★阿修羅♪ > IT10 > 285.html ★阿修羅♪ |
Tweet |
http://japan.zdnet.com/sp/interview/story/0,2000056426,20361733,00.htm
社内で自ら実践、コスト削減でOpenOffice.orgへの置き換え狙う--アシスト
OSSの魅力は、そのコストの安さにあると言える。それはデスクトップのオフィスソフトでも同様だ。これまで見過ごされがちだったオフィスソフトでもコスト削減ができるとして、アシストでは「OpenOffice.org」の支援サービスを提供している。
筆者など : 田中好伸(編集部)
チャネル名 : ZDNetスペシャル : インタビュー
オープンソースソフトウェア(OSS)というと、Linuxをはじめとしてサーバ系ソフトの動きに目が行きがちだ。しかし、OSSはもちろん、クライアントPC(デスクトップ)系ソフトにもある。その代表格が、オフィスソフト「Microsoft Office」の対抗馬となりつつあると言える「OpenOffice.org」だ。
独立系ソフトベンダー大手のアシストでは、そのOpenOffice.orgの「支援サービス」を6月から提供している。このサービスは(1) OpenOffice.orgへの導入・移行実現に関する評価を支援する「診断(アセスメント)サービス」、(2)導入・移行に向けた作業計画立案を支援する「導入・移行支援サービス」、(3)Microsoft OfficeからOpenOffice.orgへの移行に焦点を当てた研修サービス、(4)FAQやTips、新バージョンやパッチなどの情報提供と専任スタッフによる電話やメール、ウェブでの回数上限なしのヘルプデスク・サービス――の4つからなっており、それぞれ単体のサービスとしても提供が受けられる。
・700台をOpenOffice.orgに置き換え
同社の今回のサービスで注目すべきは、提供するにあたり同社内でMicrosoft OfficeからOpenOffice.orgへの移行を実施しているという点にある。同社にはクライアントPCが約1100台あるが、そのうちおよそ 700台を、この1月にOpenOffice.orgに置き換えているのである。
同社でOpenOffice.org関連サービスを担当する、支援統括部長の神谷昌直氏は、「アシストには、自分たちで使っていないものをお客様には提供できないと経営者の方針があって、今回もその方針に従った」ものと説明している。今回のOpenOffice.orgへの移行も特別というわけではなく、「Oracle Database」(Oracle DB)やビジネスインテリジェンス(BI)ツールの「WebFOCUS」、営業支援(SFA)系ツール「ウェブハロー」や統合運用管理ツール「JP1」も、社内で実際に運用しているという。
移行作業を開始したのは2006年9月。この時は、OpenOffice.orgに移行するにあたり、まずは社内のMicrosoft Officeなどを含めたデスクトップの資産がどうなっているか現状を調査した。
この調査では、全社対象にしてそれぞれの部門でMicrosoft Officeが具体的にどのように使われているのか、また、基幹系や情報系などのサーバシステムとどのように連携しているのかなどの利用実態や Microsoft Officeのライセンスの保持状況や契約形態、などを調べている。また、並行して本社の営業や事務、技術の各部門と段階的に OpenOffice.orgを導入し試用を開始し、利用していく上で機能面や操作性においての課題の洗い出しを行った。
課題を洗い出した後で神谷氏を中心としたグループでは、移行する際にどのような対策を取っていけばいいのかを、11月から12月にかけて検討を行っている。そして検討し終えた後の2006年末から年明けの1月にかけて、約700台を対象にした実際の移行作業を展開している。
この1月から移行対象となったクライアントPCには、「猶予期間として」(神谷氏)Microsoft OfficeとOpenOffice.orgの2つが同時に稼働していた。そして、マイクロソフトの新OSである「Vista」の発売日翌日となる1月 31日、移行対象のPCからMicrosoft Officeが一斉にアンインストールされたのである。
・クリティカルな問題は発生せず
現在ダウンロードできるOpenOffice.orgは2.3.0だが、以前よりはMicrosoft Officeとの互換性も高くなっている。とは言え、アシストでOpenOffice.orgに移行したことで問題は生じなかったのだろうか。支援統括部公開ソフト推進部テクニカル・プランナーの簑輪哲彦氏はこう説明する。
「特に心配した基幹システムとのシステム連携部分で利用しているAccessについては、システムの変更をしないですむように、無償のランタイム版をクライアントPCに導入し使うことで対応した。しかしランタイム版を使うことでAccessからCalcに出力する際に数種類のレポートにおいて一部文字化けを起こしました。これはVBのDOコマンドクエリをExcel形式で出力というコマンドを利用していたことで発生していることが分かり、データの取り出し方を変更することで解決できた」
社内でのシステム連携での問題は、このほかに目立ったものがなく、そのほかの基幹系システムとの連携では、現場でテストして問題が起きないことを確認していると簑輪氏は説明している。
