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大量監視社会ー山本節子著
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投稿者 真理を愛する者 日時 2008 年 5 月 28 日 15:53:36: NygxPubK8Q35E
 

 
 http://www.tsukiji-shokan.co.jp/mokuroku/ISBN978-4-8067-1361-6.html

>>まえがき

2006年12月3日、中国にいた私は、日本で起きたある人物の「訃報」に衝撃を受けた。亡くなったのは大阪高裁第7民事部総括判事の竹中省吾裁判官。享年64歳、退官を翌年に控えていた彼は、宝塚市の自宅のパソコンラックに首をつった状態で発見された。警察は彼の死を「自殺」と発表したが、それを疑う市民少なくないはずだ。

事件の情報を時系列的に整理すると、死亡時刻から警察発表まで、かなり時間が経過している。またどの記事もほぼ同じ内容で、報道各社が裏をとりに走った様子はない。完全に一本化された情報には、「口裏合わせ」「言論統制」が感じられる。

竹中判事はそのわずか3日前の11月30日、住基ネットの切断を望む市民らの「住基ネット訴訟」の判決で、「住民同意のない適用は違憲」とする画期的な判断を下したばかりだ。国民総背番号制に反対する人々にとっては、待ち望んでいた勇気ある判決だった。住基ネットを地方自治法違反の角度から訴え、最高裁の判断を待っていた筆者にとっても、この判決は大きかった。竹中判事は2000年の「尼崎公害訴訟」でも、国に賠償を命じ、汚染物質の排出差し止めを認めている。今回も、市民は彼の判断を信じるだろう。

しかし、国にとっては、住基ネットの存続を不可能にしかねない危険な判決だたことは間違いない。今回の判決力づけられて、住基ネット違憲判決が多発しかねなかったからだ。その彼の突然の死は、日本が後戻りできないような危険な方向にひた走っていることを告げている。2007年1月、築地書館の土井二郎氏にあてた年賀メールにそう書いたところ、彼は仰天するような情報をつけて返信してくれた。「政府が日本国民のパスポート管理を、アメリカのアクセンチュアという会社に丸投げして進めようとしている」というのだ。

アクセンチュアといえばエンロン事件で悪名高いアンダーセンコンサルティング社のスピンオフ企業のはず。その企業が法務省の事業を落札したということは、筆者のそれまでの「推論」-住基ネットはアメリカの国家情報戦略の一部ではないか-を裏付けることになる。ぞっとする思いで調べたところ、情報は真実だった。パスポート管理は法務省、住基ネットは総務省と、管轄は違うが、情報はインターネットと電子政府によって共有可能だ。「電子政府」は、最初から情報をアメリカ、CIAやNSAと共有するのを前提とした法設計であるのはもう疑う余地はなかった。筆者は、本人訴訟をもとに、住基ネットを根本から問い直す本を書き始めていたが、土井さんと相談し、「総背番号」「国民監視」「情報収集」などの面から、日米の情報戦略をとらえる内容に変えることにした。今の日本には、入管や高速道路だけでなく、あらゆるところに監視カメラが設置され、国や企業がその情報を瞬時に解析できるような体制が整えられている。たとえば、インターネット書店で本を買うと、以後同じような傾向の「お勧め本」(リコメンデーション)が届く。市民が知らないうちに、購買行動が記録され・分析されているのだ。便利な反面、薄気味悪いと思うのは、このシステムが個人の思想傾向、嗜好を把握・分析するのにも役に立つのが想像できるからだ。
行政による情報収集の深刻さは企業の比ではない。それは強制力を伴って、直接、市民の自由をしばる。個人の情報把握は、1人ずつ違うコード(ユニークコード)さえあれば、ごく簡単で、政府は住基ネットと戸籍法を通じて9割以上の日本人の情報を把握し、それを企業と共有している。このような体制を導入するにあたっては、最低限行政が保有する個人情報をチェックし、ご情報を訂正する権利を市民に保証しなければならない。間違った情報入力によって、個人が社会的不公正をこうむりかねないからだ。しかし政府はそのような防御システムを入れるどころか、「監視は善」というイメージを刷り込み、市民が監視に無感覚、無警戒になるように仕向けている。私たちの住んでいる社会は、考えられないほどアンバランスな情報社会だ。

インターネットによる情報収集は、登録-認証-監視-分析という形で行なわれるが、本書では、これを具体的なシステムや政策にからめて、「認証」「インフラ」「監視」「登録」「切断」という章にまとめた。一見、無関係に見えるそれぞれの話題-RFID、DNA銀行、Nシステム、GPS衛星-は、いずれも、行政の衣をまとったビジネスであり、インターネットとウェブを通じた企業利益がからんでいるという点で共通している。インターネットはこれまでの縦割り社会を解体し、産業界と学会、政府などを結びつけ、国境をも消して、全く新たな社会構造を作り上げつつある。その結果、誕生しているのは、情報を統制する上層と、統制される下層という大きな二層構造だが、下層におかれた市民は、いわばインターネットによるこのような構造変化-社会革命と言ってもいい-に気づきにくい。インターネットは、一方で、市民同士を直接結びつけ、本当に知りたい情報を共有するための非常に貴重なツールでもある。それを実証するために、本書は全資料をインターネット経由で入手した。いずれも今後さらなる研究・追跡が必要な主題ばかりであり、跡づけることができるように、全ソースを脚注につけた。もっとも、筆者の非才による誤解もありうることは、あらかじめお断りしておかなけらばならない。この点はぜひ識者の指摘・指導を待ちたい。紙面の都合で、アメリカと日本しか例をあげられず、そのほか、人権問題や国際組織、細かい法的な問題などについても省略せざるを得なかった。

一貫して行政問題を追及してきた著者は、いつも問題の根源が歴史にあるような気がしてきたが、ついに中国留学を決意し、2006年2月にスーツケース一つで南京に赴いた。半年の中国語学習の後、幸い南京大学の史学科に入学が許され、大学院生として近・現代史を学んでいる。ほとんど言葉ができない中年留学生にとって、初めて知る隣国の近・現代史は驚きそのもので、毎日新たな知識に目を開かれる思いがしている。そんな授業の合間を縫って取り組んだこの本作りは、正直、非常につらかった。推測の正しさを喜んでいたのは始めのうちだけで、すぐに、先が見とおせない、深い闇が広がっているような思いにとらわれるようになった。IT情報は、エントロピーの法則に従っている。ネット上に流出した情報は決してもとに戻せず、クモの巣(ウェブ)のように際限なく拡大し続け、決してコントロールできない。政府による情報収集は情報統制の裏返しであり、その行き着く先には全体主義と恐怖政治がまちかまえている。人は恐怖から逃れるために、思考をやめるだろう。では「監視社会」をどう解体したらいいのか?

個人では何もできない。しかし、どんな社会問題の解決も、まず「知ること」から始まる。筆者は、社会問題を本当に解決する力は、為政者や支配者ではなく、一般市民にあると信じている。したがって、今、筆者にできるのは、現状をなるべく正しく知らせ、構造の底流にある「利権」に目を向けさせることしかない。企業関係者も、官僚も市民であることは変わりないから、彼らに問題の解決をゆだねよう。そして、事が起きれば-これまでと同じように-筆者もまた闘いに立ち上がろう。本書では触れる紙面はなかったが、監視システムを地域レベルで拒否した自治体はけっこう多く存在する。

本書を完成させられたのは、ひとえにこうした思いを共有する多くの人びとの励ましによることをここに記して感謝したい。>>

 


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