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新型新幹線「N700系」の“顔”を生んだ「遺伝的アルゴリズム」の秘密
http://www.asyura2.com/07/it10/msg/135.html
投稿者 たけ(tk) 日時 2007 年 7 月 21 日 18:31:21: SjhUwzSd1dsNg
 

http://arena.nikkeibp.co.jp/article/column/20070620/1001047/

新型新幹線「N700系」の“顔”を生んだ「遺伝的アルゴリズム」の秘密【その1】

尼崎太郎の科学大好き!

 2007年7月1日デビューの新しい新幹線「N700系」はすごい!

 たとえば、電力消費量を700系より19%も削減するなど、環境性能が大幅に向上。人間工学に基づいて設計されたシートで乗り心地も最高。そして、これまで時速250kmでしか走れなかったカーブでも、車体を台車からほんの少し持ち上げ、車体をカーブの内側へと傾けることで時速270kmにスピード・アップ! 東京〜新大阪間の所要時間を5分も短縮した!!

 だが、そのスピード・アップこそが、新幹線に新たな難題を投げかけた。そして、その超難題をクリアすべく、N700系の選んだ答えが「“顔(先頭形状)”の形を進化させること」だった。あの“顔”には、科学的な理由(わけ)があった。その謎に科学大好きな尼崎太郎が徹底的に迫った!

「エアロストリーム」から「エアロ・ダブルウィング」へ!
N700系と700系では“顔つき”がこんなに変わった!!

 2007年7月1日、ついに新しい新幹線がデビューする。ずいぶん前から話題沸騰で、700系から進化したN700系のさまざまなスペックが各種メディアで公開されているが、中でもやっぱり1番気になるのは、あの先頭車両の形状、すなわち“顔”だ。

・・・

http://arena.nikkeibp.co.jp/article/column/20070620/1001047/?P=3

改めてN700系の“顔”について調べてみた。

 やっぱり、ちゃんとありましたよ。

 『なになに……航空機の開発に用いる最新の空力シミュレーション(遺伝的アルゴリズム)を鉄道車両として初採用……なるほど……高速走行に最適な空力特性を持つ新しい先頭形状を開発……。あれ?てっきり〈もっと速く走るために、精悍(せいかん)な顔つきになりました〉ってなところかと思ってたのに、そうじゃないの?それに、この〈遺伝的アルゴリズム〉って、何?……』

 ネットの調査だけでは、もう限界だった。

 “科学大好き”な尼崎太郎としては、N700系のあの先頭形状を実際にデザインした技術者に会って『なんでドロンからブロンソンに変えはったんですか? そこには、どんな科学的根拠があったんですか?』と、直球で疑問をぶつけるしかなかった。

 そして、N700系の先頭形状の開発グループの中心人物に取材した尼崎太郎を待っていたのは「より速く走るためにあの“顔”になった」ではなく「速く走れるようになったからこそ〈遺伝的アルゴリズム〉であの“顔”に進化する必要があった!」という驚くべき事実だった。

http://arena.nikkeibp.co.jp/article/column/20070628/1001257/

 てっきり「速くなるため」に精悍(せいかん)な顔付きになったのかと思いきや、そう単純な話ではなさそうだった。そこで、この「エアロ・ダブルウィング」の開発者を直撃すべく、東京駅に隣接する東海旅客鉄道株式会社(JR東海)を訪ねた。

 取材に応対してくれたのは、まさに今回の“顔”を生み出した設計グループのリーダー、新幹線鉄道事業本部車両部車両課課長代理の成瀬功さんだった。

 早速、「今回デビューする新しい新幹線“N700系”があのような形に進化しなければならなかった理由とは、いったい何ですか?」とたずねると、成瀬さんはこう答えた。

 「高速で走る新幹線には、空力的に求められるスペックというのがあります。走行時の空気抵抗を減らすというのもあるんですけれど、新幹線の先頭形状に関して特に重要なのは『微気圧波』の問題です」

 新幹線が高速走行でトンネルに突入すると、一瞬、空気が圧縮される。トンネル内では空気が拡散しないので、この圧縮波は衝撃波のようになり、トンネルの中を音速で伝わり、出口の部分で開放されたとき、大きな振動や音を発生させる。この現象のことを「微気圧波」あるいは「トンネル微気圧波」と呼ぶのだそうだ。

