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デザインとしての環境論 (6)
【地球が温暖化したら、北極と南極の氷が溶けて海水面が上がるというのは「まちがい」である】
地球温暖化についての基礎的知識の講義は終わった。これから「現代の気候」について本格的な話に入る。ただ、すでに私のホームページに地球温暖化と京都議定書については詳述してあるので、そちらを参考にして貰うことにして、ここでは簡単に本質的なところだけをまとめる。
地球が温暖化すると「北極の氷が溶けて海面が上がる」と信じている人がいる。日本人のほとんどが信じているかも知れない。それは科学的に間違いであり、専門家でそのようなことを言っている人はいない。
物理学にはアルキメデスの原理というのがあり、日本の学校では中学校1年生で教えるとされている。氷が浮いているのは水が氷になった時に軽くなるからで、海水面の上に出ている氷が溶ければ氷全体が縮むので、海水面には影響を及ぼさない。
Archimedes, BC287-BC212
海水には少量の塩が溶けているので、厳密に言えば少し変動するが現在の予測精度の限界より小さい。事実、IPCCという国連の気候変動に関する政府間パネルというところは、定期的な報告の中に北極の氷はほとんど入れていない。アルキメデスの原理だからだ。
次に、南極は「暖かくなると氷が増える可能性の方が高い」というのが、第一感である。南極が暖かくなると南極大陸の周りの海の水蒸気が増えて、それが南極の真ん中に固化するから、氷が増える。原理的にはそうである。
現実には風や気圧などがあるから気象学的に十分に検討しなければならないが、IPCCは平均的には「南極の氷が溶ければ、海水面は下がる方向に行く可能性がある」としている。
日本人が理解していることとは180度違う。この情報化時代に、正式な報告とみんなの理解がこれほど違うことは珍しい。地球温暖化の報道は汚れきっている。
学生のような若い人は社会の利害と少し離れているのだから、事実をそのまま把握する力を持たなければならない。テレビがどういっているからなどに惑わされることなくしっかりと事実を調べ、納得して自分の考えを作っていって欲しい。
残念ながら、現在の日本は武士の魂を持っている人は少なくなった。みんな自分の利害のためには科学に反することもOKである。残念だが仕方がない。
「地球が温暖化したら、北極と南極の氷が溶けて海水面が上がる」というのは「まちがい」である。
まちがいは間違いで、どんなに環境を大切にしようとしていても、間違っていては環境は良くならない。そして、もしこのことが意図的なウソなら、それに怒りを感じるような新鮮な心を持たないと芸術作品は出来ない。
大学で勉強することは、官報に書かれていることではなく、事実を選別して報道するマスコミを教科書にするのでもない。ウソは汚く、真実は綺麗である。芸術家は綺麗なものを求める心を持たなければならない。
【京都議定書は地球温暖化とは無関係である】
地球温暖化に少しは興味のある人は「京都議定書」というのを知っているだろう。1997年に京都で行われた大きな国際会議で、各国が協力して地球温暖化の原因になると考えられている二酸化炭素の削減を決めた会議である。普通には「環境を守るという世界全体の問題で初めて国際的な協力を取り付けた」という高い評価を受けている。
科学的にはやや複雑な問題で、詳細は私のホームページを参考にして欲しいが、京都議定書の内容は簡単で、「二酸化炭素の排出量を削減して地球温暖化を食い止めよう」というものである。
あまり勉強しない大学生がこの議定書に感激し、京都から東京まで自転車でキャンペーン旅行をした。マスコミが好きそうな行動なので、大きく取り上げられたが、若者がこんなことをしてはいけない。社会の利権で汚れている環境問題はもう一つ深く考えなければ大学生ではない。
まず単純に、
「京都議定書を守ると、気温は何℃、下がるのか?」
を計算する。これも簡単である。
1) 地球が温暖化する原因としての温暖化ガスの寄与は60%,
2) 温暖化ガスの内、二酸化炭素の寄与は60%、
3) 世界の国の内、京都議定書に調印した国が出している二酸化炭素の割合は60%、
4) 京都議定書に調印した国の内、批准した国は60%,
5) 京都議定書の平均的削減率は6%
(6並びの京都議定書)
覚えやすい。60,60,60,60,6である。これが全部、かけ算で効果を示すから、6を5回掛けると0.6×0.6×0.6×0.6×0.06=0.00777となる。つまり6を5回かけると7になる。この場合は、
「もし京都議定書を実施しなかったら地球の気温が+1℃上がるとして、京都議定書を実施したら、それが+0.992℃になる。」
ということである。
一体、何のためにこんな事をするのか?という質問をすると、決まって次のような答えが返ってくる。
「国際的な約束をすることが大切なのだ。実際の効果は期待していない。」
これにはトリックのような言い抜けが入っている。京都議定書を守るための政策の最初には、必ず「地球温暖化防止のための」とあるから、実際の効果があるとして政策を進めているのである。
人は誠実でなければならない。特に税金を配る人たちは普通よりさらに誠実であり、言うことに裏があってはいけない。誤解されるのを承知で言い抜けするのは夜道のお誘いぐらいにして貰いたいものである。
また後で講義するが、紙のリサイクルでよく判るように実際に効果のない環境対策をすると、それでみんなが安心して実体はさらに悪くなるということが多い。本当に地球の温暖化を防止しようとするのなら、京都議定書をすぐ廃棄した方が良い。
京都議定書は「精神的条約」にはならない決定的システムがある。それが「排出権取引」である。日本は1990年の二酸化炭素の排出量に対して2010年までに6%を削減すると約束した。でもやる気は無い。
景気を良くし、国内生産量を上げ、エアコンを使って快適な生活をするとどうしても二酸化炭素を削減することが出来ないからだ。そうすると議長国自身が約束を破ることになる。そこで、「排出権取引」という逃げ道を作った。
日本は残念ながら真剣に、京都議定書を守る気持ちが無い。その代わり「環境をお金で買う」という方法を選択する。おそらく日本は2010年頃には1990年に比較して20%程度は二酸化炭素の排出が増えているので、それをロシアから買う。おそらくロシアには日本の税金の2兆円ほどが行くだろう。
このお金は、京都議定書を調印した政治家や官僚が払うのではない。この膨大なお金は国民が払うのである。そして日本人は地球温暖化に何の役にも立てない。ただ、環境を汚しお金で払うだけである。
1989年に結ばれたバーゼル条約において、環境に関する基本的、精神的約束が取り交わされた。それは、
「お金持ちの国がお金があるからと言って、その国で出した廃棄物を貧乏な国に押しつけてはいけない。その国で出た廃棄物はその国で処理する」
ということである。
しかし現実には日本は、ペットボトルの廃棄物を中国に、廃家電製品を東南アジアに、使い古した衣服をインドネシアに持って行っており、そして二酸化炭素をロシアに持って行くことになる。それで「環境に優しい生活をしている日本人」なのだろうか?
私はなんとかして生産を抑えたり、二酸化炭素の排出を減らしたりして生活できる方法を研究している。そうすると「先生は京都議定書に反対しているのに、なぜ二酸化炭素の削減を研究しているのですか?」と聞かれるが、私は条約を結びたいのではなく、地球環境を守りたいだけである。
環境を守ろうとすると「環境保護に反対している」と言われる時代でもある。
つづく
名古屋大学 武田邦彦
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