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「九条の会」の呼びかけ人の一人に、「保守」と言われる梅原猛さんがおられる。ただし集会などに参加しないなど、表だった活動は一切しておられないご様子。毎日新聞が他の呼びかけ人8氏と色合いを異にする梅原さんにインタビュー。どうして「九条の会」の呼びかけ人になったのか梅原さんが大いに語っている。
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http://mainichi.jp/select/wadai/heiwa/talk/news/20080428ddf012070018000c.html
今、平和を語る:哲学者・梅原猛さん(毎日新聞)
◇真の道徳教育が必要
リベラル保守で知られる哲学者の梅原猛さん(83)は「最後の戦中派」として、腹の底から戦争を憎み、その一念から平和憲法を守る「九条の会」の呼びかけ人になった。愛国心教育に反対し、今こそ真の道徳教育が必要と説く、梅原さんに登場願った。<聞き手・広岩近広>
◇戦争を憎み、人類理想の憲法守る
◇19世紀的国家主義が復活しようとしている。「九条の会」参加を幅広く呼びかけ国民運動に。核戦争をなくし地球環境改善を最優先すべし。賢治、漱石、太宰…文学こそが最良の教科書だ。
−−大江健三郎さん、井上ひさしさんらと「九条の会」の呼びかけ人になられて間もなく4年になります。マルクス主義による国家体制を批判し、その崩壊を予言するなど、保守主義を通されてきた梅原さんが「九条の会」に参加されたのは。
梅原 私は一貫して、社会主義には賛成してこなかったが、平和憲法は守らなければならない、そのうえで民主主義国家をつくっていくべきだと、ずっと主張してきました。私は憲法9条の支持者です。保守政党も憲法が成立したときは、そういう思想だった。ところが最近になって、憲法はアメリカから強要されたもので、日本の伝統が謳(うた)われていないなどという批判もあって、改憲の動きが出てきた。私に言わせたら、改憲派は19世紀の国家主義の原理を信じていて、日本を再び19世紀並みの国家主義を目指す国にしようとしているのではないか、と非常に危惧(きぐ)します。私は戦争中は国家主義を、戦後はマルクス主義を強く批判してきました。マルクス主義はつぶれたものの、またぞろ国家主義が復活しようとしているように思われてなりません。
−−そんな状況もあって「九条の会」が生まれました。
梅原 どちらかといえば、社会主義者といわれた方々が多いですね。しかし私は、「9条を守る」「平和憲法を守る」という精神において、それらの人に劣りません。だから自分の信念で、9人の呼びかけ人の1人になったのです。ただ、もっと幅広い層の人たちに呼びかけて、平和を守る国民運動にしていく必要があると思っています。
−−日本を「普通の国」にするために、改憲が必要だとの意見があります。
梅原 普通の国というのは、国家を絶対化する19世紀的国家主義の理念に従った国です。今は単なる国家主義では困ります。なぜなら核戦争や地球環境の問題があるからです。21世紀以後の世界は核戦争を避け、地球環境問題を解決することを最優先しなくてはいけない。それは国家を絶対とする憲法では不可能ではないですか。現在の憲法にこそ新しい人類の理想が盛られており、だから私は改憲に反対なのです。
−−少し補足説明を。
梅原 地球環境問題という国家を超えた課題に対処していくには、カントが「永遠の平和のために」で提唱した「国家間の連帯によって平和を築く」理想に立たねばなりません。憲法にはカントの永久平和論に通じる恒久平和の理想、つまり人類の未来への理想が語られています。
−−改憲の前に教育基本法が改正され、先月に告示された小中学校の学習指導要領では「愛国心教育」を明記しています。
梅原 愛国心は教えられるものではありません。真の道徳教育を通じて自然と育っていくものです。ドストエフスキーの小説でしたか、愛国者という者は国という観念のみを愛するだけで、国民を少しも愛さない者だとあります。国民を愛せない権力者に黙って従えというのが愛国心教育であれば、私は断固として反対ですね。
−−最初にありきの道徳教育はいかにして。
梅原 私は文学を通して教えるのがいちばんいいと思う。生きとし生けるものの命がいかに大切かは宮沢賢治の童話「よだかの星」が語り、ウソをついてはいけないと語るのは夏目漱石の「坊っちゃん」です。約束を守る大切さは太宰治の「走れメロス」が語ってくれます。こうした文学による道徳教育こそが大切で、教育勅語に帰れというのはとんでもない。
−−道徳教育は子どもより、むしろ大人のほうが必要かもしれません。
梅原 だいたい日本の政治家に愛国心があるような人は、ほとんどいないでしょう。理想が低くなって、私利私欲にはしっている。平気でウソをつく政治家も多い。
−−かつての日本の道徳教育はいかがでしたか。
梅原 日本人は長い間、仏教や儒教や神道の思想を心の糧にしてきた。多神教の神仏習合ですね。生きとし生けるものを殺さない、平等でなければならない、これが基本です。だから日本の伝統は戦争の礼賛ではなく、平和を愛することなのです。平安時代は250年、徳川時代は300年も平和が続きました。こんな国は日本だけです。
ところが明治政府は富国強兵を掲げて、国家神道という一神教にしてしまった。廃仏毀釈(きしゃく)です。このため平和と平等が奪われました。私が「神殺し」と呼ぶ廃仏毀釈は教育勅語と結びつき、国家主義を強めていった。その結果、とんでもない戦争をして、おびただしい数の人間が死んだではありませんか。
−−名古屋大空襲(1944年12月13日)を体験されたのですね。
梅原 旧制八高生のときです。三菱発動機に勤労奉仕に行っていたのですが、私が入るはずの防空壕(ごう)に爆弾が直撃して大勢の中学生が座ったまま死にました。そして死骸(しがい)が吹き飛ばされて屋根の鉄骨の上に引っかかっているのを見て、深く戦争を憎みました。私は、原爆を落とした者と、特攻というおぞましい死の道具を考えた者を許すことができない。
−−戦争をしない、平和を愛する日本の伝統に戻るためには。
梅原 真の道徳教育が必要です。道徳なしに国家の品格はありません。政治家は愛国心を口にする前に、日本の文化のすばらしさを勉強してほしい。伝統思想に従って、世界の平和と人類の繁栄に貢献するように努めてほしい。私は95歳まで生きて、親鸞と世阿弥というすばらしい日本人の人生を明らかにするとともに、これからの人類の生き方を説く哲学を作りたいと思っています。(専門編集委員)
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毎月最終月曜日の夕刊に掲載、次回は5月26日の予定です。
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■人物略歴
◇うめはら・たけし
1925年、仙台市生まれ。京都大文学部哲学科卒業。立命館大教授、京都市立芸術大学長、国際日本文化研究センター初代所長を経て、現在は顧問。日本ペンクラブ会長を務め、1999年に文化勲章を受章。「隠された十字架」で毎日出版文化賞、「水底の歌」で大佛次郎賞をそれぞれ受賞。近著に「神と怨霊」(文芸春秋)。「梅原猛著作集」(小学館)など著書多数。
毎日新聞 2008年4月28日 大阪夕刊