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[CNET Japan] IT業界はコンテンツを無料で騙し取っていないか--著作権問題の奥にあるもの
2008年03月26日00時44分
写真:CNET Japan YouTubeやニコニコ動画などの動画共有サイトに人気が集まる中、改めて動画を中心とした著作権制度の問題が注目を集めている。関係者が納得できる形で、著作物がネット上に流通するためには、どのような課題をクリアしていくべきなのか。この問題について有識者が議論するシンポジウム「動画共有サイトに代表される新たな流通と著作権」が社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)主催で3月25日に開催された。
通商産業省(現:経済産業省)出身で、竹中平蔵元総務大臣の秘書官もつとめた慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授の岸博幸氏は、日本の国際競争力の観点から著作権制度の整備は必須だと訴える。
「日本経済はすでにピークを超えていて、10年以内にGDPで中国に抜かれるだろう。これまで経済力の大きさが日本の存在価値だったが、そういったものがなくなる中でいかに存在価値を出していったらいいのか。その答えは明らかにソフトパワーであり、その中心にあるのが文化だ。日本は世界的に見て文化レベルが高く、ここを強化する必要がある。そのためには、流通が重要になる。ネットという新しい流通をいかに生かすかを考えていく必要がある」(岸氏)
悪者探しから未来は生まれない
ネットを新しいコンテンツ流通プラットフォームとして育てていく上で、よく指摘されるのテレビ番組をはじめとした既存のコンテンツがなかなかネット配信されない問題だ。岸氏は「なぜコンテンツが増えないのか。著作権法を変えればコンテンツが流通するというわけではない。むしろ、契約を変えるとか、著作権者が受け取る報酬を増やすといったことで変えられる部分がある。にもかかわらず『著作権が悪い』といったように、すぐ議論が曲がってしまうことを懸念している」(岸氏)として、著作権法が槍玉にあげられる現状に意義を唱える。
「デジタル・コンテンツ有識者フォーラムが先日提案した『ネット法』や、自民党などが検討しているネット規制法はひどい。ISPやサイトの管理者に有害情報を削除しろという議論があるが、この法律が制定されたらデジタルメディアやソーシャルメディアと呼ばれる成長産業を殺すことになる。こういった規制は絶対にいけない」(岸氏)
「本質から外れた提案が多い。関係者が行う地道な交渉や調整に光が当たるべきだ」(岸氏)
現状の著作権制度のみを問題視する姿勢に疑問を唱えるのは、岸氏だけではない。日本民間放送連盟に長年勤め、現在は立教大学社会学部メディア社会学科准教授の砂川浩慶氏も「悪者探しからは何も生まれない」と苦言を呈する。
「著作権がネックになっていると言われてる問題でも、実際そうであることはあまりない。確かに、著作権は分かりにくく、著作権者の世界は魑魅魍魎が跋扈(ばっこ)する怖い世界だというイメージがある。しかし、人間と人間が話をすれば落としどころは必ずある。冷静に問題点を摘出した上で議論をすべきだ。悪者探しをしていても、議論は前に進まない」(砂川氏)
ネットでコンテンツホルダーは儲からない
コンテンツホルダーの立場からは、ホリプロ代表取締役社長COOの堀義貴氏が発言し、そもそもコンテンツがネットに流通すればすべてうまくいくという議論自体がおかしいとした。
「コンテンツが死蔵していて、流通しないのは悪いという理論がある。しかし、流通業界を見ても大量に良いものを仕入れて売れば儲かるという時代ではなく、プライベートブランドを作って自分たちで安くて良いものを作ろうという小売中心の考えになっている。そういった時代に、『コンテンツが流通すればみんな儲かる』という幻想を抱かせているのは問題だ」(堀氏)
「過去、(BS放送やCS放送など)色々なコンテンツ流通プラットフォームが登場し、その度に『これでクリエイターは仕事がたくさん増えて引く手あまたになる』と言われたが、実際にそんなことは一回もなかった。むしろ設備投資が増えてコストがかさみ、コンテンツは横並びの似たものばかりになっている。広告主は数字を求めるので、難しいものがなくなる。完全なデフレスパイラルに陥り、制作してすぐ流すという中で制作会社は疲弊し、コンテンツを作る人間がどんどん減っている。こんな夢のない世界はない」(原氏)
