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【試される憲法】経済アナリスト森永卓郎さん 全体主義的な空気、危険【東京新聞】
今の日本は、満州事変前の一九二〇年代後半に似ている。大正バブル後、金融恐慌の影響による長引く不況に苦しんでいた国民は、緊縮財政を断行した浜口雄幸首相を熱狂的に支持しました。
軍事費の大幅削減などを行った浜口は、ドラマや小説では「英雄」のように描かれますが、経済学的には政策を完全に誤ったリーダーでした。行財政改革をして歳出カットをする一方で金融を思い切って引き締めた。デフレの中で財政と金融を同時に引き締めた政策は、とんでもない失政だったのです。
その結果、激烈なデフレが起きて日本中に失業者があふれました。こうした中で総選挙に臨んだ浜口は叫んだ。「明日伸びんがために、今日は縮むのであります」。小泉純一郎前首相の「改革なくして、成長なし」とそっくりです。浜口率いる民政党は選挙に圧勝しました。
苦しい時ほど強いリーダーが求められる。「ライオン宰相」と呼ばれ、不正を許さない浜口に国民は感動しました。浜口は時代の空気をつくったのだと思う。浜口は銃弾に倒れましたが、国民の熱狂から生み出された全体主義の雰囲気は残った。その空気に乗って軍部が暴走してゆくのです。
二〇〇五年九月の総選挙で、小泉さんは郵政民営化を訴え、圧勝しました。今の自民党は小泉さんがつくった空気に支配されている。その空気を引き継いだのが安倍晋三首相だと思う。
小泉さんは自分自身と郵政民営化しか興味がなかった。安倍さんは違う。自分の任期中に憲法を変えたいと本当に思っている。小泉さんが残した空気と、安倍さんの思想が結びついたらどうなるのか。浜口がつくった熱狂の後、帝国陸軍が突っ走ったあの時代を思い起こしてしまう。
小泉内閣が進めた構造改革は、日本経済を米国型の市場原理主体に転換することを目指しました。長い間、日本社会の長所だった平等主義は破壊され、所得の二極分化という弱肉強食型の社会になりつつある。一部の勝ち組だけがとんでもない所得を額に汗せず稼げるようになり、一生懸命まじめに努力して働いている大部分の人たちがずるずる沈んでいく社会です。
構造改革の支持者のほとんどは、憲法九条改定に賛成です。従来の日本型の経済、社会を守ろうという人たちは護憲派が多いのですが、「抵抗勢力」「時代錯誤」などのレッテルを張られてしまう。
あるテレビ番組で「非武装で家族の命が守れるのか。先制攻撃が必要なんだ」と言ったコメンテーターに、「人を殺しに行くぐらいなら、殺された方がましです」と言ったことがあります。それがオンエアされると、会社や自宅に「お前こそ死ね」という大量のファクスや電話の嵐です。流れに逆らうことを許さない全体主義的な空気のまん延は危険です。
もりなが・たくろう 1957年東京生まれ。東大経済学部卒。日本経済研究センター、経済企画庁総合計画局、三和総合研究所などを経て獨協大経済学部教授。ミニカーなどのコレクターとしても有名。「萌(も)え経済学」など著書多数。49歳。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/feature/consti/news/200705/CK2007050202013120.html