システム連携という点でクリティカルな問題はなく、あったとしても業務に支障をもたらすような問題には至っていない。しかし、オフィスソフトは、サーバアプリケーションとは違い、エンドユーザーの操作感が生産性を大きく左右することになる。使い慣れたMicrosoft OfficeからOpenOffice.orgに移行したことで、クレームを上げる社員はいなかったのだろうか。
「社内ユーザーには、“とにかく使ってください”として、具体的な手当てはしませんでした。というのは、OpenOffice.org を使っていく上で、どういったところに対して不満を持つのか、機能なのか操作性なのか課題を出してもらうことが目的だからです」(簑輪氏)
社内ユーザーからの不満を実サービスに活用
社内ユーザーからの不満を集約・検討することで、導入支援サービスを始めたときに、顧客企業のエンドユーザーから上がる不満がどんなもので、どのような対応をなすべきかを対策を練っていたのである。また、実サービスへの展開をより良く進めていくために、同社では社内で導入前の10月と導入後の3月にアンケート調査を実施している。
1回目のアンケートでは確かにクレームが多かったものの、2回目のアンケートでは、「“こういうところが分からない”や“こういう機能の使い方を教えてほしい”といった回答があり、機能や操作性に対する疑問がより具体的になった」(支援統括部公開ソフト推進部マーケティング・プランナーの小川知高氏)という。そうした社内での不満や疑問を集めることで、その後の実サービスにおける企業ユーザー内での対策を講じられるようになっているのである。
社内での一般ユーザーの不満や疑問を解消すべく、同社はOpenOffice.org専門のヘルプデスクを設置しており、そうしたヘルプデスクには、Microsoft OfficeとOpenOffice.orgの違いに関する質問、あるいはOpenOffice.orgが搭載している機能に関する質問などが寄せられている(なお、このOpenOffice.orgについてのヘルプデスク設置が、現在のヘルプデスク・サービスにつながっている)。
またこれらのアンケート調査では、エンドユーザーがオフィスソフトをどのように使っているのかを知ることができるようにもなっている。「Microsoft Officeにはこういう機能があったのに、OpenOffice.orgには存在していない」という不満が出てきたときも、実際の「OpenOffice.orgには同じ機能が備わっていた。ただ、そのことをそのユーザーは知らなかっただけ」(神谷氏)といった具合だ。
「仮にMicrosoft Officeに100の機能があるとしても、実際にエンドユーザーはそのわずかしか使っていない。だから、OpenOffice.orgに搭載されている機能を知れば、エンドユーザーはOpenOffice.orgを使いこなせるようになっている」(同氏)
運用の枠組みを決める
企業は、内部だけで文書をやり取りしているわけではない。もちろんそれはアシストでも同様であり、業務を行う以上、外部とOffice 専用の(文書なら.doc、表計算なら.xls、プレゼンテーションなら.pptといった具合に)ファイル形式をやり取りせざるを得ない。
ここでのアシストの解決策はこうだ。社外から送られてくるMicrosoft OfficeのファイルはそのままOpenOffice.orgで参照できるので問題ない。また、社外へデータ提供する場合は OpenOffice.orgに備わっているPDF出力機能を使いPDF形式で提供することを基本としているが、先方で加工できる形式を要求される場合は、Openoffice.orgで作成したファイルをMicrosoft Officeのファイル形式で保存し、マイクロソフトが無償で配布している閲覧ソフト「Microsoft Office Viewer」を利用して内容を確認してから送るようにしている。
同社では、こうした「運用の枠組みを決めることで、OpenOffice.orgを導入してから業務に支障が出ているといった大きな問題は出ていない」(簑輪氏)のである。
この運用の枠組みは徹底されたものとなっており、もしMicrosoft Officeを自分のPCにインストールしたいのなら、「申請書類を提出、上長と担当役員の承認を得た上でMicrosoft Officeのライセンスを渡す」(神谷氏)という体制になっている。しかも、エンドユーザーが秘密裏にMicrosoft Officeをインストールすることもできない。すべてのクライアントPCは、「資産管理システムで管理されており、こっそりとインストールされた Microsoft Officeも把握することができる」(簑輪氏)からだ。
アシストがOpenOffice.orgを導入したのは約1100台あるうちの約700台だ。残りの400台ではMicrosoft Officeが利用されている。これは、同社がOracle DBやJP1の販売・サポートを展開しているためだ。これらのミドルウェアは、Microsoft Officeとの連携機能を活用しているものが多く、ユーザー企業にサポートをきちんと提供するためには、Microsoft Officeの環境を残しておく必要があるからだ。
ライセンス削減というメリット
このように社内で実サービスにおけるノウハウを蓄積した上でアシストでは、OpenOffice.orgへの導入支援サービスを開始してからの数カ月の間に、具体的な実績を残しているという。
「企業全体の規模で言えば、数百人から数万人といった企業で段階的な導入が始まっています」(神谷氏)
