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今週の内外政治経済金融情勢の展望
内外の株式市場が連鎖株価下落から脱して小康状態を取り戻した。NYダウは1月22、23日に一時的に11,600ドル台にまで下落したが、反発に転じた。NYダウは2006年10月3日に、それまでの史上最高値である2000年1月14日の11,722ドルを上回ったのち、この水準を下回らずに昨年10月9日に14,164ドルまで上昇した。その後、急落して1月22、23日に11,600ドル台に下落したが、2月1日には12,743ドルまで回復した。
日経平均株価は2005年9月の郵政民営化選挙を契機に、それまでの10,000-12,500円のレンジを上方に突破した。2007年7月9日には18,261円まで上昇したが、10月以降、米国株価に連動して下落し、1月22日に12,573円まで下落したのちに反発に転じた。2月4日には、13,859円まで反発した。12,500円が当面の下値抵抗ラインになると考えられる。
米国の問題の原点は不動産価格下落にある。不動産価格が下落し、信用力の低い借り手に対する住宅ローンであるサブプライムローンが焦げ付いた。サブプライムローンはハイリスク・ハイリターン金融商品に組み替えられ、多くの大手金融機関の傘下にあるファンドが保有した。サブプライムローンの劣化に伴って、金融商品の時価が急落し、大手金融機関の巨額損失が拡大している。
他方、不動産価格下落を背景に米国の住宅投資が激減し、米国経済成長率が急低下している。1月30日に発表された昨年10-12月期の実質GDP成長率は年率0.6%と7-9月期の年率4.9%成長から急低下した。2月1日に発表された1月雇用統計では非農業部門の雇用者が1.7万人減少した。雇用者数の減少は4年半ぶりである。
不動産価格下落、株価下落、成長率低下、雇用悪化、住宅投資減少などを背景に個人消費の減少が懸念されている。個人消費が減少に転じれば、米国経済がマイナス成長に陥ることも考えられる。米国景気後退懸念が浮上している。
金融市場はサブプライムローン問題が「モノライン」と呼ばれる金融保証会社の経営不安につながることを警戒している。米国住宅ローン最大手のカントリーワイド・ファイナンシャルは1月29日、同社が2007年通期に創業以来初の年間赤字に転落したことを明らかにした。また、米国格付け会社フィッチ・レーティングスは1月30日、モノライン大手FGICの格付けをトリプルAからダブルAに引き下げた。
不動段価格下落−景気悪化−金融不安の悪循環が米国で作動している。1990年台以降の日本は政策対応の拙劣さによって、この悪循環を14年間も作動さてしまった。1996年と2000年に一時的に悪循環が断ち切られ、経済回復の端緒が開かれたが、97年の橋本政権と2001年の小泉政権が経済悪化を推進する超緊縮経済政策を実施して、経済を暗転させてしまった。2001年は橋本元首相が自らの轍を踏まぬよう進言したが、小泉政権は「改革」のかけ声の下に緊縮策を強行し、日本経済を恐慌寸前の状況に追い込んだ。
米国は日本の失敗から多くを学んでおり、今回の局面では迅速な対応を示している。財政政策、金融政策、金融不安回避策のすべてを総動員する必要がある。FRBは1月22日と1月30日にFFレートをそれぞれ0.75%、0.5%幅で引き下げた。1月22日の利下げは臨時FOMCを開催して決定された。ブッシュ政権は1500億ドル(約16兆円)の景気対策を決定した。さらに、モノライン救済策が検討されている。
財政金融政策に加えて金融不安回避策が併せて提示されたことで、世界的な株価下落の連鎖がとりあえず断ち切られたが、先行き不安は残存している。FRBの対応、ブッシュ政権の対応には工夫の余地が多くあるが、迅速に政策を打ち出したために、事態悪化の加速は遮断された。
日本の株価も米国市場に連動して反発した。日本企業の株価は各種指標から判断して著しく割安な水準に置かれている。米国市場に連動して株価が反発することは順当だが、日本の経済政策が日本経済悪化のリスクに対してまったくの無策である点が懸念材料である。
2月9日に東京でG7(7ヵ国財務相・中央銀行総裁会議)が開催される。米国のサブプライムローン問題に端を発するグローバルな金融市場の不安定性に対して、具体的な対応が示されるかが注目される。
IMFは各国に対して積極的な財政政策の活用を提言しているが、日本政府は否定的な見解を示している。福田政権内には緊縮財政と金融緩和策の組み合わせを主張する議員が多く存在するが、金融政策の対応余地は限られている。緊縮財政を強行して経済悪化を招くと税収が減少して財政赤字は拡大してしまう。97年の橋本政権、2001年の小泉政権が典型的な失敗を演じている。経済成長維持を重視することが何よりも重要だが、福田政権は緊縮財政優先に軸足を置いている。
米国が財政金融政策と金融市場安定化策を効果的に総動員し、金融市場の安定化と経済心理の改善に成功すれば、グローバルに金融市場は安定性を回復できると考えられる。米国政策当局の対応が最大の注目点である。
日本市場のゆくえは米国市場、米国経済の動向と国内経済政策対応の組み合わせによって左右される。日本の株価水準が極めて低位にあることから、経済の安定性が維持される場合には、株価大幅上昇の可能性が存在することを忘れてはならない。
ガソリン税の暫定税率の期間満了に伴う暫定期間延長問題が国会の最大の焦点だったが、与党がつなぎ法案を撤回したことで、混乱は一時的に回避された。与党は小泉政権、安倍政権の時代に、道路特定財源が過剰になっていることを理由に一般財源化を強く主張していた。道路整備に対しても、整備総延長距離を短縮すべきとも主張していた。
ところが、福田政権の下では一転して、暫定税率と道路特定財源の維持を強く主張している。道路財源が過剰になっているなら、暫定税率は廃止すべきであるし、「改革」路線を維持すると言うのなら、一般財源化を主張すべきである。「朝令暮改」の一貫性の無い主張を政府、与党が展開していることに対して、メディアは厳しい批判を示すべきだ。
だが、現実にはテレビ、新聞のマスメディアが政府の翼賛勢力として世論誘導に専心している。メディアの堕落が日本の民主主義を危機に陥れている主犯である。権力迎合のえせ言論人が公共電波を占拠するなかで、正論を正確に国民に伝えることは極めて困難になっている。
米国と対米隷属の清和会政権は、手段を問わず、次期総選挙での政権交代阻止に総力をあげている。突然の殺虫剤混入問題も世論の関心を重要問題からそらす役割を担っているようにも見える。
民主党は次期総選挙での政権交代を実現し、官僚機構が支配する中央集権、官僚主権の現在の行政構造を根本から変革しなければならない。自民党との大連立は現在の構造を永遠に維持することにしか貢献しない。大連立は民主党の自死行為である。
「改革」しなければならない構造とは、「財務省」が支配する日本の官僚主権構造なのである。財務省利権を根絶することが日本の構造改革の第一歩になる。日銀総裁人事で民主党は武藤敏郎副総裁の総裁昇格を絶対に容認してはならない。武藤氏の総裁昇格が決定されることは、民主党と自民党の大連立構想が残存していることの証しと考えられる。民主党がこの方向に進むのであれば、日本の構造改革実現は永遠の未来に先送りされることになるだろう。
2008年2月5日
スリーネーションズリサーチ株式会社
植草一秀
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