ネットに既存の放送番組が流れることで、放送局にどんなメリットがあるのか。堀氏は「すでに市場が飽和している中、ネットに過去のコンテンツが流れて一番困るのはテレビ局だ。すでに地方局を中心に経営が苦しい状態にあり、広告費を見るとラジオに至っては壊滅的な状態だ。テレビやラジオで減った広告費がネットに流れただけで、市場の中で食い合いをしている状況。一過性の感情で走るとこの国のエンターテインメントは潰れていく」と危機感をあらわにした。
ニコニコ動画の技術を開発、提供しているドワンゴの代表取締役社長、川上量生氏も同意見だ。「我々がテレビ番組をニコニコ動画に出してくれとテレビ局にお願いしても、自分が相手の立場だったら『出す理由がない』と思う。宣伝になるケースも限定的にはあるが、ビジネスとしてうまく成り立つ提案を現在のネット業界は出せていない。コンテンツを出してもらえるだけの理由を業界が出せていないのが一番の問題だ」として、テレビ局が番組をネット配信することには経済合理性がないとの考えを示す。
「コンテンツはフリーであるべき、という空気があり、それを理由にIT業界がコンテンツを無料で騙し取ろうとしている雰囲気がある」(川上氏)
コンテンツホルダーは魅力ある提案を待っている
コンテンツを配信したいと言ったところで、コンテンツホルダーにメリットがなければ動かない。魅力的な提案ができないのに文句だけを言っても始まらない。
JASRAC常務理事の菅原瑞夫氏は、「ライセンスという面では、マスメディアでもネットでも変わらない。ただ、経済的規模は圧倒的に違う。着メロの市場を考えてみると、登場から3年で市場規模は20倍になったが、その後4分の1にまで縮小した。単価が小さいビジネスで、(著作権者と配信事業者が)どう合意を取るかが問題だ。そこのビジネス提案があれば実験ができるが、そこが今、あまりない」と不満の意を示す。
また、堀氏も「新しい収入を得るために海外に出るという手がある。それなら今、アジアしかない。日本が憧れられている間に進出するべきだ。日本のテレビは世界で最も規制がゆるくて自由にコンテンツが作れ、技術も最高レベルだ。たとえば『各国語に翻訳してこういう風にやりたいから、この期間だけコンテンツを提供してほしい』と言われたら、我々も許可をするかもしれない。でも、そういったビジョンが配信事業者から出てこない。ただ『流させてくれ』というのではなく、ちゃんとした提案がほしい」と苦言を呈した。
ただ、ネットでどうコンテンツを収益化するかという点は、まだ誰も正解を持っていない。岸氏は「ネットでの事業が単体として儲かるか、と訊かれると、短期間では結論がでない。音楽市場を例に取ると、現在は色々な実験が行われている状況だ。たとえば音楽をネットで配信し、CDの価格はユーザーが決めるという実験があるが、これはコンサートや関連グッズできちんと収益を上げている。ネット配信はプロモーションという位置づけだ」と紹介。
「欧米を見ても、ネットだけで儲けているところはほとんどない。将来的には儲かるだろうから、いまのうちに実験をして儲かる方法を見つけるんだ、と考えている。研究開発投資に近い。これまでサービス産業は研究開発投資に縁がなかったが、技術の進化が早くて、しかもサービスの質に影響する以上、今のうちに実験をしておかなくてはいけないと考えている。今、何もしなかったら、ユーザーの変化に追いつけない」
ネットならではのコンテンツを
ネットにはネットならではの特性があり、古いテレビ向けのコンテンツをネットに流すよりも、ネットの特性に合ったものを作り出すべき、というのが登壇者の一致した見解だ。岸氏は「マスメディアは、広くコンテンツを流すもの。これに対して、デジタルメディアではコミュニティを作る部分が大事になる。オンラインビデオはテレビ局しか作れないのかといえば違う。たとえば米国では、地方新聞ほどカメラマンを教育して動画を撮影できるようにし、独自の動画を流している」と紹介。
「これまでマスメディアで流していたものをネットに出すだけでは、マスメディアのパイを奪うだけ。新しいメディアとして、新しい市場を作る努力がなければ、新しいメディアとしての地位は弱くなる」(岸氏)
また、川上氏も「ニコニコ動画でやるべきもの、提供すべきものは既存のものとは違うものにならないといけない。ネット配信向けの動画はテレビ放送向けに比べて制作予算が少なく、テレビの劣化コピーになってしまう」として、テレビと比べるだけではユーザーにとって面白いものができないとの考えを示した。
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