 「要は、空気鉄砲ではないですけれど、新幹線がトンネルの中に入ると、その先の出口の方から『ポンッ』と音が出る。この音がもし大きければ、周辺地域の住民のみなさんにとって騒音となります。そこで、『この音をできるだけ抑えるためには、先頭形状をどんな形にすればいいか』という理想の形状を探し出すのが、この『エアロ・ダブルウィング』開発の最大のミッションとなったのです」(成瀬さん)

http://arena.nikkeibp.co.jp/article/column/20070628/1001257/?P=2

 現在の700系では、あの「カモノハシ」のような顔によって、この微気圧波によるトンネル出口での騒音がほとんど聞こえないくらいに抑えられているという。当然、次世代型新幹線N700系にも、700系と同じ「騒音のなさ」が要求されるわけだが、そこには1つの問題があった。

 成瀬さんが言う。

「微気圧波は、おおまかに言って“速度の3乗に比例”します」

 さ……3乗!……ってことは、時速10kmから20kmに速度を上げたときには、2倍の3乗だから……8倍!! じゃあ、これまでの700系の最高速度が250kmのところをN700系は270kmに上げたということだから、1.08倍の3乗で……約1.26倍!これまでの25%以上も微気圧波が増える計算だ!!

 「微気圧波は速度の3乗に比例するので、少なくとも現状非悪化、つまり、現状よりも悪くしないことが求められていたのです。空力的な微気圧波の騒音問題は、速度が上がっても悪くしてはいけませんよ、ということです」(成瀬さん)

http://arena.nikkeibp.co.jp/article/column/20070628/1001257/?P=4

 700系よりも後ろまでとがらせるのもダメ、700系よりも先へ伸ばしてとがらせるのもダメ……。

 「でも、速度が上がった分の微気圧波は抑えなければいけない……という非常に制限の多い開発でした」(成瀬さん)

 空気の抵抗を減らすための“先頭形状”に使える部分の長さも700系と同じ、先頭車両全体の長さも700系と同じ……ってことは、変えていいのは“顔の形”だけってこと?

http://arena.nikkeibp.co.jp/article/column/20070705/1001439/?P=2

 成瀬さんが“遺伝的アルゴリズム”を駆使して「エアロ・ダブルウィング」という結論にたどり着いたのは、まさにこの技術開発部のころだった。

 「700系の先頭形状の開発でも『トンネル微気圧波を小さくする』という目的がありました。その際、『断面積の増加割合を一定に変化させる先頭形状が、最も微気圧波を低減できる』というのが、当時の我々の知見、つまり、我々の知っていた最高の技術でした」

 そう成瀬さんが語るように、微気圧波を抑えるための新幹線の先頭形状を設計する場合、最初に考えるのは“顔の形”そのものズバリではなく、とがらせ方を「先端から後部まで、どれくらいずつ断面積を増やしてゆくか」という数値に置き換えて研究するのだ。

 例えば、新幹線の先頭形状を先端から10cmのところで輪切りにしたときの断面積がA平方センチメートル、20cmのところで輪切りにしたときの断面積がB平方センチメートル、30cmのところがC平方センチメートル……と続いてゆくとすると、このAからB、BからC、CからDという断面積の増加割合の中で、最も微気圧波が抑えられる増加割合の値を求めるのである。

 そして700系の開発の際、「B‐A=C‐B=D‐C」という具合に、一定の割合で断面積が増加していくパターン、すなわち「増加割合が一定」のときに、最も微気圧波を抑えられると結論づけられたという。

 「ですから、700系の先頭形状は、先端から後部への断面積が一定の増加割合で増えるように設定し、その数値にのっとった上で、中に入れなければならないものを考慮しながら三次元的にデザインしました。その結果、あの『カモノハシ』のような先頭形状になったのです」(成瀬さん)

 逆に考えれば、なんだか複雑な曲面で形作られているように見えるあの700系の“顔”も、先っぽから順番に輪切りにしてゆくと、断面積に限って言えば、一定の比率で増えてゆくようになっているというわけだ。

http://arena.nikkeibp.co.jp/article/column/20070705/1001439/?P=3

 なるほど、やっぱり新幹線の“顔”には、ちゃんとした科学的理由があったのだ。

 でも、だったら余計に、もう新幹線の“顔”をとがらせる別の方法なんて、考えられなかったんじゃないの?

