スミスの『富国論』に象徴されるマーケット、市場中心主義です。
自然との有機的なつながりを尊重し、市場ではなく共同体を重視する本来の日本文化と、米英アングロサクソンの物質文明とは根本的に違うのです。例えば日本には里山文化がありました。池には鯉を、山には栗を植え、庭で鶏を飼う立体農業です。自然とのつながりを重視した日本の伝統的な暮らしや文化こそ見直していくべきだと思います。
――経済成長と環境保護は両立できないわけですね。
◆それは永遠に解決しないテーマですね。文明は基本的に飽くことを知らない、満足することを知らないのです。昔から人類は経済と環境を両立させることは出来なかったのです。
ジェヴォンズのパラドックスをご存知ですか? ジェヴォンズは19世紀のエコノミストで、『Coal Question』という本を書いています。「石炭問題」で、有限石炭論を展開しています。ジェヴォンズは、地球は有限、資源は有限と最初に指摘した経済学者です。
イギリスは産業革命時代に大量に石炭を使いました。掘るほどに炭坑の深度は深くなり、蒸気機関、ポンプなどを使わなければ採掘できない。石炭のEPRが低下して石炭減耗、イギリス国内での石炭ピークが起こりました。
しかし石炭の代替エネルギーとして石油が登場し、ジェヴォンズが提唱した有限資源論の経済学は、日の目を見ることはありませんでした。
ですがジェヴォンズは、大変な哲学者だったのです。ジェヴォンズ・パラドックスは、「省エネルギーなど、技術の進歩はむしろエネルギー消費を増やす」という意味です。日本の経済学の授業は、ジェヴォンズ・パラドックスすら教えない。
省エネのテレビやハイブリッド車を開発しても、台数を増やしては意味がありません。残念ながら、現実には省エネ、環境対策技術はエネルギー消費を増やしています。
大学は国民のための研究・教育を
――本気で脱浪費に取り組まないと、取り返しのつかないことになりますね。
◆石油は可採埋蔵量2兆バレルのうち、既に半分を消費しました。まだ半分残っているのではなく、残っている半分は条件がわるくEPRはどんどん低下していくでしょう。
ところで2兆バレルの石油の体積は、富士山を升として測ると何杯ぐらいになるか分かりますか?
――1000杯ぐらいですか?
◆とんでもありません。2兆バレルの石油は、富士山の体積のたった2割くらいです。「文明の生き血」は、それぐらい有限なのです。世界では今、年間300億バレルの石油を消費していますが、この量は北海油田の全埋蔵量より多いのです。その北海油田はもう生産ピークを過ぎました。
70を成長率で割ると、規模が倍になるのに要する年数が分かります。石油消費量は年率7%ぐらいで増えていますから、70÷7=10年で倍になっています。これが幾何級数的な成長の恐ろしさです。
こうした根本的な問題と向き合わなければ、いくら省エネ技術、環境技術を謳っても駄目です。日本は世界1の省エネ技術を持っていますが、2005年の日本のエネルギー消費の速報値は過去最高です。当然二酸化炭素の排出量も過去最高です。
日本の省エネ技術、環境技術を中国など海外に売り込めば、日本はさらに経済発展できると主張する人もいますが、とんでもない幻想だと思います。日本は、鋸や鉋を作る「部分の技術」は世界一流ですが、それが逆に最大の弱点なのです。日本人は考え抜くことをしないので総合的な戦略が立たない、そして安易に個々の技術に頼るのです。しかし、技術によって地球の有限性など克服はできません。
文明は足ることを知らない、金持ちや欲張りはもっと欲しがる、だから社会には格差が広がっています。グローバリゼーションは、金持ちがより金持ちになる仕組み、アメリカは大金持ち中心の国ですから、彼らは意図的に金持ちが得する政策を行います。ところが日本の金持ちは、国民のためだと善意を装いながら、自分のことしか考えていないのでは。このまま日本は駄目になるのでしょうか。
だからこそ私は、大学の存在が本当に重要だと思います。企業は本来金儲けのためにある、だからそれを止めろと言いません。しかし大学は、人類の未来、日本の将来、文明のあり方など根本的な考え、社会に問いかけをする所です。
志の高い若い人たちを育てていくことで、文明の崩壊を回避できればと思います。
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(2006年2月15日発行 『SENKI』 1237号4面から)
http://www.bund.org/interview/20070215-1.htm
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