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日本のインターネット企業 変革の旗手たち:【ITmedia】
http://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/0801/01/news006.html
滞留時間の最小化がGoogleの目標
人工知能「HAL9000」に大きな影響を受けた青年は、今や時代を代表する企業の日本法人で代表取締役社長として、青年時代の思いをビジネスに生かしている。
2008年01月02日 00時00分 更新
映画『2001年宇宙の旅』に登場する人工知能「HAL9000」に大きな影響を受けた青年は、人工知能の技術を実用の段階にまで引き上げたGoogleへと身を投じた。Google日本法人の代表取締役社長である村上憲郎氏に、Googleの強みと、人材に対する考え方を聞いた。
「コンピュータサイエンティストは、エレガントな方法を考える一方で、潤沢なコンピュータリソースを常に欲している。Googleはそれを提供できる。それが人材の集まる理由」と村上氏
ITmedia 1998年にGoogleが創業してまもなく10年が過ぎようとしています。この10年で、すでにGoogleを知らない人はいないと思われるほどの成長を遂げましたね。
村上 日経BPコンサルティングが2007年4月に公開したブランド評価調査によると、ブランド総合力でわたしどもはトヨタ自動車に次ぐ2位となれました。ただ、トヨタであれば、それこそ知らない人はどこを見てもいないでしょうが、その点まだまだグーグルはそれほど知られているとは思っていません。まだまだやるべきことは多いと感じています。
人工知能の技術を実用化した仕事に携われる喜び
「Googleに加わっていただいた人材をより優れたものにしていくことが、結果として彼らがGoogleで働いていただける期間、Googleにとって最大の貢献をしていただける」ITmedia 村上さんがグーグルの代表取締役社長として入社されたのが2003年4月のことでした。日立電子にはじまり、Digital Equipment Corporation(DEC)、インフォミックス、ノーザンテレコム(現ノーテルネットワーク)、ドーセントとキャリアを重ねてきてのグーグル入社でした。Googleのようなインターネットビジネスとご自身はどう結びつくところがあったのでしょう。
村上 Googleからお話をいただいたときは、インターネットビジネスというよりは、Googleの技術で重要な部分を占めている人工知能の技術が実用の段階に達しているという事実に魅力を感じました。
わたしは過去に、DECの米国本社にあった人工知能技術センターで人工知能の研究に従事していたり、通商産業省(現経済産業省)が立ち上げた国家プロジェクト「第5世代コンピュータプロジェクト」に携わっていたことなどがあります。当時は、人工知能の形成という点では十分な成果を上げるまでには至りませんでしたが、今日、Googleが提供しているGoogle NewsやAdSenseをはじめとするサービスの核となる部分には、第5世代コンピュータで実現しようとした人工知能の技術が内包されているわけです。思い入れのある人工知能の仕事に携われるということがわたしにとってのGoogleの魅力でした。
ITmedia 米国のジャーナリスト、デビット・モシュラが1997年に出版した「覇者の未来」では、IT業界のパラダイムシフトを「システム中心」「PC中心」「ネットワーク中心」「コンテンツ中心」の4つで表しました。今はコンテンツ中心の世界ですが、その中でGoogleは中心に位置しているように思います。
村上 コンテンツがきわめて重要な時代になっているのは間違いないですが、わたしたち自身はコンテンツホルダーではなく、検索の企業です。Googleはあくまで、ユーザーと情報(コンテンツ)との間を結ぶブリッジ(橋渡し)役をする会社なのです。Googleのミッションステートメントである、「世界のあらゆる情報を整理(インデックス化)し、アクセス可能にする」は、ネット上の情報についていえばある程度整理できたのかもしれません。しかし、人類の知の遺産というのは圧倒的に書物として集積されています。その意味では世界の情報は依然として整理されていないことになります。それらをオーガナイズして迅速かつ的確に検索できるようにするにはまだまだ道半ばでもあります。
Googleの潤沢なコンピュータリソースはそれ自体が魅力的なもの
ITmedia 結局のところ、Googleの強みはどこにあるのでしょうか。
村上 Googleの強みはコンピュータサイエンス全般にわたる技術にあると思います。では、なぜコンピュータサイエンスで優秀な人材が集まってくるのかについてですが、これは、Googleの持っている潤沢なコンピュータリソースに魅力を感じるからではないでしょうか。
コンピュータサイエンスに携わる人材というのは、講義したり、論文を執筆したりするより、実際に作る方に興味を持つ人たちが多いのです。そして、彼らが取り組む問題の中には、膨大なコンピュータリソースがあれば解けてしまう問題というのもあるわけです。コンピュータサイエンティストは、コンピュータリソースが乏しいときは、エレガントな方法を考え、しかしその一方で潤沢なコンピュータリソースを常に欲しているものです。
「つまり何なのか」ということを自らに問い続けて自己研さんを積み重ねてほしいと村上氏ITmedia Googleは人材についてどのように考えているのでしょうか。
村上 グーグルのような外資系の企業では、当然のように終身雇用を保障することはできません。わたしまたはグーグルが社員に対してできるのは、「終身雇用されるための力」をつけようとしている社員に、そのため機会を生み出してあげることです。
わたしから将来を担う人材にアドバイスを贈るとすれば、「つまり何なのか」ということを自らに問い続け、核心的な原理をつかむための心がけを常に持っておくべきである、ということでしょうか。一番いいのは、大学に入ったら、自分が選んだ学問の分野で、指導教官に必読書を尋ね、それを熟読することです。さまざまなことに応用可能な原理をつかむための数冊というのは各分野に必ず存在する。それを読んで欲しい。ライトノベルを読んでいる暇はありません(笑)。
わたしはたまの休日も読書で過ごしてしまうほどの読書家ですが、最近読んだ中では、慶應義塾大学理工学部機械工学科教授の前野隆司氏が筑摩書房から出版されている、『脳はなぜ「心」を作ったのか―「私」の謎を解く受動意識仮説』をお勧めしたいと思います。人工知能の最終目的は意識体を作ることにありますが、同書では、意識が受動的なものであるという仮説を紹介しています。意識が上流ではなく下流にあるのだというこの理論には考えさせられるところがあります。
ITmedia 1、2年先のグーグルの目標はどういったものでしょう。
村上 日本ではヤフーが非常にいい仕事をしています。ヤフーは、いうなればデパートです。ユーザーには可能な限り自分たちのサイトにとどまってほしい、つまり、滞留時間を最大化するためのサービスの提供がなされています。一方でGoogleは、ユーザーにとって本当に必要な情報の在りかを瞬時に指し示すことで、滞留時間を最小化することを目標としています。よくGoogleはYahoo!と競合しているように言われますが、実際にはまったくビジネスモデルが異なるわけです。
3年ほど前まで、ヤフーの検索エンジンはGoogleのものだった時期があり、検索エンジンとしての国内シェアはグーグルが圧倒的でした。その後、ヤフーが自前の検索エンジンに切り替えるなどしたことで、現在ではグーグルとヤフーで40:50といったところでしょうか。わたしとしては、全面的に競合しているつもりはないのですが、検索するという機能だけを見たときに、そこの部分だけは勝ちたいと考えています。できればこの割合は逆転させたいですね。