そうした企業は、「ライセンスのコストを削減したいという目的をはっきりと明示してきています」(同氏)という。そうした企業の目的意識を神谷氏はこう説明する。
「OSにしてもオフィスソフトにしても、メーカー側のバージョンアップに対応しなくてはいけないと思っていた。しかし、バージョンアップしたことで使えるようになる機能というのは、価値があまりないというのが実情。そうした価値のない、意味のないバージョンアップはあまりしたくないというのが、企業ユーザーの本音です」
意味のないバージョンアップはしたくないという企業が考えているのは、システムにかかるコスト、「特にクライアントPC周りに関連するモノの購買で選択肢が存在しないのはおかしい」(同氏)ということでもある。こうした考えの企業は大企業でも同様だ。
「今、引き合いをもらっている企業の中には、東証一部に上場しているような大企業もいます。大企業は保守的なところがあるだろうから、あまり引き合いがないのではと思っていただけに、意外に思っています。逆に考えると、数千人や数万人といった従業員を抱えている大企業ほど、コスト削減効果が大きいので、そうした考えは当然といえば当然なのですが」(同氏)
・目に見えなかったオフィスソフトのライセンス
企業の経営層が求めるコスト削減圧力は、至る所に及んでくる。それは、サーバを中心にした情報システムでも同様だ。情報システムの場合、かかる金額が大きいだけに、どうしても目につきやすいがために、そこに対するコスト削減圧力は大きく感じる。
だが、経営層のコスト削減圧力は社内のあらゆるところにかかってくる。その圧力が、半ば備品と同じように見られてきてもいるOSやオフィスソフトにかかっても何の不思議もないのだ。これまでは、「情報システム部門がクライアントPCのOSやオフィスソフトの主管になっているところが少ない」(同氏)だけに、そうしたことはあまり目に見えなかっただけと推測できるだろう。
OSSがもたらすメリットはさまざまあるが、その中でもわかりやすいのがコストの安さだ。OpenOffice.orgによるコスト削減は、その最たるものだと言えるだろう。アシストがOpenOffice.orgでビジネスを展開しようとしたのも、ここにある。絶え間ないコスト削減圧力という流れの中で、オフィスソフトも同様にコストを削減できるのはないかと早晩誰もが気付くことになる。アシストが狙ったのは、このポイントにある。
こうした同社の狙いは、サービス展開前の移行計画で計算されている。というのは、移行計画にあたり、同社ではどれだけのコストを削減できるかを綿密に計算しているからだ。
・3年で1700万円を削減可能
同社では、Microsoft Officeを2009年6月にライセンス更新する予定だったのだが、もし250本まで削減できた場合、3年で1700万円のコストダウンを見込めるとの試算を明らかにしている。一般的な企業であれば、同社のようにユーザー企業へのサポートにMicrosoft Officeの環境を残す必要はない。さらに大企業であればあるほど、コストダウンの幅が大きくなることは容易に想像がつくだろう。
先に神谷氏が説明したように、オフィスソフトに対するコスト削減は同社の想像以上となっている。それは、同社が主催したユーザーイベントで行った OpenOffice.org移行に関するセッションでの事後アンケートにも表れているようだ。
「なぜOpenOffice.org移行に関するセッションに参加したのか、という問いに対して、約2割の方が『部門や経営のトップの指示でOpenOffice.orgについて調べてくるように言われた』と答えています。それだけ多くの企業がOpenOffice.orgに潜在的に興味を抱いているということに驚かされました」(小川氏)
小川氏が言う「約2割」という数字を高いのか低いのか、どう見るべきかは難しいところだが、その興味の高さは確かに驚きを持って見るべきだ。「以前であれば、オフィスソフトの置き換えは絵空事でしかなった」(神谷氏)のは事実だが、今や「OpenOffice.orgの登場によって、それも現実的感覚としてとらえられるようになっている」(同氏)のも、また事実と言えるだろう。
「標準規格」という“追い風”
コスト削減圧力という“追い風”が吹くなかで、OpenOffice.orgはそのプレゼンスを高めつつあると言えるが、さらにもう一つの追い風が現れてきている。政府の情報システム調達基準である。
総務省や経済産業省などの政府機関は、情報システムの調達基準として、「オープンな標準として国際規格」を求めるようになるとされている。ここで言う“オープンな標準”とは国際標準化機構(ISO)や国際電気標準会(IEC)などが定めた標準規格のことだ。
ISOやIECが認定したオフィスソフトのファイルフォーマットの標準規格が、OpenOffice.orgがネイティブにサポートする「OpenDocument Format」(ODF)である(Microsoft Officeでも対応できないことはない)。ODFを巡る動きがどうなるかは予測のつかないところだが、ODFをネイティブにサポートする OpenOffice.orgの位置付けは着実に変わってきているのは確かだろう。
ここまで見てきて分かるように、OpenOffice.orgのプレゼンスは確実に高まりつつある。LinuxがOS分野での選択肢であり、PostgreSQLがDB分野での選択肢であるように、OpenOffice.orgもオフィスソフト分野での選択肢になりつつあるということができる。
−−−−−−−−−−−−−
OpenOffice.org日本ユーザー会
http://ja.openoffice.org