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http://www.nikkei-bookdirect.com/science/page/magazine/0711/200711_082.html
2005年6月に米国食品医薬品局(FDA)は初の“特定人種用医薬”バイディル(BiDil)を承認した。この薬は,慢性心不全(うっ血性心不全)の治療薬だが,白人に比べてアフリカ系アメリカ人(黒人)に特に効果があるという臨床試験結果から,処方は黒人に限定された。バイディルは特定の人種によく効くようにデザインされた新しい医薬であり,医療サービスの恩恵を受けていない人々の健康状態を改善するものとして歓迎された。
しかし,この新薬誕生の経緯を詳しく見ていくと,こうした表向きの姿とは違ったバイディルの実体が見えてくる。まず,バイディルはヒドララジンと硝酸イソソルビドという2つのジェネリック薬(特許が切れた先発薬と同じ成分の安価な薬,後発医薬品)を1つにした合剤で,新薬とは言い難い。ヒドララジンと硝酸イソソルビドは心不全の治療薬として人種を問わず10年以上にわたって使われてきた。
さらに重要なのは,他の人種と比べてバイディルがアフリカ系アメリカ人によく効くという確かな証拠がないことだ。FDAが承認の根拠としている試験に参加した黒人患者はすべて自己申告で,バイディル服用後の健康状態について他の民族グループや人種グループとの比較も行っていない。
なぜ,バイディルは特定人種用医薬,新時代の薬のさきがけと呼ばれるようになったのか。バイディル開発の背景には,臨床試験データに対する評価や医薬の規制,特許など,さまざまな問題がありそうだ。
著者
Jonathan Kahn
ミネソタ州セントポールにあるハムライン大学法科大学院の法学准教授。コーネル大学でアメリカ史のPh.D.を,カリフォルニア大学バークレー校ボールト・ホール法科大学院で法学博士の学位を取得。現在は,法学と人種および遺伝学のかかわりに的を絞って研究をしている。米国立ヒトゲノム研究所と米国立人文基金から研究助成金を得ている。ミネソタ大学とハーバード大学で教鞭をとったこともある。アカデミズムの世界に入る前は,ワシントンのホーガン&ハートソン法律事務所で弁護士をしていた。
原題名
Race in the Bottle(SCIENTIFIC AMERICAN August 2007)