 「そう。ですから、『じゃあ、どうしようか?』って、いろいろ試行錯誤を始めたんです。微気圧波を変えるためには、先頭形状の断面積の増加割合を変えるしかありません。つまり、増加割合を一定ではなくすこと、言い換えれば、グラフに示された断面積の増加割合の線を、一直線にするんじゃなくて、どこかを凸凹(デコボコ)にするしかない。そこで『700系の断面積の増加割合のグラフのどこらあたりを凸にしたり、あるいは凹にしたりしても、微気圧波に影響が出にくいのかな?』っていうことを試し始めたのです」(成瀬さん)

・・

 「じゃあ、全体的に最適なデコボコは何なの?……というところで“遺伝的アルゴリズム”が出てくるわけです」

 おぉ、ついに真打ち登場ですね! で、その“遺伝的アルゴリズム”って、何なのですか?

 「N700系の断面積の増加割合の直線グラフのどこをどういじればいいのか考えるとき、変える場所は1個所でいいのか、2カ所でいいのか、その個所をどれくらい変えるのかなど、変え方にはさまざまなバリエーションがあります。ですから、遺伝的アルゴリズムを使って、コンピューター上で、新幹線の先頭からの断面積を順番に変えてシミュレーションしていくのです」

 ふむふむ、それで?

 「増加割合のグラフで言うと、ある所は元のグラフよりも低くして、ある所は高くするというふうに、条件を変えていく。こっちが下がってこっちが上がると良くない。じゃあ、こっちをもう少し下げないようにしてみたら?……というふうに、どんどん“自動的に”条件を変えながらシミュレーションをくり返すのです」

 なるほど、その“遺伝的アルゴリズム”というルールにのっとって、コンピューターが「こんな増加割合のグラフの場合はこれだけの微気圧波になる」という値をシミュレーションしてくれるわけですね。

 「もちろん、遺伝的アルゴリズムとはいっても無制限に試せるわけではなく、例えば、先頭形状の先の方では連結器を収納できるだけの面積が必要だし、運転席の部分では最低限これだけの面積が必要など、新幹線の先頭車両としての設計上で必要な条件は前もってプログラムされています」

http://arena.nikkeibp.co.jp/article/column/20070705/1001439/?P=4

■えっ、“遺伝”のポイントは「突然変異」だって!?

 ふ〜む、だんだん分かってきたぞ。

 「そして、最も重要なのは、遺伝的アルゴリズムの最大の特徴の1つである“突然変異”です」

 と……突然変異?

 「例えて言うなら、シミュレーション中に『たまには逆のことをやってみよう!』ということが起こるのです。N700系の開発の場合だと、例えば2カ所のうちの前方の増加割合を上げ、後方の増加割合を下げていくにつれ微気圧波が抑えられていったときに、なぜか突然、『逆に前の増加割合を下げて後ろを上げてみよう!』というのも試してみてくれる……そんな感じでしょうか」(成瀬さん)

 最先端の科学理論のくせに、そんな「ついでに逆もやってみよう!」だなんていうチャランポランなことでいいのでしょうか?

 「いまのN700系を100点だとすると、突然変異のない解析方法で開発していたら、95点くらいにしかならなかったかもしれないですね……」

 そ……そうなんですか!? チャランポランだなんて言って、遺伝的アルゴリズムさん、ごめんなさい。

 ところで、そのシミュレーションは何百回くらいやってみたのですか?

 「5000パターンほどやりました」

 そうですか、5000パターンね……って、そ、そんなに!?

 「そして、最適と考えられた断面積の増加割合が、これです」

 そう言って、成瀬さんは1つのグラフを尼崎太郎の前に差し出した。

http://arena.nikkeibp.co.jp/article/column/20070705/1001439/05.jpg【拡大表示は画像をクリック】

 「先の方がボコンとなっていて、その分、そこから後ろの断面積の増加割合の勾配がなだらかになっているでしょう?このような断面積の増加割合にすることで、微気圧波のピークは分散されて、トンネルの先から出る音も、700系のときとほとんど変わらない程度にまで抑えることができたのです」(成瀬さん)


http://arena.nikkeibp.co.jp/article/column/20070705/1001439/?P=5

■断面積の増加割合は決まった。次はデザインだ!

 あれ? 断面積の増加割合の話は分かったけれど、それじゃあ、なんであのユニークな「エアロ・ダブルウィング」の顔つきになったの?

 「この理想的な断面積の増加割合と、運転席の視野や中に収納しなければならないものに必要なスペースの確保とを併せて考えた結果、あの先頭形状になったんですよ」(成瀬さん)

 例えば、運転席には運転手と指導する人など、4人の乗務員が乗れるスペースを確保しなければならない。

 また、ほかの車両でけん引しなければならないケースもあるので、N700系の先頭にも連結器などの装置の入る空間が必要になる。

 それに、運転手から停止目標が見えなくなるなど、必要な視野をさえぎるような形状もNGだ。

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